Vol.35 「始祖鳥フィギュア大全」
始祖鳥―この簡潔にして的確、一度聞いたら忘れない語呂の良さまで備えた名訳語を“発明”したのはあの「恐龍」をあみだした横山又次郎博士の様です。明治27年刊の「化石学教科書」に載っているロンドン標本のスケッチと復元図にその名が使われています。http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/831231(コマ番号103/145)
それ以前、明治16年のモールス(述)石川千代松(筆記)の「動物進化論」では、やはりロンドン標本の図版(ベルリン標本が記載されるのはこの翌年です。)は使われていますが名前はアルキオプテリツクスでした。
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/832826/5(コマ番号56/87)
日本の古生物学の黎明期、始祖鳥といえばロンドン標本だったのです。そのロンドン標本がいよいよ目の前に!
*ちなみにベルリン標本のスケッチが登場するのは、我家の蔵書では明治37年刊の「地球発達史」(石川成章著)が最初です。http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/831688(コマ番号83/141)
「大英自然史博物館展」初日、先着1000名に配られる「非売品始祖鳥化石ピンバッヂ」につられて開館前に行ったらもうすでに長蛇の列で30分以上は待たされ、諦めかけたのですが何とかギリギリでゲットできました。ところが後でわかったのですが会場出口で売っていたガチャポンの色違いでした。色違いのためにわざわざ早起きして並ばなくても…とふと思ってしまった事はさておき、凄まじい人垣の中でロンドン標本に手を合わせてきました。やはりありがたい物です。存在すら知らなかったネガが一緒に並べられていたのにはビックリ。さすがに居座るわけにもいかず平日の昼間のリベンジを誓って退散したのでありました。
(画像1)の左がその時購入した始祖鳥グッズです。ロンドン標本のミニチュア各種は精度に不満が残りますが買わないわけには…。中ではピンバッヂがいちばん良い出来。マスコットぬいぐるみは前売り券に付いていたもので、会場で売られていたピンクの物よりはよほどまし。他に樹木と見紛うばかりのロンドン標本が焼き印された瓦煎餅も、パッケージに魅かれ買い、ひとつを残しておいしくいただきました。「始祖鳥キューピー(ダーウィンキューピーもあり)」は次に行ったときに改めて考えようかと。買う気満々で臨んだイグアノドンの歯のレプリカ3Dプリンター版は、なんとひとつしか持ち込まれず、内覧会の時に売れてしまったそうです。あんまりです…。
ちなみに(画像1)右は以前科博ショップで売られていた始祖鳥ロンドン標本ハンカチ。ベルリン標本関係を集めた秘宝館Vol.34でお見せし損なったものです。秘宝館Vol.49の科博土産にも登場しています。ぜひご覧ください。
熱烈歓迎!ロンドン標本。それにフェバリットから最新版始祖鳥もリリースされた事ですし、今回は始祖鳥フィギュア大集合!。
とは言ってみたものの、その知名度の割に始祖鳥のフィギュアの数は意外な程少なく、我家の始祖鳥をかき集めても秘宝館1回分に足りない位。そう言えば海洋堂のガレージキットシリーズにも取り上げられなかったし(チョコラザウルスだけ)、70年代に100種以上の古生物シリーズを展開したフランスの「STARLUX」にもありません。現在、マニアックな古生物モデルを出し続けている「コレクタ」ですら未発売です。恐竜コレクターの必携本「Dinosaur Collectibles」(1999年刊)を検索してみたのですが(メーカー別にABC順に並んでいるので調べやすい)、発見できたフィギュアは90年代のレジンキット(Saurian Studios)と50年代のイギリスの食玩「Shreddies」(新・秘宝館Vol.8)のみという有様でした。飛行動物仲間のプテラノドンには遠く及びませんし、同じAの項のどちらかと言うとマイナーなアンキロサウルスにさえも負けています。
気を取り直して、まずはお宝から。
(画像2) オーロラ社製のプラモデル「Prehistoric Scenes」シリーズ(秘宝館Vol.10&Vol.57)の「ジャングル・スワンプ」に入っている始祖鳥を仮組みしたもの。貴重な物ですが、この際作っちゃえと悪魔のささやきが…。
(画像3) 新旧の食玩やガチャポン。上段は「コビト恐竜ガム」の景品のバッヂと板状のプラスチックフィギュア、そして前述の「Shreddies」で4〜5Cm程の大きさ。その右は秘宝館Vol.53で「世界初の3D骨格モデルかも」と紹介した80年代のガチャポン。下段は近年のもので「戦え絶滅動物」「ダイノワールド(カバヤ食品)」「百獣大戦アニマルカイザー闘獣録(バンダイ)」「チョコラザウルス」です。
