古生物よもやま話

ミニスカルシリーズやプレヒストリックライフシリーズの総合監修を務める徳川広和氏が隔月でお届けするエッセイコンテンツ『古生物よもやま話』。恐竜だけではない太古に生きた生物たちの一面を、徳川氏の視点から紹介していきます。

いまだ謎多き巨大ザメ

— メガロドン —

メガロドンはどのサメに近いのか?

私はまずメガロドンの学名をカルカロドン・メガロドンで覚えました。カルカロドン属のメガロドン種、ということになります。カルカロドン属には現生のホホジロザメが含まれます。つまりメガロドンとホホジロザメは非常に近縁であり、そこから想像するメガロドンの姿はまさに「デカいホホジロザメ」。
ですが現在ではカルカロドン属ではない、という説が有力になり、オトドゥス属、カルカロクレス属説があります。これらの説の場合には、メガロドンは同属に現生種のいない、属全体が絶滅したサメの1種という事になります。

属が変わってもメガロドンはメガロドン

今では絶滅したサメの代表のように浸透したメガロドンという通称。さらにそのメガロドンから派生したMEG(メグ)という呼び名は小説・映画のタイトルにもなりました。属名で覚えられる事が一般的な古生物のなかで、メガロドンは種小名が通称として馴染まれている珍しい例の一つです。そしてそれがゆえに、たとえ属がカルカロドン属から変わろうとも種小名のメガロドンが変更されない限りメガロドンという通称は変わらない、ということになります。種小名が通称であったことで研究の進展に左右される事がない訳で、それは古生物好きにとっては幸運な事だったと思うのです。「大きな歯」が語源のメガロドンという、いかにも大きなサメを表している、そして多くの人に馴染まれている通称が無くなってしまうのはとても残念で寂しいですから。

泳いでいる化石ゾウ類の1種・プラティペロドン(右)を襲うメガロドン(左)ヒューストン自然科学博物館にて2018年撮影 獲物を襲うメガロドン、というシーンに加え、泳いでいるポーズの化石ゾウ類の骨格の珍しさもあり、印象の残る展示です。
泳いでいる化石ゾウ類の1種・プラティペロドン(右)を襲うメガロドン(左)
ヒューストン自然科学博物館 2018年撮影
獲物を襲うメガロドン、というシーンに加え、泳いでいるポーズの化石ゾウ類の骨格の珍しさもあり、印象の残る展示です。

その大きさに諸説あり

他の古生物と同じくメガロドンにも多くの謎がありますが、その中でも注目されるのが大きさです。ホホジロザメよりも大きい事は確実なのですが、その大きさについては10m~20mの間で諸説あるようです。仮にその中で最小の約10mとしても、現生のホホジロザメの約2倍です。化石魚類としては全長約16m説のあるリードシクティスがメガロドンより大きい化石魚類候補となりますが、リードシクティスはプランクトンを食べていたとされています。捕食魚類としてはやはりメガロドンが史上最大の魚類になるようです。

日本でのメガロドン

メガロドンの歯の化石は日本国内でも発見されています。埼玉県からは同一個体分のものと考えられるメガロドンの歯が見つかっています。複数の歯が同一個体分と分かるものは珍しく、それによりアゴの大きさや体長がより具体的に推測できる可能性があります。日本で見つかった化石が世界でも重要な発見である古生物という例はいくつもありますが、メガロドンもその中の一つなのです。
埼玉県立自然の博物館には、その埼玉で発見された歯の化石をもとにしたアゴの復元模型と、全身12mの実物大復元模型が展示されており、メガロドンの大きさを実感出来ます。

メガロドンの復元されたアゴと全身復元模型 埼玉県立自然の博物館にて2014年撮影 メガロドンの復元されたアゴと全身復元模型 埼玉県立自然の博物館にて2014年撮影
メガロドンの復元されたアゴと全身復元模型
埼玉県立自然の博物館にて2014年撮影

全身像もまだまだ謎

軟骨魚類であるサメは化石として残るのはほとんどが歯。歯以外の脊椎などの胴体部が残るのは稀で、メガロドンも胴体部の情報はほとんど残っていないようです。つまり大きさだけでなく、その姿も分からないのです。カルカロドン属説に従えばホホジロザメを元に姿を推測する事になりますが、他の属であるという説に従えば、また違う姿の可能性が出てきます。フェバリット社のソフトモデル用原型制作の際には、ホホジロザメを元にしつつも推測されるアゴの形の考察などをとりいれ、ホホジロザメに比べアゴがゴツイ、少々「ふてぶてしい顔」に造形しました。こうしていろいろと姿を推測するのは楽しいですが、やはり実際の姿の手がかりになる化石の発見が期待されます。
メガロドンよりもずっと時代の古いデボン紀の軟骨魚類クラドセラケでは全身像やヒレなどの形が残る化石が発見されています。となるとメガロドンでもそういう化石が、更にそれが日本で発見される事もあるのでは、と思ってしまうのです。

クラドセラケ化石 クリーブランド州立自然史博物館にて2008年撮影
クラドセラケ化石
クリーブランド州立自然史博物館にて2008年撮影
参考文献
  • 「深層サメ学」 著・佐藤圭一 冨田武照 産業編集センター 2021年
  • 「海洋生命5億年史 サメ帝国の逆襲」 著・土屋健 文藝春秋 2018年

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徳川 広和 Hirokazu Tokugawa

株式会社Actow代表取締役。
日本古生物学会会員。

1973年福岡生まれ。学術的な考証と立体物としての魅力が融合した作品製作をめざす恐竜・古生物復元模型作家。
博物館・イベントでの作品展示や商品用原型等を制作。『恐竜の復元』(学研)『なぞにせまれ!世界の恐竜』(汐文社)『ほんとは”よわい恐竜”じてん』(KADOKAWA)等の書籍へ作品、イラストを提供。
恐竜・古生物に関する各種イベントやワークショップの企画、講演などの活動も行う。

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