Vol.29 昭和の少年少女恐竜空想科学小説
今回のテーマはジュブナイル恐竜SFですが、その前に前回の補足から。
ジュール・ヴェルヌの「地底旅行」がコミック化され、月刊誌「コミックビーム」に去年の10月号から連載されているのを不覚にも見逃していました。つい数日前には単行本第1巻が発売されました。
https://www.enterbrain.co.jp/product/comic/beam_comic/15200901
絵はとても丁寧で、風景など原著の銅版画の挿絵を思わせます。実際同じようなアングルのシーンがいくつかあって、ニヤリとさせられます。(*数ある訳本の中で岩波文庫版は原著の挿絵が全て収められていて、お得です。)1巻では、ようやく水脈を見つけて一息ついたところまで。今後のキノコの森やリーデンブロック海のシーンが楽しみです。
さて本題。私が少年だった遥かな昔、書店の棚には「少年少女○○全集」と銘打たれた本がずらり並んでいました。少年少女…なにやら昭和の甘酸っぱい香りがする言葉です。現在では合唱団かお笑いコンビ名位でしか聞かないような気がします。ちなみに近年、少年小女向けの本はヤングアダルト本と言うのだそうです。ヤングアダルト恐竜SF小説も数多く書かれていますが、昔のように脳天気に秘境に赴いて恐竜を退治するというわけにもいかず、だいぶ趣きが変わってしまいました。
ジュブナイル
と呼ばれ、「まんだらけ」辺りでは時には万単位の値段がつくこともある、あの時代の本の中から取っておきの恐竜SF小説を紹介するのですが、白状すると、今回取り上げた本の大半は、実は我少年時代に読んだものではなく、2013年に相次いで出版された「少年少女昭和SF美術館―表紙でみるジュブナイルSFの世界」(大橋博之著・平凡社)、「SF奇書コレクション」(北原尚彦著・東京創元社)という有難い本でその存在を知り、またまた散財して手に入れたものです。
*私事ですが、当時の私はどちらかと言うと宇宙SF物が好きで、確かに読んだ記憶がありタイトルが浮かんでくるのは「宇宙船ガリレオ号」「第10番惑星」「宇宙人ビックスの冒険」等々。「地底旅行」や「失われた世界」のジュブナイルは読んでいるとは思いますが定かではありません。
*前回「地底旅行」「ペルシダー・シリーズ」の蔵書をざっと読み比べてみて、一般向けとジュブナイルの「わかりやすい見分け方」を発見してしまいました。ジュブナイル版では主人公が自分の事を「ぼく」と呼ぶ事が多いのです。読者が感情移入しやすいようにでしょう。面白い例として石川湧訳の「地底旅行」があります。1957年と60年に「世界少年少女文学全集」(角川書店)に収められたジュブナイル版と1966年の角川文庫版の違いは、アクセルが「ぼく」から「私」になったのと漢字が増えただけ(一言一句確認したわけではありませんが)です。さらに1993年の「偕成社文庫完訳版古典シリーズ」版は、娘の石川布美が父親の訳を手直ししたものですが、これはジュブナイルにも関わらず「わたし」になっています。
前置きが長くなりましたが、我家のジュブナイルコレクションの表紙、挿絵などを古い順から並べてみます。まずは和物から。
「巨龍と海賊」(安部季雄1949)
主人公?の高君が考古学者の父のお伴で登呂遺跡に向かう途中汽車の車中で父親から聞かされた「マンモス博士のアフリカ探検記」。マンモス博士は恐竜を発見して連れ帰ろうとするが海賊に襲われて恐竜共々海の藻屑になった…らしいと言う話を回りくどく語られた高君は大変残念がり、マンモス博士の遺志を継ごうと決意するのでありました、というお話です。恐竜についての父親の説明はなかなか丁寧。ブロントサウルスが鰐をくわえている表紙と、船上で暴れている口絵が良いです。(写真1)
「魔境の大怪龍」(南洋一朗1949)
主人公の「ぼく」はアメリカ人青年で、日本人のサーカス団員も加わった探検隊を率いアマゾンの上流にある恐竜ややばん人(原文のまま)や伊達正宗の家臣の子孫の野生児が住む魔境に挑みます…どんな話か皆目解らないでしょうが説明すると長くなるので。主人公たちはその地で「先住民」同士の戦いに巻き込まれたり、醜くて、酋長の娘に相手にされなかった腹いせに敵部族に内通した「脊椎の曲がった身障者」の若者が引き裂きの刑にあうのを見て戦慄したりするのですが(差別用語など無かった時代の本なので「」内は別の表現です)、とにかく恐竜はうようよ出てきます。挿絵は有りませんが巻頭の見開きの口絵が充実しています。(写真2)
「恐竜島(海野十三全集第八巻所収)」(1951)
この本は残念ながら蔵書ではありません。1990年発行の「海野十三全集」のものは持っているのですが、そちらは挿絵が省かれています。この箱、表紙、挿絵の画像はネットで拾ったものです。いずれは手に入れたいのですが。本文もネットでフリーで読む事が出来ます。http://www.aozora.gr.jp/cards/000160/files/2718_23979.html (写真3)
「新版少年ケニヤ」(山川惣冶1953)
