Vol.33 「20世紀恐竜漫画・後編」
まずは前回の補足から。
藤子不二夫(まだFはついていません)の1971年の作品「モジャ公」には「恐竜の星」というエピソードがあって、恐竜(実はロボット)ハンティングを楽しめるテーマパーク星が登場します。ジュラシック・パークに先立つ事20年、もしかしたら世界初の恐竜テーマパーク物かもしれません。
「マグマ大使」(手塚治虫1965)では主人公の少年一家が悪の帝王ゴアによって家ごと恐竜時代にタイムスリップさせられるプロローグから始まります。他に「恐竜世紀の冒険」と題されたエピソードもあります。
これらの情報は恐竜倶楽部の仲間からのもの。さすが隙がないです。
さて今回後編では、恐竜ルネサンス後の漫画をジャンル別に紹介します。新しい恐竜像を取り入れた作品も数多く有ります。
[SF・ファンタジー]
ハードSF漫画の第一人者とされる星野之宣は恐竜・古生物が大好きなようで、作品にしばしば登場させています。1981年の「サーベル・タイガー」では、一頭のサーベルタイガーが人類の運命を変えてしまう表題作と、タールピットで溺れれそうなったマストドンの“踏み台”となる、化石化した竜脚類の全身骨格が登場する「タール・トラップ」を収録。そして1992年から98年にかけて講談社から刊行された「ブールーホール」(全2巻)とその続編「ブルー・ワールド」(全4巻)は海中のタイムトンネル、ブルーホールで繋がった現代と中生代(古生代にも繋がっている)を舞台にした壮大な物語で、マイアサウラ等当時のトレンディな恐竜や最新恐竜情報、絶滅説等がテンコ盛りです。恐竜画はどれも素晴らしいのですが、特に羽毛をまとったデイノニコサウルス類(文中ではディノニクス類)の姿は現在でも立派に通用しそうです。1992年スコラ刊の「滅びし獣たちの海」では弟2次大戦中の戦艦ビスマルク追撃戦と首長竜を絡めた表題作の他、ステラー海牛が出てくる「罪の島」が、1998年同じくスコラから出た「エル・アラメインの神殿」には、やはり大戦中の北アフリカ戦線、ドイツの戦車兵が偶然見つけたエジプトの神殿の廃墟で、ピラミッド建設に使役されたと思われる竜脚類のミイラを発見するという表題作が収められています。昨年3月に小学館から、古生物関連作品を集めた(「滅びし〜」と「エル・アラメイン〜」も入っています)短編集「太古よりの使者」が発売されました。いわゆるコンビニ廉価本で、既に販売は修了している様ですが、アマゾン辺りではまだ買えます。これはお得です。
「ファイブスター物語」(永野護 角川書店1987〜)
現在も続いている大ヒットファンタジー漫画だそうですが、実は読んだ事が無いのでこちらをどうぞ。
4巻(1991)の巻末の「ジョーカー(舞台となる恒星系)に棲息する動物たち」というコーナーに恐竜の姿があるのを嗅ぎつけてしまいました。地球産と同じ恐竜も棲んでいるという設定で普通に恐竜の解説をしています。「作者の勝手な憶測で」デイノニクスに羽毛を生やしているのが嬉しいです。
「化石の記憶」(たがみよしひさ 秋田書店1986〜1987全3巻)
いにしえより「ぬし伝説」が伝わる山間の寒村で次々と起こる惨劇(もちろん恐竜の仕業)から始まる「伝奇・ハードボイルド・タイムスリップSF」です。お色気シーンも満載の大人向け漫画なのですが、所々にちりばめられる恐竜解説はいいとして、肝心の恐竜の絵がちょっと…せめて頻繁に登場する女性ヌードほどのクオリティがあったらと思うと残念です。
「恐竜王」(桜水樹1994)
SF作家の川又千秋がストーリーを担当。白亜紀に存在した恐竜を駆るムー帝国人と、後にヤマト民族となるヤムート族の戦いというファンタジーすぎるお話。ムー帝国は隕石衝突で滅びます。恐竜は迫力は有りますがプロポーションと動きが不自然で、あまり描き慣れていない感じがします。
