Vol.36 「図録で振り返る20世紀の恐竜展」
…とその前にまずは前回の始祖鳥フィギュアの補足から。
掲載した後に手に入れた物です(画像1)。
左は最近アマゾンなどで見かける中国のメーカー「PNSO」の孔子鳥と始祖鳥。食玩サイズでなかなかよく出来ています。ところが同メーカーの50cmもあろうかという巨大な古代クジラ・バシロサウルス(珍しい!)は造形は良いものの首と胴の合わせ目に段差があり、往年の中国製硬質ゴム恐竜を彷彿とさせちょっと残念でした。となりは知人を送りに行った成田空港で見つけた恐竜けしゴムセットの始祖鳥。翼長2.5cmでタミヤを抜いて最少記録更新です。
さて本題の恐竜展図録の話。
「大英自然史博物館展」の図録は異例のハードカバーで写真も綺麗、この豪華さでたった2000円とは嬉しい買い物でしたが、私にとって図録は恐竜展の必須アイテム。何年か前、パシフィコ横浜の恐竜展会場で図録が販売されていないと知った時は一瞬パニックになったほど。そんなわけで昔から、行った恐竜展の図録は当然として、遠方で行けなかったものも可能な限り集め(中には行ったか行かなかったかあやふやになってしまった情けないものも…)、関連書籍や常設展の図録、さらに博物館刊行本等を含めればその数は優に200冊はあります。そんな図録を開いて、若い頃に行った懐かしの恐竜展を思い出してみましょう。
私が確かに行った記憶がある最初の恐竜展は1978〜79年の「失われた生物たち―大恐竜展(ソ連科学アカデミーコレクション)」です。タルボサウルス、サウロロフスの二大恐竜に加え、「カザフスタンの毛むくじゃらの悪魔」などとプロレスラー顔負けの異名を持っていた翼竜ソルデスなど盛りだくさんで、76年にデズモンド著「大恐竜時代」ショックで恐竜人生を歩み始めたばかりの私は、待ってましたとばかり、78年夏の大阪エキスポランド会場(仕事ついででしたが)と翌年開催の科博会場の両方を制覇、表紙が違う2冊の図録(中身も若干改訂されている)を揃えたのでした。科博の後、熊本で「ソ連科学アカデミー恐竜展」という名で開催された恐竜展はさすがに行っていませんが、内容はほぼ同じ物の様です。ただ図録は全くの別物でした。
ところが実はソ連科学アカデミーの恐竜展は
これが最初では無かった事が後に判明しました。遡ること5年、1973年に「ソビエトの恐竜展―ソ連科学アカデミー古生物学の成果」が科博と宝塚ファミリーランドで開かれていて、手に入れた図録を見ると78年の恐竜展と同じ様な内容で、特集記事を載せた雑誌も刊行され、世間的にもかなり盛り上がった展覧会だった様です。ウィキペディアの科博の年表によると、展示会後、タルボサウルスは科博のエントランスホールにアロサウルスに変わって鎮座する事になったもようです。こんなエポックメーキングな恐竜展を見逃したのは一生の不覚…。しかし73年と言えば私は丁度はたち。人並にバンド活動や女の子にうつつをぬかしていたわけで責められません。私の10代から20代前半は人生唯一の恐竜空白時代だったのです。
(画像2)78年と79年の「大恐竜展」図録/79年の「ソ連科学アカデミー恐竜展」図録/大恐竜展に合わせて特集が組まれた科博刊の雑誌/73年の図録/73年の特集雑誌
1978年以前の私の恐竜暗黒時代の穴を埋めるべく集めた、恐竜展示に関する本です。(画像3)
「化石の話」は図録ではなく、化石と生物の進化について説明した小冊子(15p/18cm)ですが、我家最古の博物館刊行物です。栃木県塩原温泉に今もある「木の葉化石園」から1953年(私の生まれた年!)に出版されたもの。定価20円。恐竜に関する記述は間違いが多く、たとえば表紙の説明は「中生代、ジュラ紀、恐龍の一種 テイラノザウルス(全長約15米)」
1964年に科博にアロサウルス全身骨格が展示されたときに刊行されたガイドブック「恐竜アロザウルス」は組立ての様子など貴重な写真が満載。1971年に内容を一新した改訂版も出ました。巻末に完成したアロの雄姿を見開きページで掲載。
