新恐竜秘宝館

Vol.84 オヴィラプトルと昭和恐竜本と新発見・地底旅行の話

今回は最近メルカリで手に入れた嬉しいコレクション2点と、僅かずつですが増えている昭和初期恐竜本、そして偶然発見したジュール・ヴェルヌの「地底旅行」関連の本など統一性に欠けるアラカルト的な内容となっています。このところ秘宝館の名にそぐわないアカデミック(?)な内容が続いたので原点回帰のコレクション自慢話です。

まずはタブリンさんのオヴィラプトルお迎えの話から。

タブリンさんは知る人ぞ知る木製恐竜骨格模型作りの達人で、その作品は博物館などでも展示されるほどです。私も一つ持っていて新秘宝館Vol.21でアロサウルス頭骨を紹介させていただきました。

実は私はメルカリ新参者で、タブリンさんがメルカリで作品を出品されているのは最近知ったのですが、出品されるとすぐに売れてしまい唇をかむ思いをしていました。今回タイミングが合いめでたくこの1/10オヴィラプトル骨格をお迎えできた次第です。とくとご覧あれ!

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全長20cm程、恐ろしいほど繊細です。この肋骨などいったいぜんたいどうやって削り出すのでしょうか!タブリンさんも全身骨格はこのサイズが限界だとコメントされていました。タブリンさんは1m超の巨大な作品も数多く手がけられていますが、その中で最小クラスの作品、しかもとりわけ複雑な頭の形状をしたオヴィラプトルをゲットできたのは幸運でした。 

タブリン・オヴィラプトルを我が家のオヴィラプトロサウルス類(以下オヴィ類)総出でお出迎えという構図です。

 

まずは骨格編
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上にいるのはもう一人の神の手の持ち主、切り紙細工師のシザーハンズさんのカウディプテリクス。新秘宝館Vol.43で紹介済みですが、今更ながら凄い。こちらはさらに小さい10㎝サイズです。今年もまた7月に「博物ふぇすてぃばる」が開催されます。シザーハンズさんの新作が楽しみです。

2段目はミネラルショーで購入したレプリカたち。左のふたつはコンコラプトル(か、アジャンキンゲニア)。産状のトサカの大きなものはオヴィラプトルの未記載種とカードに書いてありますが、今では別の属になっているかもしれません。現在のオヴィ類界は種の同定の見直しなどもあり様々な属が乱立していて、私などシロウトの手には負えません。

その下は先日のミネラルショーで買った今時の3Dプリンターによるオヴィラプトル縮小レプリカ。実はさらに縮小した全身骨格キットも売っていまして、つい買ってしまいました。いずれ組み立てたらご覧いただこうかと。その横はこのところ秘宝館に頻繁に登場するANTSの頭骨シリーズとサファリの頭骨チューブに入っていた物。

卵のレプリカはおそらく90年代初期に手に入れた物でとても精巧にできています。立派な飾り台のプレートにはDinosaur Egg そしてProtoceratopsと銘記されています。卵泥棒時代の遺物です。今では当然ながら同じ形の物がオヴィラプトルの卵として売られています。

その隣は20年以上も前のミネラルショーで購入した実化石の3方向からの写真です。右足で、不完全ながら4本の指が揃っています。(末節骨が無いのはなんとも残念!)

Oviraptor philloceratops :Upper Cretaceous:Djadocchta FM. Ömnögovĭ.Mongolia」と書かれたデータカードも付いています。

昔のミネラルショーではこのような文字どおりの掘り出し物が、お手頃価格で並べられていたのです。

 

フィギュア編
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オヴィラプトルはアンドリュース探検隊に発見された、古くから知られる恐竜ですが、驚くことにフィギュアは1990年代まで、知っている限り存在しません。マークスやスターラックスなど50年代~70年代の恐竜シリーズを手掛けたメーカーはもちろん、海洋堂の初期のガレージキットにもその名はありません。もっとも同じくアンドリュース探検隊ゆかりのヴェロキラプトルも陽の目を見たのは93年のJP以降ですが。 

