新恐竜秘宝館

Vol.80 タイタンの一族

9月に入ってから、パタゴティタンに再び会いに行きました。今回はメインのコーナー「ティタノサウルス類:最も大きな恐竜のくらし」に的を絞ってゆっくりと見学。さすがに大英自然史の企画展をそのまま持ってきただけあって、2度目でも見ごたえ充分、思いのほか楽しめました。前回子供の群れに圧倒されスルーした参加型アニメーションも良く作られていました。

改めてじっくり眺めるとパタゴティタンはやはりデカい。それにティタノサウルス類にしては見つかっている部位が多く(数個体分の合成ですが)信憑性があってありがたい。

ちなみにこのあいだ「ダーウィン」で取り上げられていたやはりアルゼンチンの巨大ティタノサウルス類プエルタサウルス(番組では最近発見とされていましたが実は2001年発見2005年記載です)は、4つほどの椎骨に基づく復元。アルゼンティノサウルスも椎骨、脛骨、部分的な肋骨、仙骨だけの様です。パタゴティタンは、45.5%が見つかっているドレッドノータスにせまる完全さかと思われます。

*ドレッドノータスのウィキに超巨大恐竜の骨格の完全性を比較した表が載っていて興味深いです。

ほぼ完全な頭骨が発見されている貴重なティタノサウルス類、サルミエントサウルスをもとに作ったという奇妙な形の「おさわり可頭骨」も触りまくってきました。勿論それなりな無骨な出来でしたが、歯を撫でまわしたところ咬耗面が上下とも内側にあった様な…。恐竜仲間との酒の席で肴にしたい話です。

そしてふと、ティタノサウルス類についてあまりにも無知なことに気付いてしまったのです。私が育ったころはティタノサウルス類などどの本にも載っていなかったのです。

 

昔むかし、昭和と呼ばれた時代、巨大な竜脚類と言えば雷竜ブロントサウルスのち改めアパトサウルス、最長恐竜ディプロドクス、最重量恐竜ブラキオサウルスの3種だけでした。カマラサウルス、ケティオサウルス、ディクラエオサウルス、ユウヘロプスなども「恐竜大百科」「恐竜大全科」といった児童向け図鑑に載ってはいましたが扱いは小さく、大きさのインパクトに乏しいせいか少年誌の恐竜特集などに登場することもありませんでした。

ちなみに昭和時代に発売された3大竜脚類以外の竜脚類フィギュアは、70年代フランスのSTARLUX社のディクラエオサウルス(新秘宝館Vol.8)と80年代の大英自然史博物館のケティオサウルスとマメンチサウルス(秘宝館Vol.41)くらい。カマラサウルスは90年代の海洋堂、松村しのぶさんのソフビキット(現在も復刻版が販売されている)まで待たなければなりません。もっとも当時のブロント(アパト)サウルスはどれもカマラ顔をしていて、そのせいで私などは、カマラサウルスとアパトサウルスが近縁だという誤ったイメージが刷り込まれています。

近年南米で白亜紀後期の超巨大なティタノサウルス類が続々と発見されるまで、竜脚類に対する一般常識は、全盛期はジュラ紀で白亜紀に入って大型鳥盤類の台頭により衰退し中生代の終わりを待たずに絶滅していったというものでした。ティタノサウルスの名が一般の恐竜本に登場したのはいつごろか?気になったのでランダムに70年代からの本を何冊かめくってみました。

 

1973年、小畠郁生著「恐竜博物館」(カッパブックス)は最初の大人向け恐竜図鑑だと思われます。紹介されている竜脚類はブラキオサウルス・ケティオサウルス・カマラサウルス・アストロドン・ユウヘロプス・ディプロドクス・ブロントサウルスで、かなり詳細な解説がされているのですが、分類はざっくりと爬虫綱/竜盤目。竜脚類という単語すら出てきません。

*後ほど紹介しますが、現在の分類ではブラキオサウルス、アストロドン、ユウヘロプスはティタノサウルス形類とされています。アストロドン、ユウヘロプスはそれぞれ白亜紀前期の北米と中国に棲息して、アクロカントサウルスやシノティラヌスのお腹に収まっていたのかもしれません。

 

