Vol.81 タイタンの系譜Ⅱ ブラキオサウルス編
前回のティタノサウルス特集で、白亜紀末の南米の超巨大恐竜に繋がるタイタンの一族の始祖とも言うべきブラキオサウルスのフィギュア紹介を、その数のあまりの多さに恐れをなしてスルーしてしまったのが心残りで、このままでは年も越せません。なので今回はブラキオサウルス特集。とは言っても我が家のブラキオ全てを探し出して載せるのはとても不可能なので、眼に付いた物のうち重要と思われる物、珍しい物を選りすぐってご覧いただきます。
ブラキオフィギュアは多いと言っても、ブロント(アパト)サウルスには到底及ばす、その歴史も意外なほど浅いのです。確認できる最古のブラキオフィギュアは意外にも日本製。1977年の雑誌「6年の科学」(学研)の付録に付いていた骨格キットです。
50~60年代のマークス、MPC、ミラー、アルヴァ、SRG、パイロといったアメリカのメーカーの恐竜シリーズにはブラキオサウルスの姿はありません。当時の竜脚類フィギュアのニッチはブロントサウルスが独占していたのです。同じくらい古参のディプロドクスでさえ影が薄い有様でした。
70年代のフランスのスターラックスの100種類に及ぶ古生物シリーズにも、ブロントサウルス、ディプロドクスに加えディクラエオサウルスまでラインナップされているのになぜかブラキオは無し。当時、すでにブラキオサウルスの知名度はブリアンの名画(とその模倣画)により全世界に広まっていたと思われるのに、いったいぜんたいどうした事なのでしょうか。
そして80年代になってようやく、ブラキオサウルスが恐竜フィギュア界に本格参戦します。
*ここで紹介するブラキオサウルスモデルは発売時期からブランカイ(種小名が記されている物は一つもありません)がモデルと思われ、今ではギラッファティタンですが、それは言いっこ無しです。
最近、中国のメーカーからギラッファティタンを名乗るフィギュア(生態と骨格)が発売されています。高価すぎて買えませんが…。
77年の骨格は後で骨格モデルをひとまとめにして紹介するとして、まずは80年代のブラキオ達
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左上の2点は国産ソフビモデル。80年代初頭の発売と思われるクローバーの1/50恐竜シリーズ(秘宝館Vol.38)とやはりVol.38で続けて紹介しているJAPAN GREAT CO.LTD製のもの。これらのメーカーに先駆けて、70年代後半にマルシンがソフビの「大恐竜」シリーズをリリースしていましたが、ブラキオは発売予告のみで、結局製品化されなかったようです。
その横は84年に新宿で開催された「世界最大の恐竜展」(新秘宝館Vol.34/Vol.36)で購入したと思われる金属製のブラキオ。
当時、まだ日本には巨大竜脚類常設展示は無く、標本来日も81年のマメンチサウルス以来2度目、しかも本物のブラキオサウルス(始祖鳥ベルリン標本添え)とあっては恐竜マニアが色めき立たないわけは無く、同年、海洋堂から荒木一成さん作のレジンキットが2種類発売されます。小さな方はコレクションシリーズ、大きな方は1/35シリーズの物で50cmオーバーのずっしりとした大作です。
そして何故か、同じく84年に大英自然史博物館からもブラキオフィギュアが発売されました。(秘宝館Vol.41)
その隣の2体はドイツのドレスデン近郊にあるクラインヴェルカ恐竜公園で80年代に売られていたもので、激レア物の様です。大きい方は大きさと言い顔つきと言い大英自然史の物とそっくりです。
そして右下は1988年のサファリ製。
画像②
90年代
中央に並んでいるのは左から
ブリーランド(1990)
U.K.R.D(中国のメーカー 1991)
シュライヒ(1993)
サファリ(1996)
両端は海洋堂松村しのぶさんの巨大過ぎる1/20ソフビキット(1990 秘宝館Vol.63)とタミヤのプラモデル、1/35ブラキオサウルス情景セット(1994 新秘宝館Vol.75)
そして1993年、あのジュラシック・パークでブラキオサウルスは衝撃的なスクリーンデビューを果たしました。
画像③
JPシリーズのブラキオ
