新恐竜秘宝館

Vol.87 九州恐竜紀行2025と歳末大絶滅

前回計画中と書いた恐竜倶楽部九州ツアーは当初の予定通り、103日から23日で、長崎、御所浦、御船の博物館を走破するという、恐竜に特化したハードなスケジュールで決行されました。ありがたいことに、長崎在住の恐竜倶楽部員Oさんが勝手知ったるルートを車で連れて行ってくれたおかげで、とてもスムーズに回れました。

長崎の出島、天草四郎像、阿蘇山などご当地の観光名所は車窓から拝んだだけですが、恐竜俱楽部としては、そんなものより街中に潜む恐竜物を発見する方が大事で、例えば建物の屋根にへばりついた獣脚類を発見して(御船)皆で写真を撮りまくるといった恐竜倶楽部ならではの旅を満喫しました。

まずは博物館のレポートから。

 

長崎市恐竜博物館

 

2年前に行った時と展示は変わっていないので、館内の様子はそちらを見ていただくとして(新秘宝館Vol.76)、今回は視点を変えてご紹介。

 

画像1

 

出来て4年の博物館だけあって、入口脇で迎えてくれるティラノは僅かに毛を生やしています。再会したトリックスは相変わらずの存在感でした。そして目ざとく見つけた2点。通路脇の小部屋にさりげなく置かれていたトリックスの3Dプリンターによる縮小レプリカ(喉から手が出るも残念ながら非売品)と、その向かいの部屋のロッカーの上に無造作に並べれていた、びっくりするほど良くできた折り紙恐竜。

 

下の段

左奥にうっすらと見える軍艦島とカウディプテリクス。このような開放感あふれる展示はこの博物館ならではのものです。右は翌日から開催される企画展「恐竜今昔物語~長崎における化石研究の軌跡」のための展示準備が終わった、横山又次郎博士の寄稿記事が載った雑誌「少年」。実は私が寄贈したもので、新秘宝館Vol.47で詳しく紹介した本です。貢献できて嬉しい限りです。企画展開催準備で忙しい中、我々に付き合ってくださった学芸員の中谷さん、ありがとうございました。

 

さてミュージアム・ショップの戦利品はと言うと…

一見どこにでもありそうな頭骨キーリングですがよくよく見るとなかなかリアルな出来。帰ってから調べたらFCプラネットと言う山形のメーカーの製品でした。ピンズやマグネットなど恐竜小物を販売している様で、後述する科博の「大絶滅展」のショップにも化石ピンズが置かれていました。スピノはゆるいディフォルメモデルですが、ご当地野母崎産と銘記されていては買わないわけには…。黒い板状のティラノは「炭零(すみれ)」という商標の消臭インテリアで、製造元は渋く「塚崎修商店」。恐竜のメッカ福井県産です。そして我ら恐竜倶楽部に大うけだったのが、ステゴサウルスの“背びれが軍艦島という秀逸なデザインの博物館オリジナル・バッグ。他にTシャツやタオルもありました。

 

御所浦恐竜の島博物館

 

画像2

画像3

 まだ「白亜紀資料館」という名の小規模な施設だった2000年代初頭、やはり恐竜倶楽部で見学に訪れたことがあります。今はガラスケース内に大切に展示されている「日本最大級の肉食恐竜の歯」は当時はまだ引き出しの中で、特別に触らせてもらったり、船でしか行けない発掘現場に連れて行ってもらったりと、かけがえのない貴重な体験をさせていただきました。(秘宝館Vol.51博物館は去年3月にオープンしたばかり。丁度、特別展「恐竜の王者~ティラノサウルスの進化」展をやっていて(1214日まで)期待以上に充実した内容でした。

 

ディロンとグアンロンの復元模型/ライスロナクス(リトロナクス)/ナヌークサウルス

(ナヌークサウルス頭骨とは初対面。黒っぽい部分が発見された部位という判りやすくも素朴な造形です)/テラトフォネウスとススキティラヌス/アリオラムス

 