「地球展・極地の過去と現在を中心として」(1970)は科博の主催ですが何故か小田急百貨店で開かれ、恐竜関係では、フタバスズキリュウ、ニッポノザウルス、熱河竜イエホロザウリプスのあしあと、プロトケラトプスの卵(レプリカ)が展示された様です。
1972年に宝塚ファミリーランドと後楽園ゆうえんちで開催された「恐竜博・200000000年前の世界」はどうやら恐竜時代を再現したアトラクションが中心のイベントだったようです。
ガイドブックは何故か東西で内容が異なっています。後楽園では小冊子「恐竜ものしり帖」が配られました。ファミリーランドでは恐竜博後「恐竜館」として常設され、そのガイドブック「恐竜の世界」は、その後74年に大阪自然史博物館に引継がれ販売されました。
「化石と進化―化石が語る生物のあゆみと人類」は1975年夏に九州各地で開催された、科博と朝日新聞社主催の特別展でディメトロドンやサウロロフス、アルシノイテリウム等が展示されていたようです。
1980年代になると恐竜展は一気に賑やかに。ここからは私も出来る限り足を運んでいます。まずは80年に大阪市立自然史博物館が常設展図録「ケモノと恐竜の化石―古脊椎動物写真集」を発行。この博物館は今でもこの写真と同じ展示(トラコドン!等)が数多く見られ、昭和の香りが漂う嬉しい場所です。
そして翌81年、科博で「中国の恐竜展―魚類から猿人までの4億年」開催。目玉のマメンチサウルスはインパクト大でした。他にユンチュアノサウルス、トウジャンゴサウルス、チンタオサウルス等。これを機に中国の恐竜がソ連にとって代わるかと思いきや、科学アカデミーはマンモスで反撃、同じ年に日本橋高島屋と犬山モンキーセンターで「氷河期の王者―大マンモス展」が開かれます。
83年にはあのココロの動刻を使った「動く恐竜展」が各地で開かれるようになります。
84年夏は、前々回紹介した、ブラキオ、始祖鳥ベルリン標本を目玉にした「世界最大の恐竜展」と、同時期に池袋西武百貨店で「恐竜の科学展―アメリカの恐竜」が開催され、ディロフォサウルス全身骨格が初お目見え。この年、「いわき石炭・化石館」の常設展の図録「いわきの化石と炭鉱の歴史」も刊行されます。
85年2月に「ゴビ砂漠大恐竜展」(東海大学自然史博物館)で、あの闘争化石が披露され、7月には科博の「特別展イグアノドン―ベルギー王立自然科学博物館所蔵」にベルニサールのイグアノドンやモササウルス類がやってきました。古代ザメ・メガロドンの全身骨格(?)も。
翌86年は日本橋高島屋でアルゼンチンの絶滅哺乳類を集めた「絶滅の大怪獣展」開催。「北九州市立自然史博物館」開館5周年を記念した図録「恐竜の世界」も刊行されました。現在の「いのちのたび博物館」の前身にあたるこの博物館は当時、何と駅の2階にありました。
87年冬は科学技術館で「NHK地球大紀行展」
88年3月、府中市郷土の森博物館で「白亜紀展―恐竜絶滅と隕石衝突の影響」。4月には豊橋市自然史博物館がオープンして、目玉としてエドモントサウルス(当時はアナトサウルスと表記)の実物全身骨格が展示されます。7月に,残念ながら私は行けなかったのですが、「ぎふ中部未来博覧会’88」に山東竜館が設けられ、巨大なシャントンゴサウルス全身骨格が置かれます。
89年7月に広島の「海と島の博覧会」会場で「中国自貢大恐竜」展が開かれ、オメイサウルス、ファヤンゴサウルスなど登場。これには意を決して行きました。行った甲斐あって珍しい、いかにも中国といった恐竜グッズをいくつか入手できて嬉しかったのを覚えています。秘宝館Vol.14で、現在のみなとみらい地区開発予定地で開かれた横浜博覧会で手に入れたマメンチサウルス魔鏡と共に紹介していますのでご覧あれ。
1980年代の恐竜展(画像4)
そして1990年。私が新秘宝館Vol.18で勝手に命名した「恐竜グッズ大爆発」(DGE)の年です。
