Vol.58 初空や 遥かに鳥か 飛行機か いや、プテラノドンだ!
前回の記事をアップした直後、ごく一部の翼竜ファンの心を熱くするようなニュースが飛び込んできました。出所は恐竜倶楽部の中でも海外の論文を読み漁るハード派に属するUさん。彼が熱く語るには、科学誌「Nature」に翼竜の起源に関する新しい論文が掲載されたとのこと。恐竜に近い(同じ恐竜様類に分類される)ラゲルペトン類が実は翼竜の祖先らしいのです。今まで翼竜は恐竜様類とは別系統でした。こちらの「分岐学的定義」をご覧になると一目瞭然です。
*日本語のニュースもありました。
つまり前よりも恐竜に近い動物に格上げ(あくまでも恐竜至上主義者の目線ですが)されたわけで、暗い世の中にあって、新年らしい目出度い話題です。今年翼竜がさらなる高みに飛翔するのを祈念して(もはや何を言っているのか判りませんが)、前回に引続き翼竜特集です。
●翼竜映画
翼竜は多くの恐竜映画に出演して、花を添えています。古くはあの1925年のサイレント映画「ロストワールド」。ドイルの原作には、沼に巨大な営巣地をつくり、群れで襲いかかり、ロンドンの空を舞うといった主役級の大仕事をするプテロダクティルスが出てきますが、映画では残念ながら全てカット。しかし代わりに、とても印象的な登場の仕方をするプテラノドンがいます。こちらをご覧ください。ありがたいマニアのサイトです。プテラノドンは冒頭に登場します。
実はロストワールドのプテラノドンの映像をネットで捜していたら、思わぬ拾い物をしました。全く知りませんでしたが、ロストワールドよりも古い1920年のサイレント恐竜映画です。
https://www.youtube.com/watch?v=QQcJFEgNZm8
特撮マニアの方による、この映画の、詳しすぎる解説ページも見つけました。
http://blog.koyama.mond.jp/?eid=873756
8分過ぎにドラゴンの様な翼竜が、9分45秒位からステゴサウルス、トラコドン、ティラノサウルスが次々と現れ、なかなか見ごたえがあります。
「キングコング」(1933)では、プテラノドンがヒロインを捕まえ飛び去ろうとします。気が付いたキング・コングにボロボロにやられてしまうのですが、この後、翼竜(主にプテラノドン)が人をさらうのはお約束シーンとなり、記憶に新しいジュラシック・ワールドまで、危機一髪で必ず助かるヒロインを除き、多くの犠牲者を出しています。いくつかその名シーンを紹介しましょう。
(画像1)「キングコング」(1933)のアン・ダロウ。危機一髪でコングに助けられます。
(画像2)「恐竜100万年」(1966)の眩しすぎるラクウェル・ウェルチは危うくヒナの餌になるところを、翼竜同士のバトルに救われます。
(画像3)「恐竜グワンジ」(1969)映画史上最弱のプテラノドン。子供を持ち上げるのがやっとで、主人公に首をへし折られてしまいます。
(画像4)「アデル―ファラオと復活の秘密」(2010)この映画のプテロダクティルス(と呼ばれています)は大活躍で、主人公の美女アデルに手なずけられ、無実の死刑囚を救出します。
(画像5)その他の映画の翼竜登場シーン
上段はチェコの映像作家カレル・ゼマンの傑作「前世紀探検」(1955)の見事なプテラノドンと、珍しいソ連製の金星翼竜。こちらは舞台は金星なのにブロントサウルスなども登場してしまう「火を噴く惑星」(1961)から。この翼竜は、後にこのソ連映画を改変して作られたアメリカ映画「金星怪獣の襲撃」にも出演しています。
中段は「恐竜の島」(1974)と「続恐竜の島」(1977)のプテロダクティルス。中央の火に包まれているのは「恐竜の島」のラストの火山噴火シーンにチラッとシルエットで出てくるディモルフォドンらしき翼竜。この2作に出てくる恐竜はどれも動きが悪く、翼竜もはばたきません。潜水艦や飛行艇のミニチュアの出来がいいだけに残念!