下段はTレックス達。左から2枚はスタンにクリーニング以前のAMNH5027頭骨、そしてワイレックス。

*ワイレックスの初来日は2017年「ギガ恐竜展」でした(新秘宝館Vol.37)。その時は尻尾は切断されていました。2024年の「巨大恐竜展」では何故か治療されて繋がっていたのですが(新秘宝館Vol.79)、今回はめでたく元どおり床に落ちていました。

 

右は今恐竜界で最もトレンディな、Tレックス幼体とジェーンです。ジェーンはTレックス亜成体ではなく、ナノティラヌス成体という事に落ち着いたようです。この幼体頭骨は下顎のみ発見されていて、上部はジェーンやタルボ幼体を参考に作られたもので信憑性はないという情報が有ります。

常設展も立派で、詳しく紹介したいところなのですが長くなるので割愛。印象的だった中央の恐竜パレードの写真のみでご勘弁を。

*前回の北九州といい次に紹介する御船といい、九州の博物館では恐竜大行進展示が大流行り。生で見ると迫力があって良いのですが、写真に撮ると骨が重なり合って判別し辛くなるのは困ったものです。

横倒しになったディプロドクスの首にアロサウルスが噛み付こうとしている後方に佇むティラノは、今風にリニューアルされたニューヨーク自然史のAMNH5027です。壁際には御所浦で発掘された化石や小型恐竜、頭骨などがズラリと展示され、2階は新生代の哺乳類コーナーでした。

ショップの外には地元の石工の技がさりげなく置かれていました。スキャンして小さなレプリカにしてオリジナルグッズとして販売すれば買うのに…残念ながらショップで手に入れたのは写真の3点のみです。左は博物館オリジナルガチャで出たアクリルキーホルダーで、御所浦で最初に見つかった恐竜化石(植物食恐竜の脛骨)だそうです。中央はやはり地元感溢れるモササウルスヌイグルミ。御所浦ではモサの歯の化石が発見されていて復元模型も展示されています。そして旅の思い出にはぴったりの民芸品「土浦土玩具(どろがんぐと読む)」。天草に伝わる土人形の技術を受け継いだ新しい郷土玩具だそうです。博物館では、このやや無理やり頭骨が描かれた「恐竜」の他に「アンモナイト」「地層(!)」が売られていて全部揃えたかったのですがお値段の方が意外と…

 

御船町恐竜博物館

 

画像4

御船町恐竜博物館には90年代後半、熊本での仕事の合間に一人でバスに乗って見学に行ったことが有ります。(秘宝館Vol.512000年にリニューアルされ、前述の第一回恐竜倶楽部九州旅行で御所浦とハシゴしました。

2014年に新館がオープン。行きたかったのですが機会が無く、ようやく今回実現した次第。4半世紀ぶりの御船の町は様相が一変し町には恐竜が溢れていました。写真の立派な御船竜(カルカロドントサウルス類)のモニュメント以外にも何体ものリアルな恐竜像、中学生が作ったという素朴なティラノとステゴ、恐竜広場の翼竜の塔…。道路脇にはマニアも納得の石碑が置かれていました。写真は発見部位が示されている(!)バックランドのメガロサウルス頭骨レリーフ石碑。他に産状化石を忠実に石に刻んだミクロラプトル石碑なども。屋根に恐竜が乗っているのは商工会館。恐竜ケーキや恐竜ジャムのお店もありました。

博物館ホールの大行進は御所浦よりもさらにぎっしりと詰め込まれていて、写真だともうわけが判りませんが、正面から撮るとトリケラの脇からティラノとスコミムスが顔をのぞかせていて絵になります。このティラノはMOR555「ワンケル」です。2階からの写真に写っている竜脚類はなんとブロントサウルスと表記。もちろんかってはアパトだったのですが、ネームプレートが変わった事は見学に参加した熊本在住の倶楽部メンバーも気が付いていなかったようでびっくりしていました。

中小の恐竜の骨格も揃っていて、壁際の御船産化石など細かい展示に加え、白亜紀の御船ジオラマ、ケースに収まり模型かと思うと突如動き出して子供を怖がらせるという芸を持つ羽毛ラプトルなど盛りだくさんでした。2階の館長室?に御船竜像の原型とおぼしき模型があり(よく見るとフェバリットの頭骨模型も)、縮小コピーしてオリジナルグッズにするにはピッタリだと思ったのですが…

ショップは経営が変わった直後という事で、品数も少なく食指が動くものは何もありませんでした…残念!

