新恐竜秘宝館

Vol.76 九州恐竜紀行

昨年の11月末、コロナで久しく無かった本業の方のバンドのツアー(業界用語でビータと言います)がありました。熊本から鹿児島まで5か所でライブをやるというもので勿論旅費は主催者持ち。私はこれ幸いとばかり念願だった長崎恐竜博物館と佐賀県立博物館見学を計画しました。熊本のライブの前日、一人で前乗りし長崎の恐竜博物館へ、そして熊本ライブの当日の午前中に佐賀に寄り夕方までに熊本に入るという綱渡り的な行程で、こんなことができるのも九州新幹線のおかげです。当初はさらに、3時間程早く熊本に着き、ライブ前に御船の恐竜博物館を1時間見学する(御船は熊本市内からバスで1時間ほど)ということまで考えたのですが、さすがにそれは無理でした。

今回は長崎と佐賀、そしてツアーの空き時間に会いに行った宮崎と鹿児島の恐竜達のレポートです。

 

11月29日:長崎恐竜博物館

朝一番、7時15分羽田発の飛行機で長崎空港へ。空港から長崎駅までリムジンバスで1時間弱。さらにバス停がやたらと多い路線バスを乗り継いで約1時間、目の前に海が開け、あの軍艦島が視界に入ってきてナマ軍艦島は本当に軍艦に見え感動しいよいよ着くなとソワソワしたのですが、バスは美しい海岸線を相変わらずこまめに停車しながらさらに10分以上走り続けたのでした。

話には聞いていましたが、確かにアクセスは悪い…着いたのは午後2時過ぎでした。

 

今回見学するにあたって、恐竜倶楽部のつてで学芸員の中谷大輔さんと連絡を取ることができました。中谷さんは、専門は海棲爬虫類だそうですが、あの横山又次郎博士についても研究されている方。そう、長崎は“恐竜”の名付け親横山先生生誕の地なのです。私も先生とは長年のお付き合い?(新秘宝館Vol.6Vol.47)で著書も集めているので、是非ともお話を伺いたいと思った次第です。

 

中谷さんと何回かメールのやり取りをしているうちに、思いもよらない企画が持ち上がったのですが、それは後程。まずは博物館の紹介です。

 

この博物館は2年ほど前に開館した日本で最も新しい恐竜博物館です。恐竜展示室の一面がガラス張りになっていて、美しい海とそこに浮かぶ軍艦島が望めます。この解放感は今までの博物館には無かった物でとても新鮮でした。時折カーテンを下ろして標本をライトアップし、観察しやすくするといった配慮もなされています。規模はさほど大きくはないのですが、見所はたくさんあります。

目玉はなんといってもティラノサウルス・レックスのトリックス。オランダのライデン市にあるナチュラリス博物館(正式には生物多様性センター)所蔵の、屈指の保存状態を誇る全身骨格標本のレプリカで、長崎市とはシーボルト以来の付き合いで姉妹都市にもなっているライデン市の計らいでやってきた物。なんと世界唯一のレプリカ展示だそうです。低く構えた姿も格好良い。中谷さんによるとポーズに関してはナチュラリスから細かい指示があったそうです。レプリカと言えども我が子の様なこだわりがあるのかと妙な所に感心してしまいました。

そのトリックスの足元には、ティラノ一族の進化を物語る4種の標本が控えています。古い方から、ティラノサウルス上科のディロン、同じくシオングアンロン。ティラノサウルス科としては現在のところ一番古いとされる8000万年前のカンパニアン期のリトロナクス。そして最末期マーストリヒチアンのモンゴル産でタルボサウルスと近縁との説もあるアリオラムスです。おなじみのタルボサウルスやアルバートサウルスがいないのはユニーク。まあ展示スペースが狭いからかもしれませんが。

