新恐竜秘宝館

Vol.34 「ぼくらの恐竜学習図鑑」

最新の恐竜像を知るのに最適なのが、書店の児童書コーナーに並んでいる「学習図鑑」です。現在、小学館の「NEO」、ポプラ社の「WONDA」、学研の「LIVE」、講談社の「MOVE」等がありますが、特に「MOVE」は昨年新訂版となったもので(他は2014年刊)、「イー」や「フクイベナトル」と言った新顔も載っていますし、もちろんデイノケイルスの新復元図や黒い始祖鳥も。何故かスピノサウルスは泳いでいませんが。
どの本も当代最強恐竜イラストレーターが腕を競った恐竜画満載で、昨今のCG恐竜を使った本とは有難みが違います。それで2000円(各社とも)とは、お得もいい所。それにイラスト付きで紹介される恐竜の数が尋常ではありません。例えば「MOVE」の「ドロマエオサウルスのなかま」のページを開いてみると全18種も紹介されていて、こんな耳慣れない名前も並んでいます。アウストロラプトル/アキロバーター/リンヘラプトル/ウネンラギア/マハカラ/バラウア/ラホナビス/ティアンユラプトル…。今の恐竜好きの子供はみんな覚えるのでしょうか。年寄りにはとてもついていけません。

そんな恐竜学最前線を行く学習図鑑ですが、ひとむかし前まではそれはのどかなものでした。今回は学習図鑑のルーツをたどってみます。

私が子供の頃の恐竜原体験の話は「新・秘宝館Vol.10」で書きましたが、その頃の愛読書に「小学館の学習図鑑シリーズ」というのがありました。残念ながら「恐竜図鑑」はありませんでしたが、恐竜画はいくつかの図鑑に載っていました。「鳥類の図鑑」「動物の図鑑」「地球の図鑑」(①)。いずれも1950年代後半のものです。「鳥類の図鑑」は絶滅鳥類だけですが、子供の頃から持っている大切な本。「地球の図鑑」では生物の歴史が巻頭カラーページで紹介されています。

*小学館の学習図鑑の歴史に関するこんなサイトがありました。
http://japanknowledge.com/articles/neo/002.html

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引用元
「鳥類の図鑑」黒田長久(1957)70p/「動物の図鑑」古賀忠道・他(1956)100・101p「地球の図鑑」鹿沼茂三郎・他(1958)14〜17p 小学館

「小学館の学習図鑑シリーズ」は70年代半ばに「学習百科図鑑シリーズ」に引き継がれ、76年に「大むかしの生物」80年に「化石・岩石鉱物」が出ます。そして1990年に小学館の学習図鑑としてはシリーズ刊行34年目にしてはじめての「恐竜の図鑑」が出版されます(もちろんその間、様々な形の恐竜図鑑は出ていますが)。「大むかしの生物」の恐竜は、当時主流だったブリアンもどきの絵が大半を占め古色蒼然としていますが、「恐竜の図鑑」では90年当時の最先端スタイルの恐竜を見る事が出来ます。(②)
そして2002年に「小学館の図鑑NEO」となり、2014年に新版が発売され現在に至っているわけです。

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引用元
「大むかしの生物(1976)20・21・72・73p/「化石と岩石・鉱物」(1980)129p/「恐竜の図鑑」(1990)26・27p 小学館

もう一方の学習図鑑シリーズの老舗、学習研究社の「学研の図鑑」は、古生物関係では小学館に先行していて、1972年に「大むかしの動物」(やはりブリアンの模写の様な絵がいっぱい)、76年に「化石・岩石」が刊行されています。そして小学館と申し合わせたように1990年、「恐竜」が発売されました。小学館版同様、恐竜ルネサンス後の恐竜がよりカラフルに描かれています。1994年には「大むかしの動物・新訂版」がでますが、こちらは新しい恐竜画と72年版の恐竜画が混在する奇妙なものでした。そして2000年、満を持したように「ニューワイド学研の図鑑」シリーズの「恐竜」「大昔の動物」が刊行され、2度の増補改訂版を経て2014年の「学研の図鑑LIVE」へと引き継がれました。(③)

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引用元
「大むかしの動物」(1972)62・63・72・73p 学習研究社

*学研の90年版「恐竜」図鑑とタイアップした食玩が2003年に発売されています。何故すでに出ていた「ニューワイド」版にしなかったのかは謎。フィギュアの出来はイマイチですが、プテラノドンを咥えたエラスモサウルス以外は、一応図鑑に基づいた組み合わせになっています。(④)

「ポプラディア大図鑑WONDA」の「恐竜」と「大昔の生きもの」は2013年、講談社の「動く図鑑MOVE・恐竜」は2011年と、学習図鑑としては新参者です。講談社は昔学習図鑑シリーズを出していたようですが、古生物関係があったかどうか定かではありません。

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今回この特集を書くにあたってネットでいろいろ情報を探したところ、アマゾンで「図鑑大好き!」(彩流社2014)という本を見つけました。この本に「最古の学習図鑑」と題されたページがあって、それによると、いわゆる学習図鑑の日本最古のものは保育社が1945年から刊行したシリーズだそうです。試しにネット古書店で検索したら「学習動物図鑑(1951)」が800円で売りに出ていました。これは買うっきゃありません!
僅か39ページの本ですが、カラーの動物画満載の正に学習図鑑でした。そして期待通り恐竜も!残念ながらモノクロページでしたが。(⑤)

学習図鑑の起源に関してはこの様なサイトも。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/10/16/7010089

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引用元
「学習動物図鑑」(1951)38・39p 保育社