*新秘宝館Vol.24/Vol.26も併せてご覧ください。
意外なことにJP1では、鮮烈な登場シーンに加え、木の上の子供に鼻水をかけるなど大活躍をしたにもかかわらず、当時アクションフィギュアを手掛けていたケナーからのブラキオフィギュアはキャラクター人形のおまけの幼体だけ。病気で横たわっていただけのトリケラトプスよりも格下扱いでした。その分日本のツクダホビーが健闘してくれました。
写真左はツクダの、映画のプロップを原型にしたと言う見事な出来のソフビフィギュアで全高約75cmあります。
並んでいるのはJW3の直前にマテルが出したほぼ同サイズのアクションフィギュア(新秘宝館Vol.66)です。最近リニューアル発売されたハモンドコレクション版は、可動部が増え立ちポーズをとらせることもできますが、さすがに置き場所が無いので買い控えています。
右の上段はツクダの3種とDakinのヌイグルミ。そしてJP3の時にローソンでコーラのおまけについていた海洋堂製食玩。立ちポーズのフィギュアは数える程です。
下段は、JP1の時のアメリカ製のコーラ関係?とDakinの小フィギュア、前述のケナーの囚われの幼体。
右端はJP3のハスプロ製アクションフィギュアです。30㎝にも満たない物で、造形もブラキオらしい大物感に欠けます。JP3でのブラキオは川辺にたたずんでいるだけですから、この扱いも致し方ないか。
JPシリーズでのブラキオサウルスは「JW2炎の王国」の前半で火山の噴火で絶滅してしまいます。そして「JW3新たなる支配者」ではさらに巨大なティタノサウルス類ドレッドノータスが登場します。まるで白亜紀のティタノサウルス形類の歴史をなぞっているかの様です。
画像④
2000年以降
上段左からフェバリットのデスクトップモデル(2000年代初頭)、サファリ(2009)、PAPO(2012)
ここでは3種しか載せませんでしたが、勿論今世紀に入って絶滅危惧種の道をたどっているわけではありません。それどころかネットにはブラキオサウルスフィギュアの画像が溢れかえっています。
例えば、このフェバリットのサイトの「生物図鑑」を見れば発売中の4種類のブラキオモデルを見る事ができます。他にミニモデルもあり。(残念ながらデスクトップモデルは廃版)
シュライヒの現行モデルは前作に比べかわいらしいデザインになっています。
コレクタからは大小モデルと幼体の3種。
その他中国物、アニアなどの小さな物、ガチャや食玩などに至ってはとても把握できません。
お世話になっている恐竜おもちゃの博物館には50体ものブラキオおもちゃが展示されています。ぜひご覧ください。
https://www.dinotoymuseum.com/name/name078.html
下段はこの11月に発売されたばかりのバンダイのプラノサウルス・シリーズの物。最新のブラキオサウルスです。簡単に彩色してみました。ただ骨格はあまりにもきっちりと収まっていて、塗装しても剝がれてしまいそうなので断念。パチパチはめるだけのスナップキットですが可動部以外の隙間もなく気持ちよく組めます。プラモデルの進化を実感させられました。
こうして時代順に並べると、ブラキオサウルスの姿はブリアンの時代からルネサンスを経て今に至るまで、直立していた首が斜めになり、尾を引きずらなくなったくらいで、あまり変化がありません。独創的なポーズも、あの無理やりな後ろ足立ちポーズ以外は見当たらないので、今回は同じような図柄がズラリ並ぶことになってしまいましたがご容赦を。
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骨格モデル
前述の、1977年初登場の「6年の科学」のおまけの骨格モデル。その後何度も付録として登場しています。写真は80年代後半の物で、同スケールの人形の他にミ二生態モデルが付いています。秘宝館Vol.60も併せてご覧ください。その隣は1997年のAndrew McMeel Publishingと言うメーカーのもの(新秘宝館Vol.55に同シリーズのステゴ有り)。良いプロポーションなのですが、残念な事に頸肋骨が簡略化され1列につながっています。