「恐竜惑星」(吉富昭仁1995)
一部の恐竜ファンの間では伝説となっているNHK番組「天才てれびくん」の中で放送されたアニメを漫画化したもの。アニメの方は子供番組にも関わらず、あの金子隆一さんや本多成正さんが関わっているため正に当時の「恐竜学最前線」となっていました。恐竜も漫画的で簡略化されていますが、押さえる所は押さえています。ウィキペディアによると実に73種もの古生物が登場するようですが、コミック版では残念ながら殆どがカットされてしまいました。
*私ごとですが、この「恐竜惑星」とそれに続く「ジーンダイバー」を全話録画してあるのがちょっと自慢です。ビデオテープが劣化していないといいのですが…。
(画像1)SF・ファンタジー系の表紙
(画像2)小型獣脚類4体:羽毛デイノニクス(「ブルーホール2」星野之宣1993講談社8p/「ファイブスター物語Ⅳ」永野護1991角川書店182p/183P)/オルニトミムス?(「恐竜王」桜水樹1994エニックス79p/トロエドン(「恐竜惑星1」吉富昭仁1995メディアワークス53p)
[少女コミック]
ここで紹介する本は、主に《花とゆめコミックス(白泉社)》《マーガレットコミックス(集英社)》などといった少女向け単行本レーベルから出版されたものですが、そのひとつ《あすかコミックス(角川書店)》から、ブルーホールと肩を並べるのでは?と言う位本格的な恐竜SFファンタジーが出ています。
佐々木淳子作「青い竜の谷」(1990〜1993全7巻)です。あらすじはとても紹介しきれませんが、物語の出だしはこんな感じです。
作者はかなりの恐竜好きな様で、納得の恐竜画と恐竜ファンならニヤリとするネタが溢れています。例えば現代生まれの恐竜達を白亜紀後期に戻すシーンでは、ジュラ紀や白亜紀前期・中期の恐竜をいっしょくたにして送ってもいいのかと心配したりします。白亜紀と現代を結ぶ「しかけ」も独創的。各巻末に恐竜エッセイもあり、自身の恐竜歴などを語っているのですが、デズモンドの「大恐竜時代」に感動したなどと嬉しい事も書いてありました。弟1巻に、悪役が主人公の少年に「小女マンガに出て来る男みたいなツラしやがって気にくわねえ」と言うシーンがあって、もしかしたら作者は別の形で世に出したかったのでは?と勘繰ってしまいましたが、小女マンガ顔に慣れれば私の様なオジサン恐竜ファンでも夢中になれます。
(画像3)「青い竜の谷」の表紙と、エラスモサウルスの丸焼きのシーン(佐々木淳子1990角川書店33p)
少女恐竜漫画の世界はバラエティに富んでいて、ラブコメ、架空の世界の歴史物(王家が絡むのが定番)、ギャグ漫画、そして今で言うボーイズラブものなど何でもありです。年代順に並べてみました。
「ブラボー!ラ・ネッシー」(竹宮恵子 小学館文庫1982)
小女まんがの王道を行くコメディー短編集の表題作で、眼に星がある少年とハートマークとかわいらしいネッシーが登場。しかし主人公の少年がネッシーとの初遭遇シーンで「なんだこれはーっ 爬虫綱鰭竜目ジュラ紀のプ…プレシオサウルス!?」と叫んだり、プレシオサウルスの骨格図が出てきたりとなかなか硬派な所も見せます。
「夢見る惑星」(佐藤史生 小学館1982〜1984全4巻)
パンゲア大陸に栄えた超古代文明の王朝を舞台にした愛憎劇(?)。恐竜や翼竜が乗り物や労働力として使役されていますが話には絡みません。
「竜の眠る星」(清水玲子 白泉社1987)
ボーイズラブ物ですが主人公は2体の美少年ロボット。恐竜が棲む星で王家の争いに巻き込まれる話です。タイトルとは裏腹に恐竜は全5巻中1,4,5巻に僅かに登場するだけ。