*この2作は、イギリスのアミカスプロのバローズ3部作で、続く3作目はペルシダーシリーズの唯一の映画化作品「地底王国」(1977)なのですが、悲惨な着ぐるみ映画になってしまいました。嗚呼、進化した翼竜マハールがこんな姿に…
https://www.youtube.com/watch?v=S1PPeUO5pCY
下の段は和物。まずは「空の大怪獣ラドン」(1956)の、印象に残る「ほらピッタリ!」のお馬鹿シーン。ラドンが翼竜かはともかく、プテラノドンの絵が大写しになっています。実はこのシーンの部屋の棚の上に、モノクロニウスやディメトロドンなどの骨格模型が飾られています。探してみてください。
*「ラドン」のウィキペディアに[シナリオ上の設定でプテラノドンは「中生紀に生息した飛竜の一種で空飛ぶ始祖鳥としては最大のもの」とされている]と書いてありますが、この設定、何ひとつ合ってないですね。
次はTV シリーズ「恐竜探検隊ボーンフリー」(1976)のプテラノドン。何故か2足歩行します。この番組、特撮はともかく、恐竜の扱いは良心的です。
その隣は「恐竜と怪鳥の伝説」のランフォリンクス。この姿だけ見るとなかなか格好良いのですが、映画の評判は散々です。
https://filmarks.com/movies/38719
https://filmarks.com/movies/38719/spoiler
「恐竜と怪鳥の伝説」は「ジョーズ」のおこぼれを狙って作られた血みどろパニック映画ですが、これに輪をかけるのが、近年、CGが駆使されるようになってから量産されているお馬鹿な恐竜映画で、翼竜を主役にした映画もいくつかあります。予告編やB級映画マニアの感想などをお楽しみください。
「プテラノドン」(2005)
間抜けな人たちがプテラノドンに殺されるというだけの映画です。
https://www.youtube.com/watch?v=0jGJkRyk0F4
https://filmarks.com/movies/51141
https://kansomagai.com/pterodactyl-2020-0129/
「プテロドン―零式戦闘機vs翼竜軍団」(2008)
太平洋戦争中に米兵と日本兵が怪獣の住む孤島で共闘するシチュエーションは、「キングコング:髑髏島の巨神」でもありましたが、こちらの方が先です。と、自慢するほどの作品ではありませんが…。
https://www.youtube.com/watch?v=i1qVI3HpmPo
https://ameblo.jp/amanohokuto/entry-11536300894.html
http://www.wound-treatment.jp/next/eiga/619.htm
「シャークトパスVSプテラクーダ」(2015)
これはもう反則です。プテラクーダに遺伝子を提供したプテラノドンがチラとでも出ていれば翼竜映画として合格だったのですが…。しかしネットにはB級映画マニアの賛辞が並んでいます。まあこのタイトルとビデオパッケージの絵を見たらまっとうな恐竜ファンは手を出さないでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=Qjd6Q7MVqUw
https://filmarks.com/movies/60801/spoiler
https://ameblo.jp/makomako-63/entry-12087855951.html
「ジュラシック・リボーン」(2016)
これも突っ込みどころ満載で、B級マニアの評価は高いようです。
https://ameblo.jp/8haku5inukyuu/entry-12235566112.html
https://filmarks.com/movies/71655
B級血しぶき映画つながりでこちらも。翼竜ではないので“ス”が付いていませんが「ケツァルコアトル」がマンハッタンで暴れまくる「空の大怪獣Q」(1982)は、ストップモーション時代の、けっこう気に入っている映画です。ケツァルコアトルを崇めて血みどろな儀式をするアステカの末裔的信者もいますが、ケツァルコアトル自身は神たる力はなく、上空から人を襲って餌にしたり摩天楼の屋根裏で地道に子育てをして、最後は警官隊のマシンガンの斉射で絶命します。ビルにへばりついて断末魔の叫びをあげ落ちていくのはキングコングへのオマージュか。
印象に残るシーンです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%BA%E3%81%AE%E5%A4%A7%E6%80%AA%E7%8D%A3Q
https://www.youtube.com/watch?v=yIdv_J6DOhs
どさくさ紛れにもう一匹、お気に入りのドラゴンを紹介してしまいましょう。「ドラゴンスレイヤー」(1981)のヴァーミスラックスです。この映画、国内版DVDも出ていなくて(我が家にあるのはレーザーディスク!)観るのが難しいかと思ったら、ツタヤで配信されていました。
https://tsutaya.tsite.jp/item/movie/PTA0000832UR
ドラゴンが上空でフワリと風に乗るシーンの浮遊感が最高です。以前衝動買いしたペガサス・ホビーの、名シーンを再現した情景フィギュアもこの際自慢しておきましょう。(画像6)
話を翼竜映画にもどします。翼竜は主役を張らない方が良さそうですが、印象的な脇役としては大活躍です。近年では例えばディズニーの「ダイナソー」の冒頭のタマゴをくわえて飛ぶプテラノドンや、「ウォーキングwithダイナソー」の狂言回し的な役でいい味を出していた3羽のアズダルコ類翼竜。もちろんJP3の巨大ケージで飼われている歯があるプテラノドンやJWの大挙して入園者を襲うディモルフォドンも忘れることはできません。
