Vol.30 「失われた世界」
「地底旅行」の訳本はコンプ可能でしたが、「失われた世界」はそうはいきません。未所持の本((未)と記す)も含め、判っている限りの本を年代順に並べてみました。
1924「奇怪の足跡」宇月基/新栄閣(未・画像無し)
1925「没落の世界」新東信/金剛社(未)
*新秘宝館Vol.7で紹介。「近代デジタルライブラリー」で読む事が出来ます。http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/919093
1929「前世界物語」大戸喜一郎/金蘭社(未・画像無し)*古本屋ネットにあるも7万円では手が出ず…。
1931「前世界探検」大戸喜一郎/金蘭社(未)29年版の新装版。
1947「恐龍の足音」高垣眸/偕成社
**新秘宝館Vol.7で紹介。
1948「怪獣国探検」伴大作/明々社(未)
1949「恐龍の足音」高垣眸/偕成社(未)
*47年版の新装版
1954「失われた世界」大佛次郎/小山書店
*世界大衆小説全集1
1955「恐龍の足音」高垣眸/偕成社
*47年版の大幅増ページ改訂版
1955「失われた世界」塩谷太郎/講談社
1958「うしなわれた世界」唐沢道隆/金の星社(未・画像無し)*ひらかな世界名作
1960「恐竜の足あと」片方善治/岩崎書店
1960「ロスト・ワールド」福島正実/学習研究社*中学一年コース付録
1961「失われた世界」延原謙/新潮文庫
1961「失われた世界」白木茂/学習研究社
*五年の学習付録
1963「ロスト・ワールド」新庄哲夫/ハヤカワSFシリーズ
1965「恐竜の台地」塩谷太郎/旺文社
*中二時代付録
1966「失われた世界」白木茂/偕成社
*名作冒険全集
1967「失われた世界」永井淳/角川文庫
1967「恐竜の世界」久米穣/岩崎書店
*エスエフ世界の名作
1968「失われた世界」高垣眸/偕成社
*少年少女世界の名作 55年版「恐龍の足音」と同じ内容
1969「失われた世界」加納一郎/学習研究社*5年の学習付録
1969「失われた世界」龍口直太郎/創元推理文庫
1970「ロスト・ワールド」加島祥造/早川書房*世界SF全集
1970「うしなわれた世界」土居耕/岩崎書店
*エスエフ少年文庫
1971「失われた世界」白柳美彦/ポプラ社
*世界の名著
1971「恐竜世界の探検」白木茂/あかね書房
*少年少女世界SF文学全集
1972「恐竜の世界」氷川瓏/ポプラ社(未)
1973「最後の恐竜世界」南山宏/朝日ソノラマ(未)
1973「きょうりゅうの世界」瀬川昌男/集英社*母と子の名作文学
1974「失われた世界」白木茂/偕成社(未)
*冒険探偵シリーズ 1966年版の改装新版
1974「恐竜の世界探検」手塚治虫(編)/学習研究社*劇画サスペンス
1975「失われた世界」塩谷太郎/鶴書房
*1955年講談社版と同じ訳
1975「生きていたきょうりゅう」唐沢道隆/金の星社*1958年刊「うしなわれた世界」と同じもの
1976「恐竜の世界」久米穣/岩崎書店(未)
*SFこども図書館 1967年版と同じもの
1977「失われた世界」定松正/春陽堂書店
*春陽堂少年少女文庫
1978「うしなわれた世界」土居耕/岩崎書店
*SF少年文庫 1970年版の新装版
1979「きょうりゅうの世界」内田庶/集英社
