Vol.28 コングとスカルアイランドの恐竜
結局のところ、Vレックスは顎を掻いてくれませんでした。昔のように顎を掻き掻きのんびり登場という訳にはいかなかった様でちょっと残念。でも映画の出来には大満足です。冒頭の大恐慌時代のニューヨークの街頭シーンから早くもワクワクし、夢のようなスカルアイランドの風景を堪能(原住民が棒高跳び?で船までアンをさらいに行くシーンが何故か印象的)、随所にちりばめられたオリジナル版へのオマージュに相槌を打ち、クライマックスのマンハッタンの夜明けの美しさに目をみはり、といった具合。
勿論最大の関心の的、恐竜たちもたっぷり拝めて、「ブロントサウルスがあんな狭い山の中にうじゃうじゃいるのは無理がある」とか「コングがVレックスにモロに噛まれても致命傷を負わないなんて、Vレックスの立つ瀬が無いぞ!」とか突っ込みも入れつつ、3時間はあっと言う間でした。
当たり前と言えば当たり前なのですが、妙に納得したのが、映画の中では恐竜の名前が一切出ない事。登場人物が「あっ!ティラノサウルスだ!」などと解説してしまうシーンは恐竜映画にはありがちですが(例えば「恐竜100万年」で原始人が巨大海亀を「アーケロン!」と呼んでしまう有名なお笑いシーンがあります。)、デナム御一行は誰も恐竜の属名どころか恐竜という単語すら知らなかったようです。では何故Vレックスをはじめとして登場する恐竜に名前が付いているかと言うと、フィギュアを売るためと言うのは置いておいて、ちゃんとわけがあるのです。
コングがニューヨークで非業の死を遂げた2年後、スカルアイランドに探検隊が上陸、その時の詳しい調査報告をまとめた本が出版されています。「A Natural History Of SKULL ISLAND」という本で、Vレックス(Vastatosaurus rex)やヴェナトサウルス(Venatosaurus saevidicus)等映画に登場した恐竜は勿論の事、スクリーンには影も形も無かった昆虫から魚類、爬虫類、鳥類、哺乳類、恐竜、果ては獣形爬虫類まで、膨大な数の動物が、学名を付けられイラストや骨格図で紹介されていて、ある意味映画以上に面白く、英語力皆無の私としては是非とも翻訳して欲しい本です。あの「アフター・マン」や「新恐竜」に匹敵すると思われます。 スカルアイランドに生息する恐竜は6500万年の間進化を続けていたという至極もっともな設定で、Vレックスは勿論Tレックスの子孫です。
何故かブロントサウルス(いい呼び名ですねえ。1930年代当時はアパトではなかったわけですから、時代考証も行き届いていて心憎いですね)だけはジュラ紀から殆ど進化せず、新種(baxteri)ではありますが同じ属のままです。
この本の中でイラストで示されている、TレックスとVレックスの頭骨の比較図をモデルで再現してみました(イラストでは想像上の中間種も描かれています)。Tレックスはブラックヒルズ製「スタン」、Vレックスの方は、今回のコンググッズの中では最高にお勧めの、「WETA」製の頭骨シリーズの物です。他にヴェナトサウルス、一瞬しか登場しない脇役のFerrucutusと名付けられた角竜、それにコング本人?の素晴らしい出来の頭骨が5000円前後という嬉しい価格で限定販売されています。とてもこだわって作ってあって、記載論文が書けそうな位です。
田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。