Vol.65 「ブリアンが、来る」
まだ企画の段階ですが、このような展覧会が開催されます。
特別展「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」(仮題)
兵庫県立美術館 2023年3月4日~5月14日
*その後、東京にも巡回予定
19世紀の貴重な古生物画(新秘宝館Vol.60ライム・リージス編でご紹介したリトグラフ「太古のドーセット」の油彩画版や、あの〈水晶宮〉ホーキンズの作品も!)から、なみだ涙のブリアン、チャールズ・ナイト、ニーヴ・パーカー、さらにはルネッサンス後のダグ・ヘンダーソン、グレゴリー・ポール、スティーブン・ツェルカスなどの、直視したら目が潰れそうな“原画”がズラリと並ぶ…これは凄いことです。
中でもブリアンは、私にとって特別の思いがあります。「ぼぎわん」の主人公(1人称で登場するのに途中でぼぎわんに頭を半分食われてまさかの退場)は幼少の頃、あることでぼぎわんがトラウマになるのですが、私もブリアンの絵は今に至る心地よい“トラウマ”です。(新秘宝館Vol.10)
生きているうちにブリアンの原画を拝めるとは思いませんでした。しかもこの企画展の展示の片隅に、なんと私のコレクションも参加させていただくことになったのです。こんな嬉しいことはありません。これまでコレクター人生を歩んで来た甲斐があったというモノです。
と言うわけで今回は「ブリアン祭り」です。
まずは日本で刊行されたブリアンの画集を集めてみました。
「原色・前世紀の生物」(1962岩崎書店)
私の恐竜人生の原点です。古生物解説はオーガスタ。1ぺージに一点の作品というレイアウトは美術書感があふれています。
「図鑑・人類以前」(1974徳間書店)
解説はズデネック・スピナール。「前世紀」と共通の絵も何点かありますが、描きなおされた古生物も多数。絵はトリミングされています。
「人類,その誕生まで」(1978佑学社)
文章はヨゼフ・クライブル。人類しか出てこないのでコレクションの対象ではないのですが、ブリアンなのでつい買ってしまった一冊。
「化石がかたる太古の地球」(1986佑学社)
イグアノドンを描いている自画像等、他では見られない作品も収められています。
「35億年・生命の歴史―ブリアンの古生物図鑑」(1993偕成社)
かこさとし著
チェコで原画を撮影し、当時の最新の印刷技術を駆使したそうです。
*人類モノなのであえて探しもしなかったのですが、「原色・前世紀の生物」に「人類の祖先」近刊との告知パンフレットがはさまっていました。実際に出版されたかどうかは確認できません。また1982年には「図説・原始人類」が啓学社から刊行されています。
そして小さめのサイズのものは「恐竜たちの謎」と題された「ブリアン&ブリッチェ恐竜館」のパンフレット。この恐竜館は、かって所沢にあったユネスコ村に1980年にオープンした施設です。ユネスコ村と言えば1993年JP年にオープンし2006年まで存続した「大恐竜探検館」が記憶に残りますが、その前身と言うべき「ブリアン&ブリッチェ恐竜館」はいたって地味。一度行ったことはあるのですが、確かブリアンの作品10数点の写真パネルと、意味不明のアートな恐竜が展示されているだけで恐竜の化石や模型は無し。がっかりした覚えがあります。パンフレットは現在群馬自然史にあるので中身が確認出来ないのが残念。しかし過去に、写真パネルとはいえブリアンの作品をメインにした恐竜館があったことは特筆すべき事です。
画像2はブリブリ恐竜館で売られていた絵葉書セット。これはヤフオクで手に入れた物ですが、当時記念に買ったものが、部屋のどこかに眠っていないとも限りません。
ブリアンまちがいさがし
次の画像をご覧になって違いを見つけましょう。
https://ameblo.jp/azurin88/entry-12473430459.html
https://www.donglutsdinosaurs.com/wp-content/uploads/2012/02/Burian-postcard.jpg
あっけないほど一目瞭然ですが、この有名なティラノサウルスとトラコドンの絵、「PREHISTORIC ANIMALS(「前世紀の生物」の原書1961)」、ではくねくねしていた尾が「Life Before Man(「人類以前」の原書1972)ではまっすぐになっています。おそらく当時の新しい学説を取り入れ修正したのでしょう。よく見ると絵を消した跡もうっすら残っています。他に「前世紀」では魚を追っていたメソサウルスが、人類以前では餌を取り上げられています。メソサウルスは、今は小さな甲殻類やプランクトンなどを食べたとされますが、魚が消されたという事は、魚食説は70年代初めには既に否定されていたのでしょうか?
