Vol.83 基盤的恐竜図鑑
3月までTBSで放送されていたドラマ「御上先生」は好評のうちに終わりましたが、もちろん恐竜の側からの注目は、1話からいきなり思わせぶりに登場した、お兄さんの形見のステゴサウルスのフィギュアと3冊の恐竜図鑑です。ステゴサウルスの意味は、例えば感覚が鈍い現代の日本社会を象徴しているとかいろいろと推測されていましたが、意味を持たせるならもう少し立派な物にして欲しかった。どう見ても玩具の類でメーカーの同定もできません。まあ劇中で何度落としても壊れない物をという選定だったのかもしれませんが。
図鑑は表紙が写っている「ニューワイド学研の図鑑・増補改訂版(2006年7月刊)」と裏表紙が確認できる「小学館の図鑑NEO(2002年7月刊)」、そしてその間に挟まっているものは画像確認できませんが講談社の物か?
しかしここで重大な問題が生じます。
物語の設定ではお兄さんは22年前に亡くなったことになっており、その時点(2002年~2003年?)で刊行されているものはギリギリ小学館のものだけ。時代考証はアウトです。
そして第6話の回想シーンではお兄さんはステゴサウルスを手に「恐竜は脳が小さいから尻尾を踏まれてから感じるまで10分かかる」という古典的なうんちくを傾けます。聡明なお兄さんが21世紀に吐く言葉ではありません。そして御上先生は「学説変わってさ、だいぶ早く動けるらしいよお兄ちゃん」とつぶやきます。怒れる恐竜ファンに対する配慮かもしれませんが、「学説」が変わったのは二人が生まれる以前です。
結局お兄さんの恐竜好きの件はうやむやになって終わってしまいました。最後の最後にお兄さんの霊がすがすがしい顔で窓の外を眺めるシーンがありましたが、手にステゴを持っていて欲しかったなあ…。
とまあ、この様な重箱の隅をつつくようなツッコミは秘宝館ならではと自負しております。
まくらはこれ位にして本題。
前回、三畳紀の恐竜を調べた時によくお目にかかったのが「基盤的」という言葉。それがひっかかって、少し調べてみました。
三畳紀に登場するのは基盤的獣脚類と基盤的竜脚形類のみで(これまで三畳紀の鳥盤類と言われていたものはことごとく恐竜形類になっていました)、基盤的鳥盤類は今のところジュラ紀初期に登場し、大雑把に言ってしまえば、それがジュラ紀の装盾類と白亜紀の角脚類(初めて聞いた単語です)に分岐し、さらにそれぞれが分岐を繰り返しお馴染みステゴサウルスやアンキロサウルス、トリケラトプス、エドモントサウルスの登場と相成ります。それぞれの段階で分岐した種を派生的、分岐する前を基盤的と呼ぶ…というのが私の解釈ですが間違いないでしょうか?