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この博物館がティラノ類を揃えているのは、地元の三ツ瀬層(8100万年前のカンパニアン期の地層)からティラノサウルス科とされる3本の立派な歯が見つかっているからです。その大きさは10㎝近くありTレックスと比べてもさして遜色はありません。Tレックスの1000万年も前にこのような巨大なティラノ科がいたとは!記載されたらその巨大さとリトロナクスと同等の古さでティラノ史を塗り替えるかも。発掘は継続中との事で楽しみです。三ツ瀬層からはハドロサウルス上科の肩甲骨と歯も発見されています。

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で話は戻りますが、この博物館で私が何をしたかと言うと、なんとテレビ生出演でした。

「どうせ来るなら博物館で演奏しませんか?」という中谷さんの思いがけない提案に、これは思い出になるぞと私も乗り気になりました。出演するのは地元のケーブルテレビ「長崎ケーブルメディア」で毎日夕方5時から放送されている「なんでんカフェ」という情報番組の「なんでん中継」という10分ほどのコーナー。トリックスの前に電気ピアノを置いて見つめあいながら弾くという趣向です。トリックスの頭骨の角度が丁度いい具合で、ピアノに座ると「目と目が逢う」のです。視聴者に受けるだろうと思って冗談でやった事なのですが、見つめあっているうちに空ろな眼窩の奥に本当に眼球があるような不思議な感覚に襲われました。恐竜仲間に自慢したくなるような面白い体験でした。

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リハーサルの模様。こんな絵はなかなか無いでしょう。

 

実はこの番組、You Tubeで配信されています。冒頭の、びっくりするほどの進化を遂げた最新ティラノロボットの映像から、何やらピアノを弾いている怪しい人がいる…と場面は展開。

楽しんでいただけると思います。ぜひご覧ください。

 

さて、博物館に行ったからにはグッズ漁りは必須。ひそかに期待していたトリックスのフィギュアや横山又次郎人形は無かったのですが、地元の「天才消しゴムはんこアーティスト少年」のShow.F.E.Sさんの作品を使ったコースターや絵葉書を購入しました。デビューは2020年で13歳の時との事なのでまだ16、7なのですね。見事な腕です。トートバッグは唯一のトリックスグッズか?

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横山又次郎博士の貴重なお話もいろいろ聞けたのですが、中谷さんは近々横山博士に関する論文を発表なさるそうで、それまではオフレコです。

 

終わった後中谷さんをはじめ関係者の方(初めてお会いする地元在住の恐竜倶楽部の方も!)で打ち上げを、宿泊先の長崎駅前のホテルの近所でやっていただきました。皆さん博物館寄りにお住いで車なので、アルコールを飲んだのは私だけでしたが、楽しい恐竜談義にお付き合いいただけました。感謝感謝です。

 

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トリックスの足元にいたティラノ一族の恐竜達のフィギュアが、まさか全種類我家にあるとは思いませんでした。博物館と同じに並べてみました。上段、古い順に右からサファリ製のディロン。シオングアンロン、リトロナクス、アリオラムスはコレクタ製です。今が旬のPNSOからもリトロナクスが出ているのですが、我が家に無くて残念。

下段の左は秘宝館Vol.64でティラノ、ナノティラヌス、新秘宝館Vol.54でガレイニアの頭骨を紹介した村瀬善明さんのアリオラム頭骨。アリオラムスはマテルのJPシリーズからも出ています。その右はアリオラムス科の近縁種キアンゾウサウルス。サファリとPNSOの製品です。ティラノサウルス類だけをとっても、このようなマニア向けの恐竜フィギュアが揃うとは、凄い世の中になったものです。

 

11月30日 佐賀県立博物館

10時にホテルをチェックアウトして、在来線特急と新幹線を乗り継いで1時間ほどで佐賀へ。あのティラノに再会しに行くのです。

まずはこちらをご覧ください。

新秘宝館Vol.10Vol.17Vol.56Vol.57

 

という訳で念願だった科博のティラノとの63年ぶりのツーショットです。無理を言って撮影していただいた学芸員さん、ありがとうございました。

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ティラノの前には1時間ほどいて、人生を振り返ってしみじみとしていた(?)のですが、この博物館には他に見る恐竜もなく、この日の仕事の地熊本に新幹線で向かいました。翌日からは宮崎に3連泊、宮崎、都城、日向でライブです。昼間はゆっくりできます。