さらに「Life Before Man」の第4版(1977)ではあの名高い水中のブラキオサウルスの絵が陸上ブラキオサウルスに差し替えられているのをはじめ、バロサウルスやガリミムス、カスモサウルスなど、尾を引きずらない恐竜の絵が多数加えられています。81年に亡くなったブリアンは、生涯現役だったのです。
なんちゃって和製ブリアン
60年代から70年代にかけて、我国の図鑑や少年誌に登場する恐竜画はブリアン(またはナイト)の影響を受けた、と言うよりあからさまなコピーが大半を占めていました。その道の第一人者は清水勝画伯ですが、そちらは新秘宝館Vol.47を見ていただくとして、ここでは全篇ブリアンコピーで埋め尽くされた図鑑「生物の歴史」(講談社1966)をご紹介しましょう。
どの絵もビミョウなアレンジが加えられ、動物の配置が変わったりしています。まちがいさがしで紹介したトラコドンの絵のティラノはオルニトミムスに気を取られているようですが、遠近法がおかしく、だいぶ縮んでしまっています。隣のメソサウルスはモノクロになった代わりに海底の情景が細かく描き込まれアンモナイトまで咥えていますが、実はこの絵、モササウルスの噛み跡があるアンモナイトの説明に添えられたものなのです。悲しいことにこの絵の作者はモサとメソを取り違えてしまったようです。確かにローマ字表記するとMosaとMesoは似ていますが、取り返しのつかない事です。
下段左は「原色・前世紀の生物」の裏カバーにも使われたゴルゴサウルスとスコロサウルスの図で、私はこの絵が当時の少年恐竜本の定説「ゴルゴサウルスは前かがみで太っていいて動きが鈍い」の元凶になったのではないかと思うのですが、隣の「科学大観」の表紙はなんとそれに着色したもの。この本はブリアンを知る以前から持っているので、私にはこちらのカラー版の方が刷り込まれているのです(新秘宝館Vol.10)。そしてその右は「トッパンのこども絵本・きょうりゅう」の表紙で和製ブリアンの真打、清水勝の作品。ゴルゴサウルスの顔とスコロサウルスの向き、背景など独自のアレンジをしていますが、溢れるブリアン愛は隠しきれません。
※「生物の歴史―学習・目で見る科学3」
講談社1966 p50/p64/p59/p53/p52/p57/p58
3Dブリアン
ブリアンの描く恐竜は、恐竜模型の世界にも多大な影響を与えています。それらのいくつかをブリアンの世界に置いてみました。
左上は海洋堂の初期のガレージキット、山下伸一さん原型のトラコドン(秘宝館Vol.62)。「PREHISTORIC ANIMALS(「前世紀の生物」)」の表紙と同様な見返りトラコのポーズです。その目線の先には松村しのぶさんの超貴重なブリアン・ティラノ(ミネラルショーで極少数販売)がいます。中段は60年代後半のPYRO社のプラモデル、コリとサウルスとプロトケラトプス。ブリアンそっくりですが原画と比べたい方はこちらを。
https://www.flickr.com/photos/timetravelnow/5478334092/in/photostream/
https://www.flickr.com/photos/timetravelnow/5478351850/in/photostream/
下段は秘宝館Vol.18、新秘宝館Vol.49で紹介済みのルナモデルズのガレージキット。今回初めて、ブリアンの絵に近いアングルで撮影しました。その右は2018年に発売された海洋堂のソフビモデルで、原型はSHINZENこと竹内信善さん(秘宝館Vol.64にも登場)。海洋堂のサイトではこのように紹介されています。
確かにブリアンカラーですが、もともと現代型ティラノなのでゴジラ立ちは無理があり、ちょっと残念…。
さて話題は変わって新たに手に入れた古書のお話。このふた月の間に、恐竜古書を取り憑かれたように衝動買いしてしまいました。
お金も使いましたが収穫も大でした。さっそくお披露目です。
まずは「前世紀少年サピン」の続報。前回紹介した第34回の前後の話が載る小学五年生1955年12月号、56年2月号の2冊を迷った挙句やっぱり購入。
サピンとユキメはステゴザウルスとそれを襲うケラトザウルスに遭遇。そこにオルニソレステーズもぴょんぴょんと現れます。うまくその場を逃れたサピンの前に三角竜が池から上がってきて34号へ。
二人は雷竜の卵を食べてしまい、怒った雷竜に追われます。なんとか崖にたどり着きよじ登るのですが、今度はアトラントザウラスが登場します。難を逃れたサピンたちは海岸の崖の上に出て、降りようとするのですが、そこへ翼手竜が…つづく。残る連載はあと4回。二人は故郷に帰れるのでしょうか。
※「小学5年生」小学館
1956年12月号 p43~p50
1957年2月号 p315~p322
そして、新秘宝館Vol.6で、横山又次郎先生の著作を並べた後にネット情報として紹介した「動物進化論」と「進化原論」が今手元にあるのです。「動物進化論」は昭和5年に出版された「明治文化全集・科学編」のさらにその復刻版(1967年刊)に収められたものですがオリジナルの内容は把握できます。そして「進化原論」の方は紛れもなく明治22年刊のお宝です。まずはこちらから。
「進化原論」明治22年(1889) 丸善商社 トーマス・ハックスレー講述 井澤修二訳
新秘宝館Vol.6で書いたとおり、明治12年刊の「生種原始論」の完訳版なのでどちらも同じイラストだと思われますが、前にリンクした国会図書館デジタルコレクションの画像よりはるかにきれいでびっくりしました。羽指蛇、魚蛇、蜥類蛇の、黒い生体輪郭に収まった繊細な白い骨格は、まるで百年先取りしたグレゴリー・ポールではないですか!