「基盤的〇〇類」という言い回しは論文や研究者の間で使われるものと思っていましたが、昨今はそうでもないようで、例えば2022年刊の児童向け学習図鑑「学研の図鑑LIVE・恐竜(新版)」では「基盤的〇〇類」は頻繁に登場し、巻末の用語集でも「生物のグループの起源に近いものを基盤的であると言う」と説明、従来一般書で用いられていた原始的という言葉とのニュアンスの違いにも触れています。本文では「分類がよく判らないために基盤的な仲間に入れられるケースもある」とまで解説しています。
一方その前年2021年に刊行された「角川の集める図鑑GET!・恐竜」は時代順・地域別に多数の恐竜を並べてとても充実した内容なのですが「基盤的」は使わず「原始的な〇〇類」と呼んでいます。
*「GET」には三畳紀の最初のページに「恐竜形類」としてアシリサウルスとマラスクスが登場します。「LIVE」では巻末の「恐竜以外の生物」の項でアシリサウルスを取り上げシレサウルス科としていますが、股関節の構造が違うので恐竜の仲間ではないとの解説が付くのみで恐竜形類という単語はありません。
そんなわけで基盤的恐竜捜しにはまってしまい、挙句、我が家にある「基盤的恐竜」のフィギュアやレプリカなどを集めてクラドグラム(分岐図)まがいを作る事に挑戦してみました。
ネットで公開されている複数のクラドグラムと前述の「学研の図鑑LIVE」を参考に基盤的なものを選びましたが、どこに位置付けるのかは諸説入り乱れていて、特に小型の鳥盤類は謎だらけ。しかもモデル化されてる種類はごく限られているので、隙間だらけの分岐図です。なので今回の特集も解説的なものではなく、単にコレクション自慢だと思ってください。
*今回、グループを表すのに科、目といった階級を表す専門用語はほぼ使っていません。無難な“類”にしました。自分でも理解できていないものですから。
まずは前回からの流れで気になるシレサウルスから始まる(かもしれない)鳥盤類からですがその前に、前回紹介し損ねたり新たに手に入れたりした三畳紀の古生物フィギュアをご披露いたしましょう。
ここにも基盤的かもしれないものが混ざっています。
画像1

上 主竜形類
シリンガサウルス(シュリンガサウルス)
左はサファリ、右はマテルのJWシリーズ。白状すると私はサファリの製品で初めてシリンガサウルスを知りました。よくもまあこんなマイナーな古生物のフィギュアが複数あるものだなと感心します。ヴィジュアルが面白いという事でしょうか。
新秘宝館Vol.57にも登場した比較的有名な初期の飛行爬虫類。こちらは我が家のコレクションです。
いずれもウィキ解説では主竜様類となっていますが、主竜様類も形類も原語はArchosauromorphaだったりします。ちなみにウィキで恐竜形類(Dinosauromorpha)を検索すると形類、様類、そして型類という訳語があるとしていますので、とりあえず馴染みのある形類としておきました。どちらにしてもトカゲより主竜類に近い生物群です。前回登場したリンコサウルス類、メガランコサウルスや、タニストロフェウス、そしてカメ類なども主竜形類に含まれる様です。
そしてつい最近コレクタから発売されたインゲンティア(Ingentia prima)。2018年に記載されたばかりのアルゼンチンの基盤的竜脚形類で、レッサムサウルス類の新種だそうです。
下 リソウィキアVSスモク(スモーク)
ポーランドの三畳紀後期の、同じ地層から発見されたもので捕食者と被捕食者の関係にあったそうです。
リソウィキアは獣弓類ですが、スモクは分類不詳の主竜類とされています。記載論文では基盤的主竜類とされていたそうです。もしそうならクルロタルシ類と鳥頸類(恐竜形類+翼竜類)の共通の祖先で、今回、スモク→シレサウルス類(恐竜形類)→鳥盤類という流れができて面白いのですが。
フィギュアはどちらもコレクタの物で、スモクはクルロタルシ類とも恐竜形類ともどっち付かずの絶妙な造形となっています。
右のTシャツに描かれているのはマラスクス
おそらく日本で手に入る唯一の恐竜形類グッズです。
*Dinosauria Creaturesという海外(多分中国)のメーカーの製品にシレサウルスのフィギュアがありますが様子が判らず注文を躊躇してしまいました。