前述の「図鑑大好き!」に学習図鑑の定義とはという記述があり、曰く、カラー写真やイラストによる標本的なページ構成と、例えば「動物」「植物」「魚貝」など項目別にシリーズ化されるという2点がそろえば学習図鑑のイメージだろうとしています。この条件に満たない「恐竜図鑑」は星の数ほども有りとても紹介しきれませんが、今回学習図鑑だけというのも寂しいので、やはり昭和の時代から連綿と続く、文庫本サイズの児童向け百科図鑑を並べてみます。(⑥)

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最強のラインナップを誇るのは小学館コロタン文庫で、両生類から哺乳類まで、マニアックなものも含めて252種類も載せた1977年刊の「恐竜全百科」から、ティラノサウルス類に特化し、他の獣脚類の記述はほんの少々、その他の恐竜に至っては全く触れていない「ティラノサウルス大百科」、メイやフクイティタンなど最新の古生物も多くの載っている「恐竜なんでも全百科」まで7冊も出版されています。
「恐竜全百科」(1977)/「最新恐竜のひみつ全百科」(1994)/「恐竜全百科」(1994)/「恐竜全百科」(1995)/「恐竜最新全百科」(2000)/「ティラノサウルス全百科」(2005)/「恐竜なんでも全百科」(2010)
それに次ぐのが勁文社の大百科シリーズで4冊あります。1979年刊の「恐竜大百科」は古生物220種をイラストつきで説明。88年の「恐竜もの知り大百科」は種別の紹介はありませんが、様々な恐竜情報満載です。秘宝館的に興味深いのが「恐竜グッズ大集合」という記事。タミヤのプラモデルやヨネザワの白木や金属の組み立て恐竜、それに海洋堂のガレージキットまで紹介されています。92年版と2001年版の「恐竜大百科」はほぼ同じ内容ですが、種類こそ少ないもののなかなかユニークでアートな古生物イラストが楽しめます。恐竜模型の作り方を解説したコーナーもあります。

「恐竜大百科」(1979)/「恐竜もの知り大百科」(1988)「最新版・恐竜大百科(1992)/「最新版・恐竜大百科(2001)。

そして実業之日本社からは「全恐竜大百科」(1981)/「新版・全恐竜大百科(1988)の2冊。これらは150種/100種と種類は少なめですが、解説は充実しています。

秋田書店「最新版恐竜大全科(1978)は数は銘記されていませんがかなりの種類が載っています。日本の恐竜を紹介した章もあります。
双葉社「恐竜おもしろ図鑑」(1980)は絵が若干漫画的ですが、当時紹介されて間もない温血説とそれに反対する意見を取り上げた記事等あり濃い内容です。
桃園書房「大魔獣・恐竜ものしり大博士」(1981)は映画、それも主にモデルアニメーション映画に登場する恐竜・モンスターの写真を集めたマニアックな本です。
講談社の「おもしろクイズ大事典」(1979)はプロ野球、自動車に加えて恐竜に関する三択問題が90問有り、たとえばこんな難問も―クレプトレイドウスの特徴は?①祖先がわからない②首が短い③手足が無い―正解は①です。
学研の「きょうりゅう」(2002)は漢字がいっさい使われていない幼児向けの100ページにも満たない本ですが、写真やイラストはビックリするほど充実しています。

(⑦)コロタン文庫で見るトロエ(オ)ドンの姿の変遷 堅頭類→???な竜盤類→夜行性→羽毛

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引用元
「恐竜全百科」(1977)168p/「恐竜全百科」(1994)109p/「恐竜最新全百科」(2000)120p/「ティラノサウルス全百科」(2005)188p/「恐竜なんでも全百科」(2010)104p 小学館

(⑧)「恐竜グッズ大集合」(恐竜もの知り大百科)

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引用元
「恐竜もの知り大百科」266〜271p 勁文社

さて話は変わって、「始祖鳥」です。3月18日から上野の科学博物館で始まる「大英自然史博物館展」に始祖鳥ロンドン標本の実物が「初来日」します。この様な恐竜史を飾る大物が来るのは実に久しぶり。思い出されるのは1984年に、新宿駅南口の後に高島屋が建つ更地に巨大なテントをはって開催された「世界最大の恐竜展」で見た「ベルリン標本」実物化石です。「ブラキオサウルス」とともに恐竜展の目玉としてやってきた始祖鳥は(あくまで当時の私のイメージですが)奥まったスペースに安置され、バックは赤いビロード。まるで宝石の様な扱いで、見学者はガラス越しに遠目で見るしかなかったような…。まるでツタンカーメンの黄金マスクだなと思った事をおぼろげに覚えています。この展覧会はフンボルト大学のコレクションを集めたもの。そしてフンボルト大学の所在地は、当時は東ベルリンだったのです!正に隔世の感ありです。あの時のブラキオサウルス・ブランカイも今ではギラッファティタンと呼ばれているし…。

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(⑨)会場で買った土産の金属製フィギュア。高価な物ではありませんが写真に撮ってみるとさんぜんと輝いていて何やらありがた感があります。図録とブラキオタッチ証明書(あの頃の恐竜展の定番)も。

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「大英自然史博物館展」とても楽しみです。特に始祖鳥ロンドン標本は、以前ロンドンに行った時(秘宝館Vol.40)にはお目に書かれなかったので、ワクワクしてます。それにグッズも。どうやらマンテルのイグアノドンの歯の、3Dプリンターで新たに作られたレプリカが販売されるようで、これは少々高くても手に入れなければと意気込んでいます。次回は入手したてのグッズ紹介と、ロンドン標本来日を祝って「始祖鳥フィギュア大集合」です。
(⑩)我家のベルリン標本とHANSA社製のぬいぐるみを組み合わせて、チラシを真似てみました。


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。