新恐竜秘宝館

Vol.70 ケラトサウルス史 ―ケラトサウルスの一族・新年編―

前回のケラトサウルスの末裔、アベリサウルス類に続き、いよいよケラトサウルス一族の家元ケラトサウルスが満を持しての登場です。が、その前に

新年に相応しい「こいつぁは春から縁起がいいわぇ」的なご報告。

 

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10年ほど前にネット古書店で見つけ、数十分迷ったあげくに買おうと決断したらsold outになっていたという悪夢の様な「ロストワールド双六」(新秘宝館Vol.30)が今手元にあるのです。正月明け早々に「日本の古本屋」サイトで見つけ一も二もなくポチッ。値段も前回の半分1万円だったので、大吉おみくじ100枚分のありがたさ。(画像1)
今回、この高運気を高画質でおすそ分けします。

*この双六は、大正14年8月に映画「ロストワールド」が封切られた際、上映館の名古屋広小路千歳劇場が配布または販売した物の様で、渡邊幾春・喜多村蓼子画と記されています。実物は「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」展に展示される予定です。

 


さて本題のケラトサウルス史。
ケラトサウルス類は簡単に言えば、ジュラ紀前期に現れ、ティラノサウルスやアロサウルス、スピノサウルス、各種ラプトル、それにもちろん鳥類などスター恐竜が所属する獣脚類主流派テタヌラ類の陰に隠れながらも、しぶとくK-Pg境界まで生き残ったアッパレな家系ですが、ここではそのような歴史ではなくフィギュアなどの変遷を時を追って紹介する趣向です。
ケラトサウルスは古くから知られた恐竜(マーシュ1884)で、日本初見参もおそらく他のどの恐竜よりも早く、それは大正11年上野公園で開催された「平和記念東京博覧会」会場に設置された一角龍と名付けられたコンクリート像でした。(新秘宝館Vol.65
その後しばらく息をひそめますが(鼻面に一本角の恐竜は1930年代の漫画「怪奇島征伐」に登場します―新秘宝館Vol.32)、戦後まもなく、山川惣司が描く、凶暴な顔がトラウマになりそうな印象的な姿で「少年ケニヤ」を舞台に蘇ります。

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山川惣司はケラトサウルスがお気に入りの様で、「少年ケニヤ」だけでなく、以前何話か紹介した「前世紀少年サビン」にも登場させています。(画像2)の上3段は1953年6月の大阪新聞特別付録「新版少年ケニヤ」。ケラトがラスボス役を務めます。4段目は1956年「小学五年生12月号」のサビンから。他に少年ケニヤ本編にも登場します。

それにしてもアロサウルスの鼻面に角を一本付けただけ(それが当時の認識です)で何故にこうも狂暴化、怪獣化するのでしょうか?

 

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続く60~70年代、おりからの怪獣ブームに便乗して、怪獣っぽい風貌のケラトはなかなかの活躍を見せます。少年誌のグラビアはもちろん、本の表紙にも登場しています。(画像3)

*余談ですが、鼻面に一本角をはやした怪獣は何種か存在します。私は怪獣には詳しくないのでざっと調べて見ました。

マリン・コング/バラゴン/ゴモラ/シーモンス・シーゴラスの夫婦/余り角の印象は無いのですがあのアンギラス/そして怪獣マニアのヒンシュクを買った「怪獣の後始末」(私は三木監督テイストを充分楽しめたのですが)の「希望」(さすがにこのネーミングは無いと思いました。せめてここで誰かが「ラ」が入っていないじゃないか!とか突っ込むべきだったのでは?)にも、ささやかながらリアルな角が生えていました。

 

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怪獣の一本角がケラトサウルス由来なのか、逆にケラトサウルスの角が怪獣を連想させ人気恐竜の座を獲得したのかは卵と鶏の関係になってしまいますが、昭和の怪獣の時代にはケラトとも怪獣ともつかないオモチャが売られていました。(画像4)

この中でケラトサウルスと明言できるのは、左上段右端のケンコーチョコレートのおまけと下段左の「超怪獣シリーズ」(にもかかわらずパッケージにはケラトサウルスと明記)、それに右端のクローバーの1/50恐竜シリーズの物だけです。大きなソフビは三浦トーイの物で、オークションなどではケラトサウルス風パチ怪獣で通っています。他の物は身元不明です。右は1960年に制作されたアート作品、詳しくは新秘宝館Vol.21をご覧ください。