*子どものための世界名作文学
1983「失われた世界」山生敏子/ぎょうせい
*少年少女世界名作全集
1986「うしなわれた世界」土居耕/岩崎書店(未)*SFロマン文庫 1978年版と同じ
1994「失われた世界」龍口直太郎/創元SF文庫 *1967年版の新装版
1994「きょうりゅうの世界」内田庶/集英社
*子どものための世界文学の森 1979年版の新装版
1995「悪魔の棲む台地」高野孝子/小学館
1996「失われた世界」加藤祥造/ハヤカワ文庫SF *1970年刊「世界SF全集」と同じ訳
1998「失われた世界」森詠/講談社
*痛快世界の冒険文学
2002「森詠の失われた世界」森詠/講談社
*シリーズ・冒険 1998年版の新装改訂版
2003「ロスト・ワールド」久米穣/岩崎書店
*冒険ファンタジー名作選
2004「失われた世界」管紘/講談社青い鳥文庫
2009「失われた世界」龍口直太郎/創元SF文庫*限定カバー版
2015「失われた世界」管紘/講談社青い鳥文庫*新装版
2016「失われた世界」伏見威蕃/光文社古典新訳文庫
表紙の画像をお楽しみください。
(画像1)戦前〜1960年代
(画像2)1970年代
(画像3)1980年代〜現在
今回、我家の蔵書をパラパラめくって恐竜登場シーンを比べたりしてみたのですが、これがなかなか興味深いものでした。原作に名前が出る古生物は、ステゴサウルス、イグアノドン、アロサウルス、メガロサウルス(科学者二人が、襲ってきた大型獣脚類を、肉食恐竜の一種と言う以上の分類は学者としては控えるが、アロサウルスかメガロサウルスかもしれないと話し合う、ファン心をくすぐるシーンあり)、チャレンジャー教授が一度だけ口にするディモルフォドンに大活躍のプテロダクティル、淡水性とわざわざ断っているプレシオサウルスにイクチオサウルス、おまけにチョイ役のトクソドンと言ったところですが、どういうわけか翻訳本では70年代位まで和名が使われています。(戦前の物はご時世で当然でしょうが。)
翼手竜、蛇頚竜、禽竜(イグアノドン)、異竜(アロサウルス)は良いとして、メガロサウルスは、正式な和名は「斑竜」なのですが、54年の大佛次郎の素直すぎる訳「巨竜」がその後も使われる事が多く、その流れか「大恐竜」などという身も蓋も無い呼び方をされる事も。
戦後間もない高垣眸訳のものは勉強不足からか、「禽竜」のルビにブロントザウルス、それを襲う肉食恐竜は単に「恐竜」でイグアノドンとルビがふられる有様。これが元凶となったのか、55年の塩谷太郎訳では禽竜のシーンにブロントサウルスの挿絵があります。それを逆手に取ったのか、60〜70年代の白木茂は3度の訳で確信犯的にイグアノドンをブロントザウルスに置き換えたり、チラノザウルス(しかも挿絵では角がはえて3本指!)を登場させています。訳者も挿絵画家も、図鑑をひもといたりはせず、先人の訳を参考にしたのでしょうか?
驚愕だったのが、SF界の重鎮(の割には恐竜に関して無知な訳が多いですが)、福島正実が訳した1960年の雑誌「中一コース」の付録です。なんとクライマックスの、解き放たれた翼竜が報告会場のホール内を飛び回り、その後アマゾンを目指して海を渡るという名シーンがスッポリ削除され、一言「大会での発表が、どんな大さわぎを起こしたか、いうまでもないだろう。」…って、言ってくれよ〜!