前回の「地底世界」で紹介した少年ケニアの単行本第四巻が出る半年前に、大阪新聞特別付録(今で言うと日曜版みたいなものでしょうか?)として配布されたもので、こちらはアフリカ奥地の霧につつまれた谷の奥に恐竜が棲息しています。これがジュブナイルのカテゴリーに入るかどうかは判りませんが、絵がすばらしいので…。(写真4)
「怪龍島」(香山滋・1953)
ゴジラの原作者の作品。冒頭に主人公の少年が「東京の自然科学博物館」で恐竜の骨格を見て圧倒されるシーンがあり、期待を持たされるのですが、その後の展開は、怪しい博士の探検隊に加わって南洋の恐竜が棲む島で恐竜と戦ったり先住民(一寸法師のピグミー族!これはかろうじてセーフですが、もちろん差別用語オンパレードです。)の争いに巻き込まれてと、いたって平凡です。なにより残念なのは、挿絵は人物ばかりで恐竜は墓場の骨のみ。あとは扉に獣脚類がいるだけという寂しさです。我家にあるのは1985年の復刻版です。(写真5)
続いて翻訳物。最近新訳本も出たコナン・ドイルの「失われた世界」は次回まとめて紹介する予定なので今回は割愛です。
「恐竜の世界(恐竜1億年)」(マーステン1956 / 67 / 76 / 2004)
4冊とも福島正実訳ですが、「恐竜1億年」に改題した時にだいぶダイジェスト版になっています。時間飛行研究所(「恐竜1億年」では時間旅行研究所)で発明された機械で恐竜時代に冒険に行く話。グループの中に悪者がいたのですが、最後の最後に登場するチラノザウルスによって報いを受けます。56年版「恐竜の世界」の恐竜のイラストを集めてみました。(写真6)
「海底艦隊(深海の恐竜)」(ポール/ウィリアムソン1959 / 78)
人類が海底都市を作っている近未来、海軍潜水学校の生徒たちが中古の潜水艦を購入してトンガ海溝へ向かい、首長竜を駆る謎の両棲人と一戦交えるというお話。1978年に新訳が文庫本で刊行されました。首長竜はともかく、20年の間に潜水艦のイメージが変わっているのが面白いです。(写真7)
「第四惑星の反乱(アルファCの反乱)」(シルヴァーバーグ1970 / 80 / 82 / 86 / 2006)
地球の植民星のアルファ・ケンタウリ第四惑星は若い星で恐竜の全盛時代。そこに旅行した主人公が独立運動に巻き込まれるというお話。70年、82年版は「エスエフ少年文庫」。80年と86年版はフォア文庫で、中尾明(訳)、柳柊二(絵)のコンビは変わらないのですが、エスエフ文庫とフォア文庫では訳文も挿絵もまるで違います。でも挿絵が挿入されるシーンは同じ。何か訳ありなのでしょうか。面白いので比べてみました。(写真8)
2006年刊の「アルファC」はフォア文庫版の訳に今風の挿絵が付いています。そして、秘宝館的に最も美味しいのがこのシーン。土産物店で御当地の名産品「恐竜の骨細工」の恐竜フィギュアを買うところです。(写真9)…欲しいなあ。
と、ここでフィギュア繋がりで「恐竜博2016」フィギュアのご報告。神流町恐竜センター製のスピノとティラノは今までの製品に比べるとディテールといい彩色と言い格段に良い出来です。難のあったベースも、ジオラマ仕立てで丁寧に作られ、両方買うとつなげてジュラシックパークⅢ遊びができるという、オーロラやタミヤの恐竜プラモを彷彿とさせる作りです。ただスピノにくわえさせるおまけの魚(レピドテス)はイマイチ。それにスピノが陸上で魚を捕っては、折角の新説が台無しでは?と余計な心配をしてしまいます(写真10)。
それはともかく出来が良い分売れ行きも良いようで、私は内覧会の時にとりあえずスピノだけ購入したのですが、1週間後に2度目に行った時にはスピノは売り切れていて、「買い損ねては大変」とあわててティラノも買いました。今は補充されているでしょうが、欲しい方はお早めに。
今回は、会場限定の海洋堂ガチャポンも効率良く揃えられたし、満足なのですが、欲を言えば、ひいきにしている「イー」の実物大フィギュアが欲しい!その願いを込めて、ガチャポンの「イー」の横に、その近縁種、「新・秘宝館Vol.21」にその他大勢で登場した「スカンソリオプテリクス」の一品物骨格模型を並べてみました(写真11)。
前肢に風切羽が何気に表現されていますが、今にして思えば長すぎる第三指は翼竜の第四指に似ていて、皮膜の方がお似合いですね。
最後にジュブナイル買いの失敗談を。中野の「まんだらけ」のショーケースの中にこんな物を見つけ、内容も確かめずに8千円も出して衝動買いしてしまいました。(写真12左)
「緑の無人島」(南洋一朗・1947)
太平洋戦争前(この物語は1937年に雑誌少年倶楽部に連載されたものだそうです)、南洋で遭難した日本人一家が無人島で大怪物と遭遇するのですが、その後の文中に「のちに、この大怪物はコモド・ドラゴンという大トカゲの一種だということがわかりました。」って…あんまりです。(と言いつつ、写真12右側の挿絵は、安かったのでついまた買ってしまった1966年版のもの)
田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。