1977年、鹿間時夫著「古脊椎動物図鑑」は古色蒼然ながら緻密なイラストが魅力的で解説も専門的なのですが、細かい分類には触れていません。マメンキサウルスとティエンジャノサウルスが加わっています。

 

そんな70年代中頃、あの日本の恐竜ルネサンスの発端となった「大恐竜時代」(デズモンド・二見書房1976)の第5章、ケティオサウルスから始まる竜脚類発見史におけるマーシュ・コープ戦争のくだりでタイタノサウルスの名がさりげなく登場します。ティタノ(タイタノ)サウルスの記載は1877年と古いのですが、長い間カミナリ竜界の表舞台に立つことはありませんでした。ここでもあまり情報はありません。

*この本の竜脚類の項の最後に、頭を高く掲げ尾を水平に保ち群れで移動する、キリンを思わせる優雅なバロサウルスのイラストが登場し、デイノニクスとともにルネサンスを象徴するビジュアルとなります。

*かってティタノサウルスはTitanの英語読みでタイタノサウルス(またチタノサウルス)と呼ばれていました。Titanはギリシャ神話に登場する巨神の事だそうです。

ラテン語読みを基本とする現在の日本の恐竜名としては×ですが、他の分野ではむしろこちらの呼び方の方が一般的かなと思います。たとえば映画「タイタンの戦い」。タイタニック号。土星の衛星タイタンなど。なので今回の表題はこちらにしてみました。

 

1988年発行の「動物大百科別巻・恐竜」(デイヴィッド・ノーマン著 平凡社)は大型本で竜脚類だけでも24ページもあります。ディプロドクス類・カマラサウルス類・ブラキオサウルス類を詳しく説明した後、その他の竜脚類の項にタイタノサウルス類が登場します。と言っても主に説明されるのは新顔のサルタサウルスです。竜脚類の項の終わりに分類表のようなものがあって、<タイタノサウルス科に含まれる属>としてアンタークトサウルス・ヒプセロサウルス・ラプラタサウルス・サルタサウルス・タイタノサウルスを挙げています。

 

1995年の「恐竜学最前線9」にグレゴリー・ポールが「超巨大恐竜の謎」という16ページの記事を寄稿しています。巨大竜脚類全般について、お馴染みの骨格図を交え詳しく説明しているのですが、冒頭にアルゼンチンの[ティタノ]サウルス類を紹介。アンタークトサウルスと[最近記載された]アルゼンティノサウルスが登場します。

*いつの間にかティタノサウルスになっています。

 

2000年刊の「ニューワイド学研の図鑑・恐竜」での竜脚類の分類は、原始的な竜脚類/エウヘロプス類/ケティオサウルス類/ディプロドクス類/カマラサウルス類/ブラキオサウルス類、そしてティタノサウルス類となっています。紹介されるティタノサウルス類はオピストコエリカウディア、アルゼンティノサウルス,アンペロサウルス、ヒプセロサウルス、アラモサウルスなど11種にも及びます。復元画もかなり現代風です。

 

2010年新星出版社刊の金子隆一著「徹底図解・恐竜の世界」は最新学説・用語満載で一般人はとてもついて行けない金子節がさく裂する一冊なのですが、ここで「ティタノサウルス形類」という分類(原文では分岐群)が説明されます。そればかりかティタノサウルス形類を含む上位の分岐群「マクロナリア」にも言及されます。

詳しくはこちらで。現在のティタノサウルス類の情報です。

 

ティタノサウルス類

マクロナリア

 

あの昔なじみのブラキオサウルスがティタノサウルス形類…そう言われてみれば旧ブラキオサウルス・ブランカイは今やギラッフォティタンと、ティタノサウルス形類にふさわしい属名で呼ばれていますね。

 

*「~ティタン」はティタノサウルス類に多く付けられる名前ですが、それ以外でも用いられます。例えば旧アナトサウルスのアナトティタン、「巨大恐竜展」にやってきたハイブリッド恐竜の様な名前のティラノティタン(カルカロドントサウルス科)など。

 

…分岐系統図を眺めても今ひとつよく判らないので、気を取り直してフィギュアの話をしましょう。

 

