新恐竜秘宝館

Vol.44 「滄龍再見」

秋の訪れとともに「JW2炎の王国」フィギュア地獄も一段落。前回危惧したとおりマテル社の「ブルー」はコンプリート。おまけにJPフィギュア恒例の「映画には登場しない恐竜」にまで手を出し、買い残しは若干あるもののほぼ目標達成!という事で、今回はそれらをご紹介して、過ぎ去りし夏と消えていった貯金に思いをはせようというのですがその前に、まずはあのメガロドンです。

映画「MEGザ・モンスター」観てきました。
恐れていた(ちょっぴり期待もしていた)お馬鹿サメ映画ではありませんでした。ストーリーは程良く原作を取り入れ、しかも原作よりはるかに洗練されています。ジョーズ以来のサメ映画の数々のお約束シーンは踏襲していますが、過剰な血みどろシーンはあまり無く、これはメガロドンの口があまりに大きすぎ、人間など噛みちぎられる前に呑み込まれるのだななどと勝手に納得。でも一部サメ映画ファンには物足りないかもしれません。メガロドンのCGも良く出来ていて巨大さが伝わってきます。色や皮膚感も深海ザメっぽく、ただの巨大ホホジロザメではない所が良い。でも驚いた事にほぼ中国映画でした。主人公の「レスキューダイバー」ジョナスの脇を固めるのは中国人の海洋学者とその勇ましくて綺麗な娘。クライマックスシーンでメガロドンに襲われるビーチは、ビックリする程の人で埋め尽くされた中国の海水浴場です。

殆ど忘れていた1997年の原作小説に目を通してみました。主人公ジョナスは「古生物学者」で、海洋学者と娘は日本人。この20年間で強大化した中国と影が薄くなった日本の力の差を再認識させられましたが、そんなことより、原作にはこんなビックリシーンがあるりました。

小説のプロローグ、海辺で群れをなしているシャンタンゴサウルス(原文のまま)に一匹のティラノサウルスが襲いかかります(中国と北米の恐竜が一堂に…って、いったいここは何処?)。山東竜は沖に逃げそれを追ったティラノは砂に足を取られ動けなくなります。そこに大胆にも7000万年前から棲息していたという設定のカルチャロドン(原文のまま)・メガロドンが襲いかかり、あわれティラノは食べられてしまいます。追い打ちをかけるように次の章、ジョナス教授が講演会でメガロドン生存説を主張、「4000万年前の大量絶滅を生き抜き10万年前に絶滅したとされるメガロドンがマリアナ海溝に棲息している」とのたまい、原作者の無知さをさらけ出しています。(*映画のセリフではメガロドンの棲息期間は修正されていた様です。)

それでも…ティラノ対メガロの時空を超えた戦いはスクリーンで見たい。メガロドンは無理でも似たようなネズミザメ類の巨大種は白亜紀の海でモササウルスと覇権を争っていたわけで、絵的には問題ないので「MEGⅡ」でぜひ実現を!

映画のフィギュアは有難い事に無し。あったらまた散財するところでした。メガロドンフィギュアはいくつかありますが、ホホジロザメと見分けがつきにくいので、ダイバー人形を並べてみました。
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(画像1)の上はフェバリットのメガロドンと、前々回海ワニの所でチラと触れた「リオプレウロドン・ジオラマ」から借りたダイバー。下はそのジオラマで右下にいるのが海ワニ、メトリオリンクスです。一目でメガロドンとわかる顎の模型は新秘宝館Vol.32で紹介した「海のハンター展」の限定グッズと、沖縄美ら海水族館のガチャポンがあります。