翼竜の飛翔シーンは、映画以外にもBBCやナショジオの恐竜ドキュメンタリー番組で観ることができますが、こちらもご覧ください。角田和彦さんとおっしゃる、ラジコンではばたいて飛ぶ、翼竜など飛翔生物を作っている方のページ。凄いです。
翼竜関連の本も紹介しておきましょう。(画像7)
「動物大百科[別巻2] 翼竜」(平凡社1993)は、A4版215pに翼竜の解説と化石写真、イラストがぎっしりと詰まった翼竜ファン必携の本ですが、ケツァルコアトルス以降に発見された翼竜は載っていません。改訂版が欲しいところ。
「翼竜の謎」(金子隆一 二見書房1995)は新秘宝館Vol.14とVol.51に登場していますが改めて。「翼竜・首長竜・魚竜の時代」の副題どおり、翼竜に関するページは3分の1ほどですが、金子さんのこれでもかという深堀解説がさく裂しています。それに何といっても表紙の原画が我が家にある事は何度でも自慢したくなります。
その右は2008年に日本科学未来館で開催された「世界最大の翼竜展」の図録です。ケツァルコアトルス全身骨格が初披露された他、目新しい中国の翼竜なども多数紹介され、とても濃い内容の展示会でした。並んでいるのは会場で売られていたケツァルコアトルスのオリジナル・フィギュアと、ペーパークラフトです。
(画像8)は翼竜がメインに描かれている表紙ギャラリーです。ロストワールドものが5冊、そしてペルシダー等バローズものが10冊。「ストーンハート」の翼竜は、大英自然史博物館を守る実在のガーゴイルです(秘宝館Vol.40)。「火星」というのは、大正13年(1924)に中山啓という詩人が書いた詩集で、地球の歴史をテーマにした、恐竜も出てくる「星座の王」という詩が収録されているのですが、ランフォリンクスは出てきません。
これらの他にも翼竜が表紙の背景にいる本は嫌というほどあります。中生代の風景に翼竜は欠かせません。
さて、コロナ渦で家にいる事が多いので、自然とネットを見る時間が増え、ショップで気になる恐竜グッズを見つけると少々高額でも「ここで買わないとコロナで倒れた時に後悔するぞ」とかなんとか理由を付けては、ついつい買ってしまいます。そんな最近衝動買いしたグッズの中で、気に入った物を披露いたします。(画像9)
なぜ今頃!?…「恐竜100万年」のアロサウルスと主人公トゥマクの名対決シーンを再現した、スターエーストイズのフィギュア。全高30cmほどもあります。2万円程しましたが実に見事な出来なので事あるごとに眺めてはニヤニヤしています。ラクエル・ウェルチのフィギュアもモデル化されているので欲しいところですが、スケール違いのトリケラトプスとセットになっているのは考えもの。トリケラトプスを手に入れたら次は相方のケラトサウルスも手に入れなければ気が済まないし…。どちらももう売り切れたそうなので、たとえ見つけても、ただでさえ高価なのにさらにプレミアがつくだろうし…。
https://jp.ric-toy.com/413-satd12.html
https://www.1999.co.jp/10748943
Beasts of Mesozoic シリーズはアメリカのサイトで以前から気になっていた物なので、アマゾンで売られているのを発見しては、もう即買かうしかありません。30㎝弱のアクションフィギュアで、可動部は多いのですが可動範囲は海洋堂のリボルテックT-REXに比べるといまいちです。でも造形は良いし楽しく遊べます。ラプトルが10種類以上あるようですが、どうやら胴体のパーツは共有の様です。並行輸入品とかで一匹1万円以上するので集めるのは断念しました。我が家に迎えたのはピロラプトルというフランスで発見されたマイナーなドロマエオサウルス類です。
ティラノ頭骨は、去年の暮れの化石的には残念だったミネラルショーで見つけた数少ない恐竜物の一つ。1/8スケールでフェバリットの頭骨と同じくらいの大きさ。他にもスタンやスーやガレージキットの似たようなサイズの頭骨模型を持っているので、最初は買うのを躊躇したのですが、説明書を読むと「Tafts-Love Rex」という、発見者の名前からとった愛称がついた、バーク自然史文化博物館の所蔵のUWBM99000という標本番号が付けられた化石の実物をスキャンして3D プリンターで作られたものらしいので、迷った挙句思い切って3万円ほどで購入。家に帰ってから「Tafts-Love Rex」をネット検索したところ、モンタナで2016年に発見された最新のティラノで現在クリーニング中、そしてびっくりするほど完全な保存状態の頭骨写真も見つけ、このスケールダウンしたレプリカのありがたさが判明、買ったのは正解だったと胸をなでおろしたのでした。
その横にひっそりいるのは、つい2、3日前に手に入れた一個300円のガチャポン「大むかしの海:始まりの世界」の海サソリ、ダンクレオステウス、アーケロンの全3種(アンモナイトはアーケロンに付属)。プロポーションもまあまあ、そこそこ大きく可動部もさほど不自然ではないので、300円なら文句ないところですが、それよりなにより、だぶらずに3回でコンプリート出来たことが嬉しい!おみくじで大吉が出るよりも「こいつぁ春から縁起がいいわえ」です。
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田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。