「動物進化論」明治16年(1883) 萬卷書樓藏版 ドワルド・エス・モールス(述) 石川千代松(筆記)
*明治文化全集は日本評論社発行
始祖鳥ロンドン標本の骨格図に、ロンドン標本では失われている頭(ネガに上顎の一部が残っていますが)の復元図(ベルリン標本はこの時点ではまだ見つかっていないのであくまで想像図です)が添えられています。進化系統樹もなんとも深い味わいです。
古生物の名もいろいろ出てきますが、次の文章は興味深いところ。
【「ハックスレー」「コープ」などの諸学士、かって太古の「ダイノサウラス」にして爬行動物と鳥類との両性を兼有せるものを出したり】
この頃はトーマス・ハックスレーら鳥類の恐竜起源説を唱える学者が多数いたのです。ハイルマンが鎖骨問題を持ち出して鳥と恐竜の別系統説が定説になるのは1926年の事です。
最後に、私的には日本恐竜史を揺るがすのではと思っている大発見を紹介。
古本屋のページで偶然、眼を見張る恐竜写真が載った本を発見。即、購入です。
「平和記念東京博覧会写真帖」大正11年(1922)郁文舎出版部
同年に上野公園で行われた博覧会の模様を紹介する写真集なのですが、その中の1枚がこれです。「川崎工場出品の怪獣模型」とタイトルが付けられ「展示の目的はコンクリートの耐久性を証明ため」と説明されています。コンクリート製恐竜と言えば、名古屋東山動物園(現在は動植物園)に今もある恐竜像が思い浮かびますが、東山の恐竜像が作られたのは16年も後の昭和13年(1938)の事。両者に何かつながりがあるのでしょうか?
写真のキャプションは[川崎工場の剣龍と一角龍]。これが日本最古の恐竜像の可能性もあります。
そして、どこかで見たデザインだなと思ったら、昭和5年(1930)発行「少年倶楽部」付録の「少年博物館カード」(新秘宝館Vol.44)の絵とそっくりでした。(カードのキャプションは「ステゴザウルスの母子」…授乳をしているように見えたのでしょうが、あんまりな勘違いです。この絵と東京博ステゴの共通の祖先をネットで辿ってみたところ、ここにたどり着きました。
https://www.deutsche-digitale-bibliothek.de/item/3CCF5CSSC5GVY3XQ66CXJ6LBIGNZ5KAS
https://blog.bella-fotografia.de/wp-content/uploads/2018/05/Hagenbecks-Tierpark-245-Kopie.jpg
ドイツ・ハンブルグのハーゲンベック動物園でjosef pallenbergという人が1908年にデザインした物らしい…そして東山動物園の恐竜像はこの動物園の展示を参考にしたもの。
これでめでたく、東京博覧会と東山動物園の恐竜が繋がりました。
ジャズ・ライブ配信のお知らせ
お忘れかとは思いますが、私はジャズ・ピアニストです。なので来る4月21日にライブの配信をするのですが、今回は恐竜をテーマにして演奏します。今回ユニットを組むもう一人のキーボード奏者、木村秀子さんも何を隠そう恐竜倶楽部仲間。恐竜の名前を付けたオリジナル曲を沢山作っている天晴れな人です。私は演奏の合間に、それらの曲に合わせたフィギュアや化石を見せびらかそうとか、いろいろと考えているところです。盛りだくさんの内容になると思います。ぜひご覧になって下さい。2000円で、ライブ後も2週間ほど何度でも観ることができます。
こちらのサイトでチケットをお求めになれます。
https://umemotomusica.stores.jp/items/622ea3739a70627ba5554ae5
ユニット名が、なぜ「鍵盤(ザ)ウルス」なのかというと、海洋堂の専務さんの言葉を借りれば「カンダムよりガンダムやろ」(秘宝館Vol.46)です。
田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。