さて本題。JW2フィギュア完結編です。今回どういう販売戦略なのか、同一種で、同じ位のサイズ似たような造形なのに、微妙にポーズが違ったりギミックが異なったりするフィギュアがこれでもかと発売されたのです。こうなるとコレクターとしては受けて立たざるを得ません。結果ブルーなどは13種類ものフィギュアが並ぶ羽目になってしましました。
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(画像2)ブルーその2
後方はセガのクレーンゲームの景品。よく出来てはいるものの、スマートすぎてヴェロキラプトルには見えません。その手前は今回最もよく可動してポーズがつけられる、マテルの「バトルダメージ・シリーズ」。前列は左から「ベイビーブルー&オーウェン(マテル)」タカラトミーのガチャポン2種「スタンドフィギュアコレクション」「デスクトップフィギュア」そして「ベーシックフィギュアセット(マテル)」です。右側の黒い2匹は前回のJW時のブルー。3年の時を経て成熟して色が薄くなったと言いたいところですが、「ベイビー」が薄い色なのでこじつけできません。残念…。
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(画像3)希少種
JPフィギュアのシリーズには時折、スクリーンには登場しませんが、模型化される事があまりない希少な恐竜・古生物がラインナップされる事があります(新秘宝館Vol.25)。今回もこの様な恐竜が…。左から、プロケラトサウルス/ミンミ/プロトケラトプス/モノロフォサウルス/ヘレラサウルス。原始的ティラノサウルス類のプロケラトサウルス、他に「コレクタ」と最近見かけない中国のメーカー「恐竜大王」の物がありました。オーストラリアの小型鎧竜ミンミは、他は「コレクタ」のみ。プロトケラトプスはありふれていますが、尾の表現がアマルガサウルスの首の“帆”みたいで面白いので仲間入り。モノロフォは「サファリ」と、以前紹介した「SINZEN造形研究所」のガレージキット(秘宝館Vol.64)位、ヘレラサウルスは「シュライヒ」の物が現在出回っていますが他には見当たりません。
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(画像4)ケラトサウルスとアンキロサウルス
今回は出演しなかったケラトサウルスですが、何やら見覚えがあると思ったら、あのJP3の、スピノサウルスの糞の中で携帯が鳴っているシーンで一瞬顔を出す赤ら顔のケラトそのものでした。よく出来ています。JP3の時は発売されず、前作JWの時もそれらしいケラトのフィギュアは発売されたのですが、似ても似つかない全くのオモチャだったので、このケラトは嬉しいです。
そしてアンキロサウルス。何か懐かしさを感じさせる造形です。この落ち着いたたたずまいは今時の恐竜模型には見られません。あのいにしえのオーロラ製プラモデル(秘宝館Vol.57)を彷彿とさせます。実際足のポーズなどそっくりです。皮膚の表現などディテールも見事で、これも嬉しい一品。
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(画像5)モササウルス
JW2フィギュアの締めはやはりこれ。後ろはセガのクレーンゲームの景品で今回のモサの中で一番格好いいのでは。他はタカラトミーの製品。ガチャポンの「スタンドフィギュアコレクション」「デスクトップフィギュア」それと「アニア」です。結局本家マテルから発売されたのは最初に紹介した巨大フィギュアのみでした。今回は肩透かしを食わされたモササウルス、3年後にはどんな暴れっぷりを見せてくれるのでしょうか?楽しみです。
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(画像6)シノケラトプス
映画ではあれほど存在感を示したのに結局フィギュア化されなかった残念な角竜。せめてもと思い、家にあるのを並べてみました。
左からVitaeの1/35モデル/「恐竜王国2012の会場限定ガチャポン」/福井県立恐竜博物館「恐竜の大移動展{2016}」の限定フィギュア。Vitae(ヴァイテー?)というのは香港の新しいメーカーです。去年のワンフェスにブースを出していて私はそこで知ったのですが、やる気満々の若者モデラー達でした。こんなチャイニーズパワーなら大歓迎です。

さて話は変わり「少年倶楽部」です。ネットで検索すると腹立たしい位NHKのジャニーズ番組ばかり出てきますが勿論違います。少年倶楽部とは

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少し前に古書店で“霊感が働き”手に取った一冊の本「別冊太陽・熱血少年画譜」(平凡社1986)にこんな絵が載っていました。(画像7)
昭和3年の「少年倶楽部」の特集「地球進化の大驚異」からの「怪物の横行」と題された絵です。さっそく古本屋ネットで検索、どうやら1月号らしいとは判ったのですが、あいにくどの書店にも在庫がありませんでした。
少年倶楽部の恐竜記事は要チェックですが、中身を見ない事には判らないので、ネットでは見つかりません。偶然の出会いを待つ他ないのです。
(「別冊太陽・熱血少年画譜」平凡社1986 88ページ)

そしてつい1週間ほど前、たまたま出くわした新橋駅前の古書市で、山積みされた昭和5年から7年の少年倶楽部(1970年の復刻版ですが)を発見。幸い時間も有ったので片っ端からめくった結果これだけ見つけました。大満足です。
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(画像8)昭和5年1月号の「科学珍奇書報」と題されたカラーページより「怪物闘ふ」
二匹の魚龍が巨大な滄龍(モササウルスの和名。「さうりょう」とルビがふられています。)を襲って物凄い闘ひを始めたところである。(解説抜粋)
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(画像9)「怪物の洗濯」(昭和5年5月号)
解説によるとロンドンのハイドパークの石像を洗っているところとなっていますが、このどう見ても水晶宮の恐竜は昭和5年にはすでに現在の場所にいたわけで、全く間違った記事です。しかし写真はメガロサウルスでもイグアノドンでも無くヒラエオサウルス。水晶宮のヒラエオサウルスの写真はネットで探してもトゲトゲの後ろ姿ばかりで正面からのものは殆どなく、この写真は貴重です。
「この怪獣は生きていたのです」(昭和6年7月号)解説はアフリカで発見されベルリンで組立てられたマストドン(!)となっていますが、勿論これはフンボルト博物館のディクラエオサウルスです。今と変わらぬ姿です。
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(画像10)「少年博物館カード」(昭和5年8月号付録)様々なジャンルの物の絵を集め裏に解説をつけたカード。4枚つづりで28枚。オリジナルは、自分で切りとり解説が印刷された台紙に貼り「少年博物館」という本を作る、という物だった様です。古生物関係はこれだけありました。なんと計った様に「メガロドン」も!

思いがけなく最初の話題に繋がってうまくまとまったところで今回はここまで。次回は懐かし本シリーズで「昭和の少年科学誌」をテーマにする予定です。


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。