 

振り返ってみると、この夏から秋にかけて九州で見たTレックス全身骨格は、スー/スタン/トリックス/AMNH5027/ワンケル/ワイレックス。そして夏に福井でブラック・ビューティー、11月に科博でバッキーを見たので、4ヶ月で日本在住Tレックス全身骨格をほぼ制覇したことになります。

というわけで、九州で思ったほど散財しなかったので、メルカリで見つけ気になっていたタブリンさん(新秘宝館Vol.21Vol.84)作の木製バンビラプトル頭骨を購入しました。

 

画像5

いいもんです!とくとご覧あれ。スケールは1/1です。11月に科博に行ったときにバンビラプトルの展示を撮ってきました。図版は記載論文のものと思われますが、となりのレプリカよりタブリンさん作品の方が図版に忠実な気がします。

 

11月に入って、東京の西葛西にあるTCA東京ECO動物海洋専門学校の恐竜・自然史博物専行科の校舎で「第5回化石マーケット」という催しが行われました。化石や手作り古生物グッズを販売、加えてアクロカントサウルス全身骨格がどうにか収まっているこじんまりとした博物館で、展示物を前にして講師の方や学生さんと恐竜談義ができるという楽しい場です。

 

こちらでの収穫

 

画像6

 Higashimotoさんという女性アーティストの作品。木製のパラサウロロフス頭骨マグネット。簡素ですが押さえるところは押さえています。

ダイナソーべースというメーカーの3Dプリンター製マイアサウラ幼体ネックレス。2cm程のサイズです。少し大きめなサイズの物はスタディルームなどで売られていましたが買うのに躊躇するお値段で、今回ようやく手頃な価格になったので購入。小さいとは言えなかなか奇麗です。

鈴木巌青(いわお)さんという新進の日本画家の作品2点。右の「太古の心臓」と題された絵はポストカードなのですが、原画を日本画恐竜展で拝見したことがあります。かなり大きな作品でした。中央は「化石マーケット」直前に、会場に展示されたスタンを写生した絵のA4サイズの複製ですが、飾られていた原画はB3サイズのなんと鉛筆画です。鉛筆画にしてこの質感。私などが言うのは口幅ったいのですが、凄い力量の方なのだなと思います。それにもちろん恐竜愛に溢れています。

 

最後に現在科博で開催されている「大絶滅展」のご報告。

 

画像7

いわゆるビッグファイブがテーマなので恐竜はあまりいません。古生代の化石展示もとても充実していたのですが、ここでは私が今最も関心のある第4の大絶滅「T-J境界(三畳紀末の絶滅)」に焦点を絞ります。実際会場で最も華やかな展示は、三畳紀代表フィトサウルス類レドンダサウルスとジュラ紀初期代表クリオロフォサウルスの2ショットでした。なのに関連グッズは小さなクリオロフォサウルスのピンバッジのみとはいったいどういうことかあ!と憤っていても仕方ないので、それ以外の主な展示を挙げるとします。

 

三畳紀:タニトラケロス(タニストロフェウス類)/ポストスクス(偽鰐類)/エフィッジア(偽鰐類)/アシリサウルス(恐竜形類)/そしてお馴染み恐竜類エオラプトル、ヘレラサウルス、コエロフィシス

ジュラ紀:ステネオサウルス(ワニ形類)/

プロトスクス(ワニ形類)/ヘテロドントサウルス

 

ここでひとつ気になることが…。

「クルロタルシ大絶滅か!?」

一時期あれほど頻繁に使われていたクルロタルシ類という分類名が会場のどこにもありません。実はこのところあまり使われなくなっていて、例えば土屋健さんの最新刊「史上最大の大量絶滅では何が起きたのか?」(ブルーバックス)はペルム紀大絶滅を取り上げた本で、当然絶滅後の三畳紀も詳しく解説しているのですが、クルロタルシ類の名は無く代わりに偽鰐類が使われています。モヤモヤするのでウィキで調べたら、とんでもないことになっていました。

 

これほど定義が諸説入り乱れているとは!