その右は我が家自慢の一品、古谷良一さん手作りのブラキオ壁掛け(新秘宝館Vol.21)。
下の段はFAME MASTER社の3Dパズルとチョコラザウルス。そして1mにもなる巨大骨格キット。COGというロゴ以外は何のメーカー情報もありません。いつの頃からか我が家に有り、今回初めて箱を開けたのですが開けてびっくり!眼窩すら空いていない大雑把な造形で無駄に大きいだけでした。遠目にはなかなか良いのですが…。とても頑丈で子供の遊びには充分耐えそうです。発売時期のデータは無いのですがCD-ROMが付属していて、その対応OSがWindows XPまでですから2000年代の前半でしょう。
その横の全身骨格2態は2015年にリーメントから発売されたポーズスケルトン・シリーズの物で、関節が多く自由度も高くて大いに遊べます。懐かしいスタイルも楽々とれる優れモノ。
大きな方の頭骨はフェバリットのスカル&ジョーズモデルで残念ながら今は絶版。代わりにミニモデルが発売中です。フェバリットにはかって素晴らしい全身骨格モデルがありました。生物図鑑のブラキオサウルスのコーナーでチラリと見ることができます。何故手に入れなかったのか…悔やまれる一品です。
右の小さな頭骨は、海洋堂1996年発売のレジン完成品で、原型は海洋堂で多くの骨格キットを手掛けた山崎繁さんです。
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その他いろいろ
由来が判らない物が殆どですので、ここはサラッと紹介しましょう。
- 結構な大きさの壁掛け。重いので床に置いてあります。
- 棚の上で埃を被っていた昭和のブラキオ人形たち。右端は素朴な木製キットです。
- 思いっきりブロントサウルスと書いてありますが、どう見てもブラキオ頭です。水槽に沈めエアポンプを繋いで泡を出すという物の様です。ブリアンの世界が再現されるかもしれません。
- これは由緒正しい物。1993年にバンダイから発売されたリアル志向の食玩「最新恐竜学」。今見ても素晴らしい出来です。見事に変色したラムネ菓子はおぞましいですが…。
- 中央は正体不明の布製ヌイグルミ。顔が怖いです。
- その左はこれまた正体不明ですが、かっては咆哮したと思われるオモチャ。
- 40年位前に行った屈斜路湖で見つけた木彫りのブラキオ型クッシー。作者のアイヌの方がクッシーブラキオ説を唱えていたのかは不明です。紅葉の屈斜路湖畔で木彫りのクッシーを探しまくったあの日が只々懐かしい…
- これも木彫りですが多分街のアジア雑貨店辺りで見つけた物。もはやブラキオかどうかさえ定かではありませんが、コリトサウルスにしては前足が長すぎるし…。
- 1990年頃の最初の恐竜ブームの時に東急ハンズで買ったものだと思います。40cmくらいあり、紙を固めたような材質で半身しかありません。34年間壁に掛っていました。
- 最後は4、5年前にプレゼントされた傘立て。もう少し大きければ玄関に置いて使えたのですが…。
最後に先日行った科博の「鳥展」のご報告です。
期待していた化石鳥類こそ少なかったものの、びっくりするほどの数の剥製が展示されており、分類の解説も興味深くてじっくりと見ていたらあっという間に閉館時間が迫っていました。2月24日までやっているのでもう一度行かねばと思っています。
目玉のペラゴルニス・サンデルシの復元模型は思いのほか格好良かった。ただお土産がヌイグルミだけだったのは残念でした。ヌイグルミと言えども「歯」がちゃんと描かれているし、それなりに精悍な顔つきをしているのですが。
ペラゴルニスが属する骨質歯鳥類と呼ばれる嘴に歯の様な構造がある鳥類の化石が、実は我が家にもあります。頂き物でデータが全く無いのが残念ですが、旬の物なので自慢させてください。
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ペラゴルニスのヌイグルミと骨質歯鳥類の化石。
どうぞ良いお年をお迎えください。
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田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。