ティタノサウルス類のフィギュア第一号は海洋堂が1991年に販売した、荒木一成さん原型のソフビキット、1/20サルタサウルスだろうと思います。サルタサウルスは決して大きくは無いのですが、鎧竜を思わせる皮骨板が斬新で注目を集めました。フィギュアの数もティタノサウルス類随一です。と言ってもわずか6種ですが。

 

画像①

左は海洋堂・荒木さんのソフビキット(1991)、右上段手前はサファリ(1996)、後方はまだリアル志向だった頃のシュライヒ(2005)。

下段はセガトイズの恐竜キング・恐竜王列伝(2007)と現在販売されているエイコー、ミニチュアプラネットのものです。

他に未所持ですがジュラシックハンターシリーズの物が有ります。

 

そしてここで是非とも紹介したいのが、我が恐竜人生のごく初期、まだ恐竜の実物化石など種類も部位もわからないカケラしか手に入らなかった時代に買ったサルタサウルス(左)とフランスのティタノサウルス類ヒプセロサウルスの卵殻化石。当時から今に至るまで、お手頃価格(5000円以下)で販売されています。当時はティタノサウルス類など意識するわけもなく、ただ竜脚類の実物卵化石としてありがたがっていました。

長い間忘れていた物ですが、ここで陽の目を見るとは!

 

コレクタ社は何故かティタノサウルス類に力を入れている様で、今回調べるまでは聞いた事もなかった(何種類かは持っていたにも関わらずです)ティタノサウルス類が発売されています。

 

画像②

左から

アンペロサウルス(2011)

アルゼンティノサウルス(2012)

ダシアティタン(2015)

アラモサウルス(2011)

 

この他に買い損なっているパラリティタンがあります。

興味深いのは2015年発売のダシアティタンから、ティタノサウルス類の復元スタイルが様変わりしている事です。

 

今トレンドなティタノサウルス類の復元スタイルはこれです。首が太いブラキオサウルスといった感じです。

 

画像③

左から

コレクタのルヤンゴサウルス(2022)

ルヤンゴサウルスは2017年の「ギガ恐竜展」の目玉となった中国のティタノサウルス類です。パタゴティタンと同じ38mの骨格が展示されていましたが尾は殆ど見つかっておらず、全長はあくまでも推測です。

 

PNSOのアラモサウルス(2023)

見るからにバランスが悪く、実際頭をちょこんと押すとつんのめってしまいます。インパクト大ですが、これで生きていけるのか心配になってしまいます。

今読んでいる、この8月に出た本「恐竜最後の日」(ライリー・ブラック著・化学同人)は、小惑星衝突から100万年の間の動物たちの日常を科学的解説を交え物語風に描いたとても面白い本なのですが、その冒頭、衝突の日ユタ州ノース・ホーン層での、孵化直前のアラモサウルスの赤ちゃんのエピソードが語られます。ここでアラモサウルスの説明があり、ユタ州は南米から北上したアラモサウルスと南下したティラノサウルスが出会った数少ない土地という、想像を掻き立てられる話が紹介されています。

 

ドレッドノータス

上段右はコレクタ(2024)

下はマテルのジュラシック・ワールドシリーズのアクションフィギュア(2022)。

こちらは、新秘宝館Vol.69でも紹介した全長1.5mの我家最大の恐竜フィギュアです。写真を撮るのが一苦労でした。「新たなる支配者」で一躍有名になりました。劇中で名前の意味を「怖いもの知らず」と説明するシーンがありましたが命名はそういう意味ではなく、20世紀初頭のイギリスの戦艦ドレッドノートからとられたものです。おそらく記載者が軍艦マニアだったのでしょう。

ドレッドノートは建造当時は画期的な巨艦で各国の戦艦の大きさの基準となりました。日本では同等の大きさの戦艦を弩(ド)級戦艦、それ以上を超弩級戦艦と呼びました。あのヲタク系アイドル、中川しょこたんが一時期連発していた「弩級」の語源です。

*こんな写真を紹介するのは場違いで気が引けるのですが、これが戦艦ドレッドノートです。しかし約30年後に作られた大和と比べるとまるで巡洋艦ですね。

画像④

 

そして画像③の右端はアニアの新作、アルゼンティノサウルス。相変わらず可動部の隙間が気になりますが、プロポーションはなかなかです。

 