この時点で欧米では、どういう訳かケラトサウルスは影が薄い存在に甘んじていました。あのブリアンも描いていないし(C,ナイトはさすがに自国の恐竜なのでステゴサウルスに相対している姿を描いていますが)、秘宝館にも度々登場の老舗恐竜フィギュアメーカー、マークス、MPC、スターラックス、シンクレア、ミラー、シリアルのおまけのナビスコとSHREDDIES、メタルモデルのSRG。どこにもケラトサウルスの姿は有りません。

しかしそんな中1966年、ケラトサウルス史上最も有名なケラトサウルスがデビューします。映画「恐竜100万年」でトリケラトプスと対決するあのケラトです。「恐竜100万年」は1993年にジュラシック・パークが公開されるまで恐竜映画のバイブルでした。レイ・ハリーハウゼンにアニメートされた恐竜達は私たちの世代の恐竜ファンの神話になっています。
我らがケラトはやられてしまいますが、恐竜映画史上屈指の名シーンです。

 

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そして、2年ほど前、スターエーストイズからこのケラトの見事なフィギュアが発売されました。新秘宝館Vol.58のアロサウルス、Vol.66のトリケラトプスと同じシリーズです。しばらく見掛けなかったのですが、ヤフオクに即決で出品されたので、3万円以上しましたが迷わず購入しました。全高30cm,のずっしりとした物。やけに小さいラクウェル・ウェルチたちのフィギュアが付いていてスクリーンの中のケラトの巨大さが強調されています。(画像5)

実はフィギュア人気こそありませんでしたが、欧米では古くからケラトサウルスの出演する映画が作られています。「恐竜100万年」に至る道を辿ってみましょう。

「ブルート・フォース」1914年にD.W.グリフィスによって作られた無声映画。ケラトは9分位の所で出てきますが、特に何をするわけでもなく、草?を食べています。


「UNKNOWN ISLAND」1948年アメリカ映画。こちらの恐竜は着ぐるみ。動きは情けないですが、顔の造形などはまずまずです。初のカラー恐竜映画だとか。
これは「ジュラシック・アイランド」のタイトルで国内版が発売されていて、今でも購入できます。


「動物の世界」1956年のアメリカ映画。恐竜シーンはモデルアニメーションのレジェンド、ウィリス・オブライエンとハリーハウゼンが担当して「100万年」に直結する映像です。ケラトは5分33秒位で登場、ステゴサウルスを倒すのですが6分27秒位でもう一匹のケラト登場。ステゴの死体を奪い合って壮絶な戦いを展開したあげく揃って谷底に落下してしまいます。
さらにこのシーンの後に、真打のティラノVSトリケラの戦いも控えています。この「動物の世界」の恐竜シーン、以前販売されていたDVD「黒い蠍」に特典映像として収録されていて、こちらもアマゾンで現在でも入手可能です。

これは新しいものですが嬉しくなる映像です。
「アーリーマン~ダグと仲間のキックオフ!~」2018年イギリス。「ひつじのショーン」でおなじみのア―ドマン・アニメーションズのストップモーション・アニメ映画なのですが、その冒頭に「恐竜100万年」の正にケラトVSトリケラへのオマージュ・シーンがあります。

必見!

 

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さて時はとんで1980年代。海洋堂・荒木一成さんのガレージキットの登場です。(画像6)

秘宝館Vol.61/62も併せてご覧ください。左のケラトは1978年にまだ高校生だった荒木さんが作った、海洋堂の原型としては処女作。84年に発売されたキットを私が組んだもので、これは恥ずかしながら3月から開催される「恐竜図鑑―失われた世界の想像/創造」展に出展されます。右は85年のキットでVSアパトサウルス。いよいよリアル・ケラトの時代です。

*海洋堂のケラト・骨格モデルは後程ご紹介。

 

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恐竜グッズ大爆発(新秘宝館Vol.18)で明けた90年代、様々な恐竜グッズが出回り恐竜市場は賑やかになりました、もちろんケラトサウルスも例外ではありません。(画像7)

上から、アメリカ製の45cm程もある良くできたガレージキット。多分ワンフェスで購入した物ですがメーカー名は失念してしまいました。同じシリーズにメトリアカントサウルスがあります。どなたかメーカーに心当たりのある方はいらっしゃいませんか?

