ファン、コレクターも多い古生物界のスター
ゴジラと三葉虫
私が三葉虫の存在を最初に強く意識したのは、ゴジラシリーズの第一作「ゴジラ」(1954)だったと思います。巨大な足跡に三葉虫が付着しており、その足跡を付けた動物(ゴジラ)が太古の動物の生き残りであることを示唆するシーンです。ただし、劇中ゴジラはジュラ紀の生物とされる一方、三葉虫はジュラ紀以前に絶滅してしまっています。つまりこの組み合わせは年代的には間違っていますが、ゴジラが現代まで生息していたのが時代の異なる様々な生物が生き残っている特異な場所である、と考えればこの組み合わせが成り立ちます。単にジュラ紀という年代に合わせるならばアンモナイトが適しているとも思えますが、足跡に張り付いているという描写にはやはり三葉虫が相応しいでしょう。また1954年の「ゴジラ」公開当時には、古生物としての三葉虫の存在が一般的にもある程度認識されていたのかな、と想像したりもします。
フィギュアとイラストの仕事で三葉虫の世界に
それまでほとんど知識が無かった三葉虫について、じっくりと学ぶきっかけになったのがフェバリット社の古生物フィギュア・ミニモデルシリーズのオレノイデス(三葉虫の属の一つ)原型製作と書籍「世界の恐竜MAP」のためのイラスト製作の仕事でした。ほぼ時期を前後してその2つの仕事を担当したのですが、オレノイデス原型製作においては三葉虫の体の構造について学ぶことになりました。フィギュアの原型ですから、立体物として体の裏側(腹側)もしっかり造形する必要があったのです。そして「世界の恐竜MAP」では世界中で見つかっている三葉虫の中から約70種のイラストを描き、この作業を通して三葉虫のデザインの多様性を知ることになりました。最初は棘が体中に生えている種や、特徴的な形の角を持つ種など、派手な外観のものに面白さを感じましたが、多くの三葉虫を描いているうちにシンプルな姿の種類の中にある細かな違いにも気づくようになり、それもまた面白くなりました。さらには同じ種の中でも標本による個体差もあります。この種類とデザインのバリエーションの多さ、化石標本それぞれ個々の違いに、三葉虫の世界の奥深さと魅力を垣間見、そして三葉虫ファン・化石コレクターが多くいることにも納得したものです。
ヒューストン自然科学博物館のコレクション
そうして、なんとなく三葉虫の面白さが分かって来たときに訪れたのがアメリカのヒューストン自然科学博物館でした。当初は恐竜を始めとした古脊椎動物の展示を楽しみにしていましたが、現地に行って驚いたのが三葉虫の展示でした。サム・スタッブス氏による個人コレクションが元になった展示ということなのですが、その標本数と一つ一つの標本の素晴らしさは私でも十分に分かります。加えてそのコレクションの質の高さに見合った展示手法にも感心しました。もし事前に私が三葉虫のフィギュアとイラストの仕事をしていなければ、この展示の価値にもあまり気が付かず、後々になってそれが分かり悔しい思いをしたことでしょう。本当に良いタイミングで三葉虫を学ぶ機会を持てたものです。
とはいえ、私の三葉虫の知識はまだまだ。やっと入門編のさらにその入口くらいです。でも、それはこれからの楽しみが膨大にある、ということでもあります。これまでに1万種以上が記載されているという三葉虫の世界は深入りすると大変そうでもありますが、今後も博物館訪問時には三葉虫の展示にも注目し、これまで以上にじっくりと見ていこうと思っています。
フェバリットのオレノイデスに彩色を加えて標本箱に入れてみました。標本箱は神戸の昆虫標本店・六甲昆虫館に依頼製作して貰ったものです。
参考文献
- 「三葉虫の謎」著・リチャード フォーティー 早川書房 2002年
- 「世界の恐竜MAP」 著 土屋健 エクスナレッジ 2016年
- 「アンモナイトと三葉虫」子供の科学編集部編 誠文童新光社 2012年
徳川 広和 Hirokazu Tokugawa
株式会社Actow代表取締役。
日本古生物学会会員。
1973年福岡生まれ。学術的な考証と立体物としての魅力が融合した作品製作をめざす恐竜・古生物復元模型作家。
博物館・イベントでの作品展示や商品用原型等を制作。『恐竜の復元』(学研)『なぞにせまれ!世界の恐竜』(汐文社)『ほんとは”よわい恐竜”じてん』(KADOKAWA)等の書籍へ作品、イラストを提供。
恐竜・古生物に関する各種イベントやワークショップの企画、講演などの活動も行う。