 

12月2日 宮崎県総合博物館

宮崎にはこれまで何度か演奏で来る機会があったので、この博物館は3回目です。自然史展示室は宮崎の自然のジオラマや棲息する動物の剥製、スジイルカやオガワコマッコウの全身骨格など現生が中心で、化石はデボン紀のサンゴが少々あるだけ。しかし恐竜骨格展示はなかなかのものです。サイカニアやプロトケラトプス、珍しい白いエオラプトルなどの全身骨格レプリカが所狭しと並べられています。高い所にいる北海道産のナウマン象もインパクトがありますが、目玉はやはりティラノの全身骨格。

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ここのティラノは日本ではあまりお目にかからないMOR555ワンケル・レックスです。オリジナルはモンタナのロッキー博物館に展示されていた物(それでMOR)ですが、今はスミソニアンに貸し出されていて、下の模型の様にトリケラトプスをかじっているそうです。このワンケルの全身と頭骨の模型は私のコレクションで、3Dプリンターで骨格模型を製作しているアンフィ合同会社の製品です。

 

12月5日 鹿児島県立博物館

前日にツアー最後のライブが終わり帰京する日。チェックアウトしてから空港行のバスに乗る間の2時間も無駄にはできません。いざ鹿児島県立博物館へ。この博物館はホテルから歩いて行ける距離で、西郷さんの銅像のすぐ隣にあります。

ここには日本で2番目に古い恐竜全身骨格が展示されています。1962年、科博に日本初の恐竜化石展示となるアロサウルス全身骨格を寄贈した小川勇吉氏による寄贈で、1966年から展示されている歴史的なアロサウルスとカンプトサウルスです。半分以上実物化石で組まれているそうです。

私はおそらく30年以上前、やはり演奏旅行の最中に彼らを拝んでいます。その時の写真が出てきたので並べてみます。なにぶん古い写真でやたらと暗いので、うまくスキャンできませんでしたがご容赦を。

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個人的な意見ですが、私は昔の展示の方が好きです。このようなドラマがある化石はモニュメントとして当時の姿のまま保存して、先人の恐竜愛に思いを馳せたいと思うのですが…。

 

この博物館にはもう一つ、30年前には無かった化石が展示されています。今、化石の島として注目されている鹿児島県北端の獅子島で2004年に、サラリーマン化石ハンターとして有名な宇都宮聡さんが発見したエラスモサウルス類サツマウツノミヤリュウの実物化石です。ここで見られるとは知らなかったので嬉しいサプライズでした。海洋堂の古田悟郎さんが制作したカメの様な復元模型が何ともユニーク。科学的根拠は無いのでしょうが印象に残ります。

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*サツマウツノミヤリュウの発掘の顛末は、宇都宮さんの著書「クビナガリュウ発見!―伝説のサラリーマン化石ハンターが伝授する化石採集のコツ」(築地書房2007)で読むことができます。

 

今回は恐竜的に充実した九州ツアーだったのですが、九州には今回断念した熊本「御船町恐竜博物館」、今年3月にリニューアルオープンする天草の「御所浦恐竜の島博物館」、リニューアルしてから一度も行っていない北九州市の「いのちのたび博物館」など行きたい博物館が目白押し。さらには獅子島と並ぶ鹿児島県の離島恐竜化石産地、甑(こしき)島にも来年、本格的な恐竜博物館がオープンするそうです。

今九州の恐竜は熱いです!

 

 

おまけ

ついこんな物を作ってしまいました。

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反省点多々あり。丁度良さそうな大きさの1/100零戦(童友社)のキャノピーを開けた状態にするのに見事失敗。それに写真を見たら零戦汚し過ぎだ…。映画で観た印象がボロボロだったので、ついついやりすぎてしまいました。

ジオラマは時間が無かったのでたまたまあったフェルトを使った即席の物です。いずれビデオを観てから零戦共々作り直します…て、“通称”アンギラスを作った時(新秘宝館Vol.73)も同じことを言った気が…。


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。