その下左は、やはりメーカー不詳のメタルフィギュア。大きな方は10㎝程ですが、ウロコ表現などじつに細かくできています。その右は懐かしの「ユネスコ村大恐竜探検館」のオリジナルフィギュアでソフビ製。秘宝館Vol.48をご覧ください。

90年代のシュライヒ、サファリ、ボストン科学博物館(メーカーはBattat)のケラト・フィギュア。現行の物とはだいぶ趣が違います。ボストン科博の物はTerraというブランドから色違いですが今も売られ続けています。

下段左は何の変哲もない、高さ20cm程の中国製ゴム人形なのですが、何か妙な存在感を放っています。この手の物にしては塗りもしっかりしています。今回ケラトのフィギュアを部屋から発掘?する際も、頭の片隅に残っていたのか、すぐに見つけることができました。

逆にセラミックの奇麗なケラトは印象が薄く、たまたま棚に有るのが眼に入った感じ。

右はおそらく90年代初頭、ハンズ辺りに恐竜グッズがどっと溢れた時に買ってそのまま忘れられたマグネットです。

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「ジュラシック・パーク・シリーズの似て非なる赤ら顔ケラトサウルス」
左から「ジュラシック・ワールド」(ハスプロ)「JW炎の王国」(マテル)「JWサバイバルキャンプ」(マテル)
しかし、ケラトサウルスが映画本編に登場するのは「ジュラパークⅢ」のみで、それもほんの一瞬です。
赤い顔がなんとも不気味です。
下は、シリーズ完結記念の、シリーズ全体を視野に入れた「ハモンド・コレクション」の物。ディテール、ポージングなどワンランク上のアクションフィギュアで良く動きます。勿論お値段もワンランク上です。
そしてその右は、1993年「ジュラシック・パーク」の時に発売されたダイキャスト製ミニフィギュア。2匹セットでブリスターパックに入っているのですが、驚くべきことにすでに赤ら顔をしています。この時点でJPⅢのコンセプトが決まっていたとは思えないので、JPⅢケラトをデザインするときに、このミニフィギュアを参考にしたという事なのでしょう。何かJPシリーズの歴史を紐解いた感じです。

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さてこの辺で、骨格モデルをご紹介しましょう。(画像9)
まずは海洋堂・山崎繁原型の1/20キット。確か90年代の物です。山崎さんについては秘宝館Vol.26/31新秘宝館Vol.55をご覧下さい。
下の頭骨は、群馬県立自然史博物館が開館した当時(1996)、ミュージアムショップで販売されていた物で他にカマラサウルス(秘宝館Vol.48)、買わなかったことが今でも悔やまれるトリケラトプスがありました。たしか3万円位したと思います。プレートにスミソニアン博物館の標本USNM4735と記されています。マーシュが発見したホロタイプですね。
その横はいつの間にか部屋にあったもの。経年劣化で良い色になっています。アマゾンに今でも同じものがあり、そちらは発掘キット。発掘した覚えは無いのですが。
その下はほねほねザウルスに海洋堂のチョコラザウルスと金属製キーホルダー。