なぜ最近のティタノサウルス類が(復元画も含め)このように表現されるのかは不明です。何か根拠があるのでしょうが、ネットでは答えは得られませんでした。いずれ判ったらご報告します。

 

ティタノサウルスそのものを名乗るフィギュアもあったのですが…

 

画像⑤

セガトイズの恐竜キング・恐竜王列伝シリーズのティタノサウルス・コルバーチ(2008)は

残念な事に発売前の2003年にイシサウルスと改名されていました。制作時のデータが古かったのでしょうか。

 

青い方はアニア・のび太の新恐竜シリーズの「新恐竜島プレイマップ」に付属していたもの。商品名はティタノサウルスですが、劇中でスネ夫がアラモサウルスと呼んでいました。舞台が白亜紀の日本なのでアラモサウルスではまずいという科学的配慮なのでしょうか。

 

ティタノサウルス類のフィギュアは他に、オピストコエリカウディアが味覚糖コレクト倶楽部から出ていていますが、持っている筈なのに探し出せませんでした。こういう時頼りになる「恐竜おもちゃの博物館」をご覧ください。

 

 

ティタノサウルス形類フィギュア

 

ブラキオサウルスのフィギュアを取り上げると収拾がつかなくなるのでスルーして、ここでは日本で発見され記載された、タンバティタニスとフクイティタンをご紹介。

 

タンバティタニス
画像⑥

 

海洋堂カプセルQミュージアム恐竜発掘記「日本の恐竜」(2016)

 

地元で売られていた1/40丹波竜(2014)

学名が付けられたのは2014年8月ですが、我が家にあるパッケージにはまだタンバティタニスの名前は付いていません。原型は徳川広和さん。制作はフェバリット。

 

丹波竜焼(2016)

これも地元のオリジナルグッズ。焼き物ですが、原型は丹波の化石研究の中心的人物で22年に惜しくも亡くなられた三枝春生博士による3Dデータ(展示されている全身骨格と同じ)を基にした本格的な造形です。

 

*先日記載され、一般ニュースでも報道された丹波の小型角竜ササヤマグノームス・サエグサイの種小名は、三枝博士に献名されたものです。

 

フクイティタン

画像⑦

 

フェバリットのミニモデルシリーズの「高島屋・発掘恐竜王国展」限定バージョン(2024)。限定と言う言葉につられてつい買ってしまいましたが、オリジナルの色の方が断然良いです。

 

カバヤ食品のほねほねザウルス(2019)

こちらも琥珀色(2016)、金色(2018)のバージョンがあります。とても集めきれませんが。

 

出来る事なら、フクイティタンの1/40のフィギュアをタンバティタニスと並べてみたいものですね。

 

これら日本のティタノサウルス形類と近縁とされるのが古くから知られる中国のユウヘロプスです。(日中戦争の最中に出版された本に載っている図版を、新秘宝館Vol.70で紹介しています。)

このユウヘロプスの唯一?のフィギュアが地元中国のPNSOから発売されていました。1/20で立ち上がっているポーズですが、現在は手に入らないようです。(残念ながら持っていません)

もう一種、前述の小畠郁生著「恐竜博物館」のくだりで名前を挙げた北米のティタノサウルス形類アストロドンも、かってフィギュア化されていました。私のバイブルとなっているコレクター本「DIOSAUR COLLECTIBLES」の中で見つけた物でSAURIAN STUDIOSという90年代アメリカのガレージキットメーカーのレジンキットです。アストロドンが4匹のユタラプトルと戦っているジオラマで、あの有名なウィリアム・スタウトのイラスト、デイノニクスVSテノントサウルスのパロディになっています。

 

今回、これだけティタノサウルス類について利口になれたのはパタゴティタンのおかげ。

感謝です。

最後に2度目の「巨大恐竜展」で、もはや買う物が無く、仕方なく?買ったパタゴティタンぬいぐるみキーホルダー(大きなぬいぐるみはさすがにパス)と、会場限定ガチャを早々にあきらめてヤフオクで手に入れた、海洋堂製パタゴティタンの骨格/生体フィギュアです。色違いには眼をつぶる事にしました。

 

画像⑧

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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。