上段に無毛のオヴィラプトルを集めてみました。左は秘宝館Vol.64で紹介した1993頃のアルカード製ガレージキット。周りを伺いながら卵を盗もうとしている卵泥棒丸出しのポーズです。

中央はかなりのレア物だと思います。1998年にニューヨーク自然史で買ったもの(秘宝館Vol.20)。海外のコレクターサイトでも見たことがありません。製造年は不明ですが90年代前半ではないでしょうか。

右はPAPOの物ですが発売は2009年。もはや卵泥棒の疑いは晴れ羽毛もまとっていた時代なので、ゴジラ立ちティラノを発売したりするPAPOならではの確信犯的懐古復元だと思われれます。

中段は何故かオヴィ類に力を入れているサファリの製品。左からカウディプテリクス(2005)、オヴィラプトル(2006)、抱卵オヴィラプトル(2008)、キチパチ(2019)。他に未購入ですがアンズー(2018)もあります。

キチパチはウィキでの呼び名です。日本では様々な呼び方がされています。

下段は神流町恐竜センター製のキシパチ(シチパチと表記)、コレクタのギガントラプトル(2009)とオヴィラプトル(2010)、恐竜陶芸家、伊藤たかをさんの抱卵オヴィ(新秘宝館Vol.26)、そして最新のキチパチ(シティパティ表記)。今年1月に発売された1000円ガチャ「生きもの大図鑑」のもので、原型は竹内しんぜんさんです。ここでは自分の卵を泥棒哺乳類から守っています。立場大逆転です。

その他、食玩オヴィなどはいつもお世話になっている「恐竜おもちゃの博物館」でどうぞ。我家の「伊藤たかをさん抱卵オヴィ」の兄弟もいます。
こちらはシキパチ

 

オヴィ類が卵泥棒疑惑を払拭したのは1995年に抱卵化石が発見されてからです(2001年にキチパチとして記載)。1998年には羽毛印象が残るカウディプテリクスが記載され、現在のオヴィ類のイメージが出来上がってきました。

しかし思うのですが、アンドリュース隊による冤罪は晴れたものの、オヴィ類が卵を食べなかったという証拠はありません。見るからに卵を割りそうな嘴をしているではありませんか。

卵食は動物にとって普通の事ではないでしょうか。だいぶ以前に観たダーウィンで、北海道の公園で繰り広げられたエゾリスとカラスの抗争のさなか、エゾリスがカラスの巣を襲って卵を食べるという衝撃的なシーンをやっていた様な記憶が有ります。

人間も卵は好物ですし…。

 

さて今回二つ目のメルカリお宝は、ティラノサウルス骨格折紙です。新秘宝館Vol.23で紹介していますが、若くして急逝された伝説の折紙作家、吉野一生さんが残した「ティラノサウルス骨格折図」を完成させた作品がメルカリに出ていました。完成品を手に取れるとは思ってもいなかったので、即買いです。台座は自作しました。

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この様な物まで売られているなんてメルカリ恐るべしです。
ここからはライフワークでもある、いにしえの恐竜本収集の最近の成果です。

 

「地球進化の大驚異」
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雑誌「少年倶楽部」(大日本雄弁会講談社)昭和311日号のカラー特集です。この本の存在は、別冊太陽「熱血少年図譜」という本に取り上げられていたので以前から知っていましたが(新秘宝館Vol.44)、まさか手に入るとは。ネット古書店で出会ったのは全くの偶然です。素晴らしい絵を描いているのは樺島勝一と言う方。私は知りませんでしたが著名な漫画家・挿絵画家でした。

 

「図説・石川動植物学概論(昭和9年・学芸書院)」と科学画報・昭和85月号「有史前の世界を探る」
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石川千代松は動物学者で日本での進化論の普及に関わった人物。明治16年刊のモールス(述)、石川千代松(筆記)の「動物進化論」は新秘宝館Vol.65で触れています。