このTシャツ、どこを探してもマラスクスの文字が無く、着ている本人が言い張らなければならないのが難点です。
*ここからは、このウィキペディアのページの後半にある鳥盤類のクラドグラムも併せてご覧下さい。
画像2

基盤的鳥盤類
クラドグラム筆頭のピサノサウルス関連の物は無く、紹介できるのはヘテロドントサウルスしかいませんでした。
前回も登場したANTSの1/2頭骨モデルと70年代のイギリスのメーカーINPROのフィギュア。こちらは昔リペイントしてしまいました。
そしていろいろあって装盾類と角脚類に分岐します。装盾類は剣竜類と鎧竜類に分かれるのですがそのご先祖代表としてこのスケリドサウルスを選びました。新秘宝館Vol.21で紹介した貴重な物。スケリドサウルスのフィギュアはいくつかあって新しい復元の物もあるのですが、やはりこれが一番のお宝です。
この先は画像3にお進みください。
さてもう一方の角脚類。聞き慣れない言葉ですが角竜類(周飾頭類)と鳥脚類を合わせた学名で、原語でもCerapoda。そのまんまで何か安易な感じは否めませんが…。
*これまでの私の常識では、鳥盤類は、装盾類、周飾頭類、鳥脚類で構成されるというものでしたが…。
基盤的角脚類として挙げたアギリサウルスは謎の小型鳥盤類の一つで、次の画像4の基盤的鳥脚類たちよりもクラドグラムで前にいるというだけでとりあえず置いた物。信憑性はありません。何年か前のミネラルショーで何気なく買ったレプリカを登場させたかったというのはあります。
画像3
基盤的剣竜類
これは迷わず「図鑑LIVE」に「最も基盤的な剣竜類」とのお墨付きがあるギガントスピノサウルスにしました。ウィキには説明らしい説明はありません。
基盤的鎧竜類
これも「LIVE」の受け売りでステゴウロス
とクンバラサウルスです。「LIVE」では「かってミンミと呼ばれていた」とあり、フィギュアの名もミンミなのですが、現在ではミンミが有効名か諸説あるようです。
このコーナーのフィギュアは全てコレクタ製。コレクタは基盤恐竜の宝庫です。
画像4
基盤的角脚類
基盤的鳥脚類
ここに挙げたジェホロサウルスとオスニエロサウルスも怪しい小型鳥盤類です。「LIVE」ではジェホロサウルスは基盤的鳥脚類に分類されていますが、それ以上の事は判らないとされ、オスニエロサウルスに至っては分類が難しいとして基盤的鳥盤類に入れています。2011年のクラドグラムでは鳥脚類に分類されていますが。
ジェホロサウルスは20年以上前、ヤフオクで手に入れた実化石をクリーニングした物。
オスニエロサウルスはミネラルで買ったよくできたレプリカです。
ジェホロサウルス(重複しますが)
基盤的堅頭竜類については情報がありません。
ワンナノサウルスあたりなのでしょうが、フィギュア化はされていないようです。
かわいくデザイン化されたTシャツはABC Dinosaur グッズショップというサイトで発見したのですがまるで似合いそうにないのでパス。
仕方が無いので、やはり地味な頭をしているホマロケファレに代役を務めてもらいました。秘宝館Vol.64や新秘宝館Vol.54に登場した90年代のガレージキットメーカー「アルカード」の1/20サイズのものです。
基盤的角竜類
この一角はなぜか充実しています。
お馴染みのプシッタコですが、ウィキには角竜ではなく堅頭竜類と近縁だったという仰天の情報もあります。
化石は昔ミネラルショーで購入しクリーニングした物。20年位前はプシッタコの化石はかなり出回っていて、かなり怪しい復元の中国製置物風全身骨格もよく見かけました。
左のフィギュアは、関節可動羽毛恐竜のアクションフィギュアなどを発売している「Beast in the Mesozoic」の比較的最近の製品で10cm程ながらかなりポーズが変えられるスグレモノ。右はホマロケファレと同じくアルカード製ガレージキットです。
基盤的ネオケラトプス類(新角竜類)
後の巨大ケラトプス科につながる基盤的で小型のケラトプス類で主にアジアから見つかっています。
フィギュアは福井県立恐竜博物館の限定品。
原型は荒木さん、製作はフェバリット。