「どっきんタイムトリップ」(猫部ねこ 講談社1988)
隣りに越してきた変な家族のおかげで時空が乱れ恐竜も出現します。
「花柄ティラノサウルス」(倉持知子 集英社1988)
ラブコメ。タイトルのティラノサウルスを見て購入したのですが、主人公の女の子のパンティの柄の事だったと判った時は絶句してしまいました。
「とまどうプテラノドン」(杉山志保子 白泉社1989)
岩の中から現れた1億年前の少年とのラブコメかと思いきや、最後は少年とその相棒のプテラノドンが、太古の人類が作りだしてしまった怪獣と戦うという無茶な設定のアクションものに。
「GONDWANA」(やまざき貴子 白泉社1990)
タイムマシンでアトランシュ文明が栄えるゴンドワナ大陸へ。そこでは恐竜と人間が平和に共存していますが、最後は大陸が分裂し海の底へ。なにしろアトランティスですから。
「タイムプリンセス」(英洋子 講談社1994)
主人公の女の子は時の精霊の力でタイムトラベルができるようになり恐竜時代にも行きます。
「翠迷宮・竜湖畔の殺人」(神谷悠 白泉社1994)
ネス湖畔を舞台にしたボーイズラブ探偵もの。あんまりなプレシオサウルス骨格が出てきます。
「一億年の封印」(山内規子 集英社1997)
タイムトリップものかと思ったら、頭を打って一時記憶を失った主人公の女性が、恐竜や殺人の悪夢に悩まされるといった心理サスペンスでした。
「バビロンまで何マイル?」(川原泉 白泉社文庫1997)
精霊の指輪によって恐竜時代に行った主人公たちが恐竜に風邪をうつしてしまい、それがもとで恐竜は絶滅する…というお話。
(画像4)少女コミックの表紙と古生物画:「ブラボー!ラ・ネッシー」竹宮恵子1982小学館31p/39p/「夢みる惑星1」佐藤史生1982小学館5p/「GONDWANA」やまざき貴子1990白泉社93p /「翠迷宮・竜湖畔の殺人」神谷悠1994白泉社72p
[恐竜・古生物自身の擬人化漫画]
動物を擬人化させ、時には会話させたりする作品は「鳥獣戯画」以来(?)数多くありますが、日本の恐竜漫画(少なくとも我家の)は1989年の「恐竜大紀行」までしか遡れません。
「恐竜大紀行」(岸大武郎 集英社1989)
主に中生代の生物を主人公にした全11話。復元画は多少古めですがとても丁寧に描かれていて好感が持てます。恐竜絶滅については何故か火山説を取っています。*2012年に続編「大恐竜記(恐竜が今風にリニューアルされている)」を含む短編集「錬命術」がPHPコミックスから刊行されました。
「原獣事典」(谷口ジロー 講談社1990)
こちらは新生代の絶滅哺乳類を中心に単弓類やカメや魚竜の話も加えた全18話。どの話もなかなか洒落ていて、「カメは万年プロガノケリス」の巻は、主人公の三畳紀のカメが恐竜の盛衰を見届け新生代まで長生きするという、比喩的な話になっています。1998年に双葉社から金子隆一さんの解説を加えて再販されました。
「臥竜・化石の記憶」(森秀樹 小学館1996)
闘争化石等実在の化石をもとにその恐竜の最後を想像した漫画で、ここでは恐竜はしゃべりません。後半に、江戸時代の少年がモンゴルに渡ってゴビ砂漠でタルボサウルスの全身骨格を目にする「龍之介の夢」という中編が収められています。
「GON」(田中正志 講談社1992〜2002全7巻)
ティラノサウルスの子供の様なGONが現生の動物と絡む、セリフどころか効果音も無い漫画ですが、2013年に発売された「GON SELECSION」の最終話「ラッキーなラッキー誕生」は絶滅哺乳類のスティリノドンが主役。パラケラテリウムや翼竜、始祖鳥までもが登場します。