(画像4) 左は大きめのガチャポンと食玩で「骨格ミュージアム(エポック社・ガチャ)」と「恐竜ミュージアム(童友社・食)」です。彩色しています。ほぼ同じ大きさで一長一短ありなので、もうひと組手に入れて両方のいいとこ取りをしたらいいかも。右は80年代の物と思われる「恐竜の樹」(タカトク)。ランナーに繋がったピンクの恐竜消しゴムが幹に鈴なりになっていて花見の季節にピッタリ。見様によってはアートなオブジェにも見える代物ですが遊び方がいまいち判りません。切り離したら樹が無駄になりますし。始祖鳥もいますが判りづらいので、同型の茶色バージョンを根元に置いてみました。
(画像5) 動物フィギュアメーカー各社の製品。
左から、シン・ゴジラ弟二形態みたいないっちゃってる顔をした「パポ」。2015年発売というだけあって色黒の「サファリ」。爬虫類顔が懐かしい「ブリーランド」。ミュージアムショップなどでセットで売られている、鳥っぽい表情の「カロラータ」。シュライヒからも出ているのですが「恐竜と洞窟セット」のみの販売で、出来の割には高いものにつくので購入していません。
(画像6) 実物大モデル。
唯一翼を折りたたんだ姿のフェバリットの製品は残念ながら絶版。天井から吊っているものは、北海道土産の木でできたタンチョウの様に錘の力で羽ばたきます。右上はなかなか味がある木製キット。いつだかNHKの古生物関係ドキュメント番組で、アメリカのどこかの研究室の窓際に飾ってありました。その下はフィギュアと言うわけではないのですが、今回の展覧会の関連グッズで読売こども新聞の付録として配布された「飛び出すぬりえ」。開くと実物大の絵が立ち上がってきます。本来は復元図を好きな色に塗ってこの上に貼るのですが、骨格図がいい感じなのでそのままにしてあります。
(画像7) タミヤの1/35恐竜世界シリーズの「ブラキオサウルス情景セット」と「小型恐竜セット」に一匹ずつ付いていたもので、それぞれポーズが違います。翼長3cm程のものですが良く出来ています。隣には秘宝館Vol.61で紹介した荒木一成さん手製の一品に再登場願いました。
(画像8) その他
左はビーストウォーズの変形おもちゃですが羽毛表現などなかなか良く出来ています。隣は駄菓子屋で売ってそうな駄玩具で「空飛ぶ恐竜ヒコーキ」シリーズのひとつ。バラストを兼ねた笛をつけ鳴きながら(?)飛びます。そして現在発売中のペーパークラフトのバランスパズルと、もはや出所がわからないペーパー3Dパズル。右端はポップアップ絵本の第一人者、ロバート・サプタの超絶しかけ本「恐竜時代」からインパクト大な始祖鳥。
(画像9) ついでに数少ないその他の中生代の鳥のフィギュアもご紹介。左は秘宝館Vol.64で紹介済みの「工房金竜」のガレージキット「孔子鳥」。その右は映画版「ウォーキング・ウィズ・ダイナソー」のグッズで、狂言回し役をやっていた「アレクソルニス」。そして白亜紀の海鳥「ヘスぺロルニス」はセカイモンで購入したBBCのTVドラマ「プライミーバル」のグッズ。日本では見かけなかった物です。
(画像10) 始祖鳥が表紙を飾る書籍、CD等も集めてみました。
古代動物ものがたり(大島正満1949新潮社)/脊椎動物の進化(コルバート1967築地書館)/いばるな恐竜ぼくの孫(井尻正二1972新日本出版社)/化石のふしぎ(益子佐平1977有紀書房)/アニマ(1980平凡社)/たくさんのふしぎ(1987福音館書店)/進化ってなんだろう(アリキ1991佑学社)/羽毛を持った恐竜(鳥の博物館図録1994)/日経サイエンス(1998日経サイエンス)/野鳥(1999日本野鳥の会)/始祖鳥とジュラ紀のなぞ(マルコ・シニョーレ2008講談社)/地球46億年の旅(2014朝日新聞出版)
そして、イギリスの天文学者にしてSF界の重鎮だったフレッド・ホイルが始祖鳥化石偽造説を唱えた仰天の「始祖鳥化石の謎」(フレッド・ホイル1988地人書館)と始祖鳥の進化を通して中生代を描くという異色の4コマギャグ漫画「始祖鳥ちゃん」(マツダユカ2015芳文社)も加えておきましょう。
CD「Archaeopteryx 」(Charles Wuorinen)は現代音楽。「Animal/Archaeopteryx 」(Horror Our)はプログレッシブ・ロックです。
「アーケオプテリクスの羽根」(シンキョウ社1993)は稲川ゆかりさんと言う作曲家の方がジュラシック・パークの年に出版したピアノ曲の楽譜です。
他の恐竜が時代と共にその姿を変えていく中で、始祖鳥は最近色が黒になった位で発見当時の復元のまま悠然と構えています。逆に最近では小型獣脚類が始祖鳥みたいなって、パッと見区別がつかない事も。勿論当初から鳥として復元されたせいではありますが、ようやく恐竜が追いついてきたイメージ。やはり始祖鳥は偉かったのだ!たとえ最古の鳥の座を奪われても、恐竜類に組み込まれたとしても、始祖鳥の名は不滅です。
*フィギュアや絵で青系が多いのは、ブリアン(新秘宝館Vol.10)由来だと思われます。
最後に古い絵をご覧ください。
(画像11)は昭和5年刊の日本児童文庫シリーズ「地球と生物の歴史」の口絵と挿絵。良い味です。
(画像12)の真白で優雅な始祖鳥が時空を超えてグリプトドンと共演している絵はヤフオクで手に入れた物ですが、なんと19世紀のドイツの石版画だそうです。ならばこれぞまさしく「アーケオプテリクス・リトグラフィカ」!
田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。