2月:1986年にオープンした群馬県中里村恐竜センター(現在の神流町恐竜センター)の初の展示図録「恐竜の足跡」発行。
3月:科博でマイアサウラやトロオドン(当時はトロエドン)等ロッキー博物館のコレクションを集めた「大恐竜展―恐竜親子のものがたり」開催。
4月:福井県立博物館(勝山に恐竜博物館ができるのはまだ10年先の話)で「恐竜時代―日本と中国」展。
そして7月には日立がスポンサーになって大々的にキャンペーンをはり大成功を収めた幕張メッセ「日立ディノベンチャー'90大恐竜博」にティレル博物館の恐竜達がやってきます。初のお祭り的恐竜展で、会場のおみやげ売り場にも恐竜グッズが溢れていました。
1991年はちょっと低調で、7月に群馬県立歴史博物館で「恐竜足跡のなぞ―群馬の恐竜とコロラド平原の恐竜」展、同じく7月、「栃木県立博物館」でマイアサウラ等を展示した「大恐竜展―よみがえる恐竜の世界」、10月に北九州市スペ-スワ-ルドで「世界大恐竜展―中国四川省自貢の恐竜たち」が開かれたくらいで東京では無し。
その反動か1992年は盛り上がりました。
1月
「恐竜展―マイアサウラ親子の世界」府中市郷土の森博物館
3月
「生命の大進化―中国の化石でたどる35億年」名古屋市科学館
7月
池袋サンシャインシティーで巨大な竜脚類ヌオエロサウルスをはじめとする内モンゴルの恐竜を集めた「大恐竜展―水と緑の惑星」、日本橋三越でティラノサウルス、ディプロドクス、ステゴサウルスの全身骨格を展示した「カ-ネギ-博物館秘蔵大恐竜展」開催。さらに岐阜県博物館で「恐竜―謎とロマン」、福島県立博物館で「恐竜のあるいた道―足跡でさぐる恐竜のふしぎ」
8月
新高輪プリンスホテルという意表をつく会場で、フジテレビ主催のエンタメ型恐竜展「最後の恐竜王国―日本・アメリカ・ロシア共同プロジェクト」が大々的に催され、モンゴルの恐竜、哺乳類型爬虫類(単弓類)が多数登場しました。グッズも多数。私事ですがレセプションに招待され、ちょっと自慢でした。この時に買った限定カップヌードルは新秘宝館Vol.9でお見せしましたが、勿論未だに開封する勇気はありません。
そしていよいよJP1993年。この年はロボットを使った大がかりな恐竜イベントが東西で開かれました。新秘宝館Vol.24も合わせてご覧ください。
7月
「ザ恐竜 DINO-PARK」東京ド-ム前特設テント。
「DINO ALIVE―最新の学説とハイテク技術によって現代に恐竜がよみがえった!!」大阪梅田イベント会場。
「中国大展覧会 恐竜が来た!磯子へイソゴウ!!」横浜磯子プリンスホテル。
「今よみがえる恐竜の世界」豊橋市自然史博物館 *デンバー自然誌博物館コレクション
7月には前年に続き新高輪プリンスホテルで「最後の恐竜王国2」も開かれたのですが図録も無く、おまけに内容の記憶もありません。判っているのはテーマソングが三波春夫の「恐竜音頭」だという事だけ…。
8月
「大恐竜王国にようこそ」大分ハーモニーランド。
10月
「世界の恐竜・熊本の恐竜―よみがえる大恐竜王国」火の国フェスタ・くまもと'93
12月
「大恐竜探検館 公式ガイドブック」
所沢市に「ユネスコ村大恐竜探検館」がオープン。ロボット恐竜を使って再現された恐竜の世界をボートで巡るアトラクションがとても良く出来ていました。何度か行ったのですが、2006年に惜しまれつつ閉館。
1990年〜1993年の恐竜展(画像5)
94年はぐっと少なくなって、私が行ったのは3月に我孫子市鳥の博物館で開かれた「羽毛を持った恐竜―鳥の起源と進化を探る」と、6月の大阪南港ATC「世界最大の恐竜博―地球を発見・不思議を体験」の2つだけですが、どちらも見ごたえがありました。特に「カナダ・中国恐竜プロジェクト」の成果やクリーニングしたてのティラノ「ブラックビューティー」を展示した「世界最大〜」は大阪まで行った甲斐がありました。
1995年
3月
「神奈川県立生命の星・地球博物館展示解説書」箱根のふもとに自然史博物館誕生!