(画像5)擬人化漫画の表紙と古生物画:「恐竜大紀行」岸大武郎1989集英社77p/「原獣事典」(谷口ジロー1990講談社ページ無記載/「臥竜・化石の記憶」森秀樹1996小学館280p/281p/「GON SELECSION」田中正志2013講談社ページ無記載
[その他の恐竜漫画]
「サウルス平原」(宍倉ユキオ 竹書房1983)
原始時代を舞台にした、お色気4コマ漫画。
「魔少年ビーティー」(荒木飛呂彦 集英社1984)
恐竜展からスピノサウルスの頭骨を盗み出す「恐竜化石泥棒事件の巻」を収録。
「のんきくん」(方倉陽二 小学館1985〜)
ほのぼのギャグ漫画「のんきくん」には時々恐竜ネタがあります。
「ティラノザウルスのふつうの生活」(水野プロダクション 主婦と生活社1987)
恐竜達が50年代のアメリカ風生活をしているという異色漫画。全ページカラーでアメコミ風。
「アンモナイト創世記」(大宮直依 大都社1989)
アンモナイトを電力にしている恐竜文明にタイムマシンでのりこんだ主人公たちが巻きおこすドタバタコメディ。
「恐竜カーニバル」(上田悦 小学館1990〜1991全3巻)
登場人物が恐竜の、1ページ1話のギャグまんがです。
「古代さん家の恐竜くん」(新沢基栄 集英社1991)
氷漬け卵が発見され、繁殖させてペット化されたサウロルニトレステス(!)が古代家に来て大騒動。
「ムービー・ドリーム」(南幸ノ丞 集英社1991)
なんとモデルアニメーションの巨匠、レイ・ハリーハウゼンの半生記です!
「ジュラシック・パーク」(坂本かずみ 講談社1993)
勿論あの映画のコミック版。
「ゼロ」(里見桂 集英社1993)
主人公のゼロが恐竜再生をめぐる科学者の策謀を暴くエピソード「恐竜伝説」を収録。琥珀からDNAというJP便乗ネタです。
「恐竜少女テラノちゃん」(とみさわ千夏 小学館1995)
表紙が全てを物語っています。
「トリポカの謎」(池田あきこ 白泉社1997)
人気の猫のダヤンシリーズの一冊でオールカラーの美しい大判コミック本です。恐竜は多数登場、ボーンと言う名の骨格キャラも活躍します。
「恐竜発見記・霧の彼方に」(所十三 講談社1997)
現在の恐竜漫画の第一人者で、当時から恐竜倶楽部仲間だった所さん渾身の恐竜漫画デビュー作です(厳密には1993年の少年マガジンJP直前特集に「お父さんもちょっとJPを勉強しちゃおう!!」と題した1ページだけの漫画を載せていますが)。この作品の取材でイギリスに行った時にワイト島の海岸で拾ったという、イグアノドンの椎骨を見せてもらった事が懐かしい…。後半の「眉つば恐竜生態図鑑」「恐竜大図録」も力作で読みごたえがあります。
「国立博物館物語」(岡崎二郎 小学館1997〜1999全3巻)
人工知能の中にバーチャルな生態系を作り、恐竜の進化を再現する話をメインに、いろいろ自然科学系のエピソードを織り交ぜた、とても面白くためになる漫画です。
「ギャラリーフェイク13」(細野不二彦 小学館1998)卵化石の盗掘事件を解決する話「化石をめぐる人々」を収録。
「パクリコン1」(こやま基夫 秋田書店1999)
高校生の怪盗パクリコンが、博物館のティラノサウルス骨格を盗もうとする「六千五百万年の虜」というエピソードがあります。
(画像6)その他の恐竜漫画の表紙
20世紀の恐竜漫画はまだまだあると思いますが、蔵書はここまで。増え続けている21世紀恐竜漫画はまたいずれ区切りのよいところで取り上げるとして、次回は「ぼくらの学習図鑑(仮)」の予定です。
今年もご愛読ありがとうございました、来年もよろしくお願いいたします。
田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。