Vol.22 ケイチョウサウルス
今回はヤフオクでお馴染み貴州竜・ケイチョウサウルス(恐竜ではありませんが…)のあれこれです。
ケイチョウサウルスと言えば今や怪しい化石の代名詞に成り下がってしまいました。確かにこれだけ大量の「絵に描いた様な化石」が本物と称して出回っては、そう言われるのも致しかたの無い事。さすがに最近のヤフオク等の商品説明では「補修有り」とか「模造品の可能性大」等と但し書きが有る事が多いようですが。
実は私はケイチョウサウルスがけっこう好きで、以前は化石を落札しては夜な夜なクリーニングごっこをして楽しんでいました(今でも思い出したようにやっていますが)。そのために実体顕微鏡まで購入(こちらもヤフオク)しました。もちろん削るとキレイさっぱり無くなってしまった事も一度や二度ではありませんでしたが、価格も数千円ですので諦めもつくというもの。そして時折大当たり!というのがあるので、オークションにハマって、気がつくと10数体集まってしまいました。今回はその中からいくつか見繕って紹介して、古生物ファンに何かと軽んじられているケイチョウサウルスに光を当てたいと思います。なんと言ってもあの中生代の海の覇者クビナガリュウを生んだ由緒正しい家系の一員なのですから。
これだけ巷にあふれているケイチョウサウルスですが、学術的な情報は殆どありません。ネットで検索しても出てくるのは化石ショップの商品ばかりで、情けない事に日本語版ウィキぺディアすらありません。
(英語版は有りhttp://en.wikipedia.org/wiki/Keichousaurus)
その数少ない情報をまとめると
ケイチョウサウルス(Keichousaurus hui)
爬虫綱/双弓亜綱/鰭竜類/ノトサウルス(偽竜)目/パキプレウロサウルス科/ケイチョウサウルス属
中国貴州省三畳紀中期の海成層から産出。記載論文は意外と古く1958年に書かれています。
ついに完結した「週刊・地球46億年の旅」の22号でクビナガリュウ類との肩甲骨・烏口骨の違い等が説明されています。
とまあ紹介できるのはこの程度の情報で寂しい限り。
我家にはあの有名な徐星博士が書いているこの様な本もあるのですが(写真1)、ほぼ中国語のうえ骨格の詳細図版も載っていないので、産地の写真以外、何の役にも立ちません。
ケイチョウサウルス化石がいつ頃から市場に出回るようになったのかは定かではありませんが、1995年二見書房刊の金子隆一さんの著著「翼竜の謎―翼竜・首長竜・魚竜の時代」ではノトサウルス類には詳しく言及しているものの、ケイチョウサウルスの名は出てきません。あの金子さんが見逃すはずはないので、その時点では博物館の棚の隅に忘れ去られた、取るに足りない化石だったのでしょう。
私が貴州竜を最初に手に入れた(掴まされた!?)のは、まだケイチョウサウルスという名前など知らない時でした。ヤフオクで安い化石が出ているなと疑いもせずに購入したのですが、いかにも中国工芸品という味わいのニセモノ化石で(写真2)、以前紹介したトンデモ始祖鳥化石(秘宝館Vol.34)と同じ作風です。いったいどうやって作っているのでしょうか?結構手間暇かかっていると思うのでだまされてもそれほど腹も立たず、いい経験をしたと自分に言い聞かせて次はホンモノを目指しました。
ケイチョウサウルス化石は何故か母岩が柔らかく本体は堅いのでシロウトクリーニングにはうってつけです。私はデザインナイフを使ってのんびりと静かに(真夜中なので)やっています。その成果の中から、特に面白い物をいくつか選んでみました。
写真3、写真4は一部壊れています。普通化石は不完全で当たり前ですが、真偽はともかく完全に関節した物ばかり出回っているケイチョウサウルスに限って言えば、こちらの方が貴重。いかにも産状化石といったリアルさが気に入っています。
写真5の個体は、胴椎が横倒しになっていて、側面の形状や関節状態が判る(写真6)というなかなかお目にかかれない代物。ちょっと得した気分になりました。
写真7はこの3年くらい、断続的にクリーニングを続けている化石で、写真では判りづらいですがびっくりするほど3Dです。残念なことに前頭部が壊れている頭は、ぐるりと回って頸椎の上に乗っています。さらに後肢の付根に何やら不思議な物体が…。面白くてクリーニングやめられません。
写真8は、写真7の個体と、別の2体の頭骨のアップです。松果孔があるので、もしやクビナガリュウ類にも?と思ってネットで探したら、「世界大百科事典第2版の首長竜の解説」がひっかかり「頭骨上面に松果孔が開く」とありました。勉強になりました。
写真9はれっきとしたレプリカです。クリーニングの参考にしようと購入した物ですが、お値段の方は3万円前後と実物化石より高価です。右の物は近年話題になった子持ち化石なのですが、はっきり言ってよく判りません。
さて、化石ばかりでは秘宝館らしからぬのでこの辺でフィギュアを並べてみます。
と言ってもケイチョウサウルスのフィギュアは去年の池袋ミネラルショーで手に入れた台湾製?実物大模型(写真10)しかありません。仕方ないので後は近縁のノトサウルスでごまかそうかと…。
荒波が打ち寄せる海岸の岩の上にたたずむノトサウルスの姿は、昔の恐竜図鑑の常連でした(写真11:左から「恐竜・その誕生から死まで3―海竜ノトサウルス(1987)」「カラー版なぞの古代生物4―海竜・翼竜(1971)」「そらとうみのりゅう(1973)」)。そのため以外と多くのフィギュアがあります。以前に「その他大勢」の一員として秘宝館に登場した物もありますが、改めて主役として紹介します。
写真12荒木一成さん原型の海洋堂コレクションシリーズ(1980年代)。1/20位の大きさです。(秘宝館Vol.61)
写真13マルシンのソフビ「大恐竜シリーズ」(1970年代)痛恨のリペイント物です。(秘宝館Vol37)
写真14フランスのメーカー「スターラックス」の1970年代の物。何故か2バージョンあります。(秘宝館Vol.6・新秘宝館Vol.8)
写真15左はイギリスのSEREDDIESというシリアルのおまけで4cm位(1950年代)。右は比較的新しいアメリカのPlay Visionと言うメーカーの物。(新秘宝館Vol.8)
写真16現在も売られているサファリの「先史海生動物」チューブに入っていた10cm程の物。ケイチョウサウルス登場以降の物なので、だいぶ昔とは趣きが変わっています。
写真17多分70年代に買ったと思われる、5cm程の何故か中に磁石が入ったゴム製の駄玩具。今回紹介した中で一番探し難い物かも知れません。
そして、昔の図鑑のノトサウルスの絵を探していたら思わぬ収穫がありました。小学館のコロタン文庫「恐竜全百科」にこんな絵が(写真18)。1977年に描かれたケイチョウサウルスの姿です。それにしてもノトサウルス類だけで4種類も!コロタン文庫、侮れません。
写真19は私の寝室のカーテン。ヤフオクでこんな生地を見つけてしまっては、カーテンに仕立ててもらうしかありません。好きなコエロフィシスもいますし。
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田村 博 Hiroshi Tamura
ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。