私は単純にクルロタルシ類とは恐竜や翼竜を含む鳥頸類以外の主竜類すべてを指す(当然フィトサウルス類も偽竜類も含む)ものと理解していました。「大絶滅展」では植竜類(フィトサウルス類)は主竜形類とされ、主竜類・偽鰐類(シュードスキア類)と分けられています。クルロタルシ類の出る幕はありません。すわクルロタルシ絶滅かと思いきや、ウィキの最後に恐竜など鳥頸類がクルロタルシ類に含まれるという許しがたい説が紹介されています。これでは現生のクルロタルシ類はワニと鳥になってしまいます。こんなカオス状態では、うかつにクルロタルシ類などと言えないわけで、最近の風潮に納得です。結局我々シロウトはクルロタルシ類の行く末を楽しむのが得策かと。

 

「大絶滅展」でもう一つの「絶滅」を発見。中段のティラノとトリケラです。これこそまさしく2004年に大絶滅した科博旧恐竜ホールに私が子供のころから展示されていた物。再会できて少々ウルウルしてしまいました。右の写真は1980年ごろの恐竜ホールの様子で、「日本の博物館10―自然史博物館」(講談社1981)からのものです。ティラノは柱に据え付けられています。

ここで特別展限定グッズの紹介といきたいところですが、この頃の傾向としてヌイグルミやキャラクターとのコラボグッズばかりで私の守備範囲ではありません。エーギロカシス(世界初の3Dモデル?)とタリーモンスター(新秘宝館Vol.54)のヌイグルミを渋々買っただけで後はパス。ヌイグルミは全9種あるのですが、それなりの値段だし場所もとるので買い揃えるわけにはいきません。NHK色のティラノ(NHKの映像と頭骨のみの出展)を除いた6種を我が家のコレクションに置き換え、「特別展グッズをヌイグルミばかりにするのはやめてくれ!」と言う抗議を込めて、紹介します。

 

アノマロカリス(焼き物)/三葉虫(金属製で眼がフックになっていて物が掛けられます)/サカバンバスピス(ガチャ)/ダンクルオステウス (スターエーストイ製・産状風フィギュア)/ディメトロドン(中国メーカー「菊石」製/ステラーカイギュウ(タカラトミーのガチャ「不思議生物大百科・絶滅動物」

 

これらがヌイグルミとなってショップに並んでいるわけです。

購入したエーギロカシスとタリーモンスターの姿をお見せする前に、もう一つ科博絡みの話題を。

 

画像8

10月末に発売されたばかりの「学研の科学」恐竜化石発掘キットです。あの科博恐竜展示室の壁に鎮座しているトリケラトプス実物化石・レイモンドの1/48のモデルを発掘するという嬉しい趣向で、レイモンドについての解説書付きです。掘り出してみると本体は黒一色だったので、大絶滅展に行った時に写真を撮り、参考にして彩色しました。雰囲気はまあ出たと思います。せっかくなので他のレイモンドと並べてみました。いずれも科博ショップで購入した物。

左はマグネットで「化石発掘トリケラトプス」という商品名ですが、購入した年代などは判りません。中央は2004年の新館(地球館)オープンに合わせて発売された「科博所蔵品再現モデル」シリーズのひとつで造形は海洋堂、原型制作は山本聖士さん。さすがな出来映えです。残念ながら現在は絶版となっています。右は今回「大絶滅展」の時に見つけた科博限定のガチャ「国立博物館スタンドフィギュア」シリーズの物で、一発で出ためでたい物。同シリーズにはフローレス原人もいたので次回挑戦するつもりです。

「学研の科学」のレイモンドは、ひとまわり大きいだけあって細部まで良くできているのですが、発掘時の強度を保つためか若干の省略が有ります。どうせならこの際1/35で完全ディスプレイモデルを発売して欲しいというのが、私の来年への願い事です。

 

今年の締めはエーギロカシスとタリーモンスターと系統樹ツリーでメリークリスマス! 

本年もご愛読ありがとうございました。

来年もよろしくお願いいたします。


前の記事

田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。