実はフェバリットからも、以前ケラトサウルス頭骨が発売されていました。
なんで買わなかったのだろう…悔やまれシリーズの一つです。

そして今回危うく買いそうになったのが、中国メーカー菊石の1/10全身骨格模型。56000円もしますが、そそられます。

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気を取り直して2000年以降に発売された日本のケラトフィギュアです。
見返りポーズをとっているのは4Dパズルザウルスデラックスという商品。メーカーなどは判りません。隣はバンダイの恐竜ギャラリー(2006)、そしてチョコラザウルス(2003)、2年ほど前のタカラトミーアーツ、ガチャアクションTHE恐竜。後ろにいるのは2007年発売のハピネット大恐竜時代の物です。
下は最新のケラト・フィギュア。現在売られている物です。しかもあのダイソーで!造形はなかなか良いので塗ってみたら、いい感じになりました。
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次はPAPOとコレクタの現在販売されているケラトサウルス。両者ともなかなか独創的です。そして最近急増している高品質な中国モノ。本当は評判の高いPNSOの物が欲しかったのですが、1万円近くするので涙を飲んでこのクラス最安値のEden Toys 3000円ほどの物にしたところ思った以上に格好いい!しかしこれにも謎があり、9000円するITOYというメーカーの物と彩色、ベース以外は同じ物の様なのです。これはコピー品?それとも同じメーカーの普及版ブランドなのでしょうか?アマゾン辺りで売っている中国の恐竜モデルは、同じ形ながら、何故かメーカーも価格も異なる物が存在します。安価な物は其れなりに塗りが雑だったりするので気を付けなければなりません。今回、本体は問題無かったのですが、ITOYとは異なるベースに実寸50cmはあろうかというカタツムリ(写真で見た時は打ち上げられたアンモナイトかと思ったのですがツノも目玉もちゃんとありました)が2匹這っているのはなぜだ…中国恐竜の謎は底知れません。(画像11)
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ケラトサウルス特集最後はケラトサウルス以外のケラトサウルス科の恐竜。コレクタのサルトリオヴェナトルとマテル・ジュラシックワールドシリーズのゲニオデクテス。まさかこんなマニアックな恐竜フィギュアが世に出るとは!(画像12)
両方とも私には未知な恐竜なので詳しく知りたい方はこちらを。
“肉食”の鬼、恐竜倶楽部のUさんのページです。
サルトリオヴェナトル
ゲニオデクテス

今年に入って、私の趣味の「日本の恐竜本」探求に新たな発見がふたつありました。

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熊楠の恐竜
南方熊楠はもちろん明治から昭和にかけての偉大な学者ですが、これほどの人が恐竜に触れていないわけは無いと思っていました。しかし膨大な著書のどこに「恐竜」がいるかは調べようもなかったのですが、新年早々、秘宝館の読者でイギリス留学中のAさんから嬉しい情報提供が…。干支の動物について膨大な博識を駆使して語る「十二支孝」の龍の項[田原藤太竜宮入りの話]の中に恐竜が出てくるいうのです。早速アマゾンで南方熊楠全集1巻」を購入しました。じっくり読むのは後回しにしてパラパラと恐竜を探したところ、第2章「竜とは何ぞ」でイグアノドン、第3章「龍の起源と発達(1)」ではプテロダクチルスに言及。第4章「龍の起源と発達(2)」では自筆と思われるステゴサウルスとトリケラトプス、プレシオサウルス、さらにはまさかまさかのUMAの古典、ハンス・エゲデのシーサーペントのイラストまで描いていました。オヤ?と思ったのは当時「前世界」などと呼ぶのが通例だった太古の時代を「過去世」と呼んでいる事。何のことやらと調べてみたら仏教用語で「かこぜ」と読むのだそうです。
大収穫です。Aさん、ありがとうございました。(画像13)
*「南方熊楠全集1」平凡社1971 p134,/p137
次のミッションはこの文章が最初に掲載された、大正5年2月発行の雑誌「太陽」を手に入れる事です。

もう一冊はヤフオクで手に入れたもの。
「黄土地帯―北志那の自然科学とその文化」アンダーソン著 松崎壽和訳 座右寶刊行會(1942)

 

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戦前に中華民国政府の要請を受けて中国の調査を行ったスウェーデン人アンダーソン博士の著書(1934)を翻訳したもの。アンダーソン博士は古生物学者ズダンスキーと共同で竜脚類ユーヘロプス(当時はヘロプス)や北京原人の発掘に関わっていて、興味深い発掘の経緯などが載っています。しかし出版された昭和17年と言えば日本は大陸で中国との戦いの真最中。そんな敵国の先史文化や化石を解説した461ページもある本を、2200部限定とはいえよくぞ出版できたものだと、戦時下とは思えない奇麗すぎるユーヘロプスの図版を見ながら、感慨にふけってしまったのでした。(画像14)
図版第六(ページ記載なし)/p61


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。