異色なのが、時代を反映した1998年刊の、森詠によって自由に改変されたもの。スケッチブックの恐竜はブラキオサウルス。他にヴェロキラプトル、アクロカントサウルス、アンハングエラ等時代設定を無視して大挙出演。原住民は猿人と和解し、最後もメイプル・ホワイト台地の保護のために、チャレンジャー教授自らが探検の失敗を認め、恐竜は発見できなかったと報告します。
「地底旅行」と同じく「失われた世界」も数多くのジュブナイル版が書かれています。
火口に辿り着くまでが冗長なためダイジェストされる事が多い「地底旅行」に比べ、「失われた世界」は最初から波乱万丈なので、ジュブナイルとはいえども原作の各ピソードは多くの本で生かされています。ただ冒頭の、主人公が探検隊に加わるきっかけとなるグラディス嬢との一件(最後に落ちもある)を割愛した本は何冊かありました。
結局のところ、最も突っ込みどころが無く至れり尽くせりなのは、今年出版された光文社「古典新訳文庫」版。1912年に「ストランド・マガジン」に連載された時のイラストが拝めるのもありがたい。
懐かしい時代の挿絵を集めてみました。
(画像4)翼手竜の営巣地
(画像5)肉食竜の夜襲
(画像6)その他のシーンをストーリー順に並べてみました。
グラディス/メイブル・ホワイトのスケッチブック/禽竜2態/湖畔の剣竜/肉食竜の部落襲撃/ホールを舞う翼手竜/故郷を目指す翼手竜
「失われた世界」に関連した小説もいくつかあります。
「ロストワールド2」(田中光二著/徳間書店/1980)は後日談で、同じメンバーがインカの伝説の黄金都市マノアを探しに行く話。神と崇められる双頭のティラノサウルスが出てきますが「恐竜的」には全く物足りません。
「人外魔境の謎」(横田順彌/新潮文庫/1991)も同じく後日談ですが、こちらは日本人探検隊がメイブル・ホワイト・ランドを目指します。時は明治44年。ドイツ帝国軍も出てきたりしますが、恐竜もこだわりの「和名」で大挙登場。巻頭の主要登場人物の隣りに主要登場恐竜の紹介があり、和名と英語名が併記されていてためになります。但しメガロサウルスは巨竜。
「イグアノドンの唄」(中谷宇吉郎/文藝春秋新社/1952)は小説ではありませんが同名の随筆集に収められているもので、終戦の年の何もない北海道での夜、子供たちに「ロスト・ワールド」を読んで聞かせるというエピソード。日本の短編恐竜文学を集めた「恐竜文学大全」(東昌夫・編/河出文庫/1998―必携!)に取り上げられていますし、ネットでも読む事が出来ます。http://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/53201_49836.html
「少年時代・下」(ロバート・R・マキャモン/文藝春秋/1995)60年代のアメリカの片田舎で過ごした、空想と現実が入り混じった甘酸っぱい少年時代の1年間の出来事を綴った小説。「失われた世界より」と題された章で、主人公は移動カーニバルの見世物小屋で角を折られたトリケラトプスらしき動物を見ます。チケット売りの男が言うにはチャレンジャー教授がアマゾンの台地から連れ帰ったものだそうで…。(上巻では河の主の謎の水棲爬虫類とも遭遇します。)
恐竜は出てきませんが「シャーロック・ホームズ 恐怖の獣人モロー軍団」(ガイ・アダムス/竹書房文庫/2015)には台地に行く前のチャレンジャー教授をはじめ、30年前に地底旅行をしたのに今では相手にされていないリーデンブロック教授、後に試掘機鉄モグラを開発し、デヴィッド・イネスと共にペルシダーに到達する技術者アブナー・ペリーの「恐竜関係者」3人と、重力遮断物質ケイヴァーライトを発明して月に行くケイヴァーが登場します。もっともチャレンジャー教授以外は最初にちょっと出てくるだけ、チャレンジャー教授もドアを蹴破る位しか活躍しないのにはがっかりですが。ホームズの敵は勿論あの孤島のマッドサイエンティスト、モロー博士の遺産、獣人達です。
思わぬ長さになってしまったので、予定していた「失われた世界・映画編」は次回に。
7月に開催される「博物ふぇすてぃばる」で手に入れる筈のお宝グッズも合わせて紹介いたします。
最後にこれをご覧ください。
http://kogundou.exblog.jp/16206138/
戦前、映画「ロストワールド」が封切られた時に上映劇場が作った物の様です。数年前にネット古書店で見つけ、2万円の値に一瞬ちゅうちょした隙に、他のマニア(おそらくは双六コレクター)にさらわれてしまったという痛恨の一品です。当時の画像がネットに残っていました。今手元にあったらどんなに自慢できた事か…。
田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。