昭和5年刊の渡辺萬次郎との共著の児童書「地球と生物の歴史」(新秘宝館Vol.7)では恐竜を登場させていますが、この「動植物学概要」では爬虫類の項で「爬虫類は地質時代の中世紀(原文のまま)と云ふ頃には種類も多く、又全動物中最も大きなものも居た。」とだけで、キョの字もありません。ただ進化を説明するにあたって始祖鳥は外せなったと見え、ロンドン標本とベルリン標本の発見・展示の顛末を語り、さらには自筆のベルリン標本スケッチまで載せています。絵は上手いとは言えませんが。

しかし不思議なことに始祖鳥という当時はすでに一般的だったはずの横山又次郎作の和名は使わず、蛇尾鳥(ジャビチョウ?)と呼んでいます。二人の間に何か確執があったのでしょうか。実はこの二人は明治10年代の終わりごろドイツで森鴎外を介して会っていた可能性が有ります。森鴎外の「独逸日記」に二人の名前が前後して出てくるのです。このあたりを深堀りすると面白いのでしょうが畑違いなのでこの辺で。

「科学画報」を中野のまんだらけで見つけられたのは表紙の印象的なメガテリウムのおかげです。作者の寺島貞志さんに感謝。

そして特集の「有史前の世界を探る」はと言うと

 地球の創生とその後/有史前に於ける大陸の変遷/爬虫類横行の時代/人類は何時頃化成したか/石炭紀の森林繁茂時代/象と剣歯猫の進化 

と至れり尽くせりの内容。おまけにポスターサイズの「人類の自然史」(裏は地球進化年表)が織り込まれているという豪華さで、当時の読者の満足げな顔が思い浮かびます。

 

さて最後は和訳本コンプリートを目指しているジュール・ヴェルヌの「地底旅行」新発見のお話。まずは秘宝館Vol.54新秘宝館Vol.28をご覧になって下さい。その後も何冊か増えているので、もうひとつのめざせ!完全制覇、コナン・ドイルの「ロストワールド」(新秘宝館Vol.77)よりはコンプに近づいていると思っていたのですが、ここに思わぬ落とし穴がありました。一見関係のない本に密かに紛れている短い翻案物です。

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「地底大陸発見!!」は小学館の学習コミック「地底大探検」(1976)に収められた短編劇画で、ジュール・ベルヌ原作の地底の冒険をもとにして作ったものですとの但し書きが付いています。ストーリーは超ダイジェストながら原作に沿っていて、登場人物は妙な地底服?を着ているもののリーデンブロック博士とアクセルの二人。サクヌセンの暗号や巨大キノコの森も登場、地底海でプレシオサウルスとも遭遇します。しかし何故かイクチオサウルスは登場せずプレシオサウルス同士の戦いとなっています。 

「大地底」は少年マガジン19693号の巻頭カラー特集。見開き4面でキノコの森,地底海、溶岩流、アトランティス神殿など地底旅行のポイントを一気に見せます。こちらは映画版のシーンも混ざっています。この特集、地底旅行だけではなくガードナーの「地底への旅」、バロウズの「地底世界ペルシダー」までも紹介するディープなものです。

*ペルシダーの場面の絵は小松崎茂。闘技場で剣歯虎タラグと地底人の戦いを観戦する大勢のマハール族が細かく描かれ見ごたえあります。お見せしたいところですが、また別の機会に。

この2冊はともにヤフオクで手に入れたのですが、表紙には「地底旅行」の文字は無く見逃すところでした。まだまだこの類の「地底旅行」(ロストワールドも)は存在する筈。

コンプしたかすらわからない果てしないコレクター道ですが、寿命が尽きるまで集めまくります。

 

久し振りに「地底旅行」を手に入れその気になったので、次回の新秘宝館のテーマはVol.77のロストワールドに準じた「地底旅行翻訳本コレクションの今」にしようかと思います。

乞うご期待。


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。