「絶滅した大哺乳類たち」科博*インドリコテリウム等。
4月
「フクイリュウとその仲間たち―手取層群の恐竜」福井県立博物館*図録としては異例の豪華大型本。
6月
「絶滅動物からのメッセ-ジ―緑と水の世界からゴビの砂漠まで」茨城県自然博物館*内モンゴルの恐竜と絶滅哺乳類
「白峰村手取湖太古の丘恐竜館・展示案内」
石川県白峰村に恐竜館オープン
7月
「大恐竜博―THE T.rex WORLD EXPOSITION」池袋サンシャインシティー*初公開のスタン全身骨格をはじめとして、それまでに発見されたTレックスを集めた画期的な恐竜展。頭骨がずらりと並んだ様は壮観でした。
「恐竜王国―地底からよみがえった恐竜たち」勝山市*これは展示会の図録では無く勝山で見つかった恐竜化石を紹介した冊子。恐竜博物館開館まであと5年。
1996年
3月
「シルクロードの恐竜」名古屋市科学館*中日共同発掘調査の経過など
7月
「恐竜の道」中里村恐竜センター*モンゴルから来た独特な組み立て方の全身骨格が印象的。バルスボルド博士の講演も聞けました。
「生命史20億年―ヒトのルーツをさぐる」
豊橋市自然史博物館
「ダイナ・フェスタ―海と太古の恐竜博」
いわき市
「恐竜」愛媛県総合科学博物館
「恐竜のふるさとユタ」岐阜県博物館
9月
「恐竜の足跡と謎の先カンブリア生物」
千葉県立中央博物館
10月
「アルゼンチンの大恐竜展―南米の古生物」
群馬県立自然史博物館がオープン。第一回企画展が開かれました。
「ロシアのマンモス」豊橋市自然史博物館
1997年
3月
「こんにちは!恐竜家族―ディノ・ベイビーがやってくる」名古屋市東山動物園
7月
「世界大恐竜博―MEMORIES OF EARTH」大阪ビジネスパーク*竜脚類を中心にした展示
「アマルガサウルスの棘突起はなぜ長い―アルゼンチンの恐竜と自然」茨城県自然博物館
1998年
7月
「とやま恐竜時代―足跡化石とモンゴルの兄弟たち」富山県大山町社会体育館*大量の足跡化石が見つかった大山町で開かれた「おおやま恐竜展」の図録。
「大恐竜展―失われた大陸ゴンドワナの支配者」科博*ギガノトサウルス初見参。ラエリナサウラやミンミ等オーストラリアの恐竜も。
「恐竜が語る生命の歴史」宮崎県総合博物館
1999年
3月
「鳥のルーツを探る」名古屋市科学館
4月
「国立科学博物館ガイドブック」新韓オープン!
7月
「恐竜時代―モンゴルと手取層群の恐竜たち」岐阜県博物館
8月
「地球恐竜博‘99―人類は生き残れるか」
静岡コンベンションアーツセンター
2000年
3月
「ちびっこ恐竜来る」群馬県立自然史博物館*カマラサウルス幼体の実物全身骨格展示。
7月
「おもしろ化石大百科」豊橋市自然史博物館
「福井県立恐竜博物館展示解説書」ついに恐竜博物館オープン!
「恐竜エキスポふくい2000 公式ガイドブック―恐竜時代へタイムトリップ」*恐竜博物館開館を記念して、勝山市とその周辺で行われたお祭りイベント。
私も演奏!で参加しました。
1994年〜2000年の恐竜展(画像6)
そして時代は21世紀に…。
90年代は数が多すぎて駆け足の紹介になってしまいましたが、こうして改めて振り返ってみると、20世紀の恐竜展は何か熱い期待感を持って迎えていた気がします。今と違って恐竜の情報量が少なかったせいでしょう。たとえて言えば昭和プロレスの「まだ見ぬ強豪初来日!」みたいなワクワク感か。
勿論今世紀も興味深い恐竜展は毎年行われているのですが、大きなものは年に2〜3回くらいに落ち着いてきた感じです。私が歳をとったせいも有るでしょうが「オオー!」と思ったのは近年では今回の始祖鳥と水棲スピノサウルス位。今年の夏の幕張と横浜の恐竜展は、はたしてどうでしょうか?
*それにしても、なんでこうも「大」が付く恐竜展(博)が多いんだろう?
★緊急情報!
「大英自然史博物館展」で、恐竜倶楽部の仲間が始祖鳥のカウンターパーツ(ネガ)の方に歯が付いた上顎が残っているのを発見。ネットで探したらこの通り。
http://www.alamy.com/stock-photo-archaeopteryx-lithographica-london-specimen-66713598.html
この機会に見ないと一生拝めません。知ったからには私も3度目行きます!11日まで。お見逃しなく。
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田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。