ミネラルで購入したリアルなレプリカ。
これもミネラルで購入のレプですが、無彩色だったので自分でそれらしく色を塗りました。
コレクタから出ている情景フィギュアなのですが、とても小さいうえに塗りが雑。しかし手に入る物はこれしか無かったのです。やむなくリペイントしてしまいました。
*造形師徳川広和さんのページ「ふらぎ雑記帳」に韓国製の骨格キットが載っています。欲しい…
アマゾンで販売している中国のBACALYSOというメーカーの物。無塗装だったので着色しました。なんとも独創的な造形です。
さて竜盤類ですが、前回、基盤的獣脚類と基盤的竜脚形類は紹介済みなので、ここではコエルロサウルス類に絞ってみました。基盤的なアロサウルス類、メガロサウルス類、ケラトサウルス類などは検索しても出てこなかったという事情もあります。
基盤的コエルロサウルスというとまずはコンプソグナトゥス類が挙げられますが、何かと問題があるようです。
一方メガラプトル類を基盤的コエルロサウルスとするのもいろいろ意見が分かれるところです。
アロサウルス上科、ティラノサウルス上科、非ティラノサウルス上科のコエルロサウルス類説が提唱されているのは、それらの特徴を併せ持っているのかも。そうなると「図鑑LIVE」の「分類がよく判らないために基盤的な仲間に入れられるケースもある」というケースにぴったりではありませんか。メガラプトルは新しく知られた獣脚類(LIVEにもGETにもコーナー無し)で、見た目も良いという事で今回基盤的コエルロとして並べてみました。
*基盤的と言っても後進に道を譲ったのではなく、南米のマイプの様に恐竜時代の終わりにカルノタウルスを蹴散らして暴れていた事はNHKの恐竜スペシャルで既におなじみです。
画像5
基盤的コエルロサウルス類
メガラプトル類
科博の「ズール展2023(通称)」の時の会場限定ガチャ
中国の新興メーカーHAOLONGGOODの製品。PNSOに劣らない出来です。
コレクタの製品。出来は今ひとつか。
まだメガラプトルなどという言葉が無かった時代のフェバリットの製品で、解説ではカルノサウルス科となっています。荒木さんの作品だったと思います。ちなみに「LIVE」でも「メガラプトル類のなかまという説もある」という但し書き付きでアロサウルスのなかまに収まっています。
基盤的ティラノサウルス類
PSNOのミニモデル。他にはマテルのJWシリーズ(新秘宝館Vol.44、隣に基盤的鎧竜ミンミもいます)とコレクタの物があります。
基盤的マニラプトル類
マニラプトル類はドロマエオサウルスから鳥に至る系統です。
テリジノサウルス類がマニラプトル類の最基盤にいるらしく、さらにその基盤的という事でフクイヴェナトルです。アニアの物。フェバリットからも小さなフィギュアが発売されています。
基盤的オルニトミモサウルス類
これは文句のないところでしょう。フェバリットの福井県立恐竜博物館限定フィギュアです。
という事で基盤的恐竜クラドグラム完成です。
最後は唐突ではありますが、恐竜がデザインされたレーシングカーのミニカーの登場です。
画像6
以前恐竜乗り物特集(新秘宝館Vol.5)の時に紹介した車はほとんど安価なオモチャでしたが今回は本格的なミニチュアカー。特に緑のポルシェは1万円近くした精密な物です。まずはこちらから紹介しましょう。
車種はポルシェ911GT3、ボディに描かれているのはティラノサウルスで愛称はレキシ―(Rexy)。ドアの所に2本指の前肢、後輪の所には後ろ足、尻尾はルーフに描かれています。現役の車でル・マン24時間レースなど各地の耐久レースで活躍。このモデルは2023年セブリング12時間レースの時のバージョンです。メーカーはイクソ、スケールは1/43です。
もう一台の方はナスカーと呼ばれるアメリカのレースカーで、1997年のシボレーです。ボンネットでJURASSIC PARK THE RIDEのロゴをティラノがくわえています。スポンサーなのでしょう。
実はカーレース好きだったことをカミングアウトしたところで、今回はこれにて。

田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。