新恐竜秘宝館

Vol.86 リバース!!

今年の夏は首都圏で大きな恐竜展がひとつも開催されず寂しい限りでしたが、個人的には8月の頭に恐竜倶楽部の旅行で福井県立恐竜博物館、後半に演奏ツアーに引っ掛けて北九州いのちのたび博物館に行くという、久々に恐竜三昧の夏を送ってしまいました。しかもこの原稿がアップされる10月頭には、恐竜倶楽部で行く長崎恐竜博物館と御船町恐竜博物館のツアーが控えています。このような事はこの10年来無かった事。恐竜博物館巡礼リバースです。

 

福井、北九州の博物館はどちらもリニューアル後初めての見学です。

福井では「獣脚類2025」展を開催中。至れり尽くせりだったスピノサウルス関係の展示(天井から吊り下げられ美しくライティングされた遊泳スタイルの全身骨格は、神々しささえありました!)や初めてお目にかかったアジアティラヌスなど非常に見ごたえのある内容で、会場を2巡して堪能しました。

その夜は実に20数年ぶりの、地元勝山恐竜研究会と恐竜倶楽部の交流会で盛り上がるというおまけもありました。

翌日は常設展見学。目当てだったブラキロフォサウルスのミイラ化石レンタル中の実物!)や、圧倒的な数の恐竜の全身骨格レプリカはもちろんですが、他では見られない単弓類や主竜類のコレクションは見入ってしまいました。

ただ、お手頃で目新しいオリジナル恐竜グッズがこれと言って無かったのは残念。図録数冊とフクイベナートルのヌイグルミ(小)を買って良しとしました。 

ひとりで行った北九州いのちのたび博物館でも、夏の特別展、現生から古生物までの骨格を集めた「Bones2」を開催中。規模こそ小さいものの興味深い展示が数多くあり、勉強になりました。心行くまで見た後恐竜骨格のパレードが見られる常設展示へ。恐竜や絶滅哺乳類の全身骨格が同じ方向を向いて行進している「アースモール」のヴィジュアルは期待通り圧巻でした。ティラノサウルススタンとギガノトサウルスが肩を並べている姿は他では見られません。さらにスタンに加えて日本での常設はここだけというスーがいたのはありがたやまでした。

こちらもお土産には恵まれず、プテラノドン骨格ヌイグルミを買ったのみ。

 

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福井恐竜博「獣脚類2025」のスピノサウルス。並んだ椎骨は、第2次大戦で失われたホロタイプ標本の復元模型です。アジアティラヌスは2024年に記載されたばかりのティラノサウルス科。なんと実化石だそうです。*他にメガラプトル類なども充実していました。

常設展の方は見事なブラキロフォサウルス・ミイラと恐竜形類ラゴスクス改めマラスクス(図録ではラゴスクスのままでしたが)、獣弓類マセトグナタス、シノカンネメイエリア復元、小さなパレイアサウルス類。

いのちのたび博物館「Bones 2」から、オヴィラプトル類アンズーのバラバラ状態で並べられた全身骨格と寛骨臼が貫通している(お前は恐竜か!)イリエワニの骨盤、いい味丸出しのハリモグラ。

常設のティラノとギガノトのツーショットに懐かしのスー。そしてここにも遊泳スピノがいましたが、尾は旧復元でした。

両博物館の戦利品、フクイベナトールとプテラノドン骨格のヌイグルミ。

 

さて、この夏のもう一つのリバースと言えばもちろん「ジュラシック・ワールド 復活の大地」。(原題:JW Rebirth

初日に2D字幕版、そして何かと確認のため9月に入ってから吹き替え版を観に行きました。吹き替え版はネット上で、スカーレット・ヨハンソン・ファンの怒りを買っていたのでどんなものかという興味もありましたが、私としては、感情の入っていない吹き替えは、画面に集中する邪魔にならずにストーリーを追えたので、かえって良かったです。その肝心のストーリー、前回の秘宝館で危惧したZ級おバカ恐竜映画ではありませんでしたが、モヤモヤは残ります。

ネットには古くからのジュラシック・ファンからの不満の声が多く挙がっています。集約すれば「恐竜をもっと見せろ!」です。途中参加家族のどうでもいいファミリードラマを延々と見せる暇が有ったら一匹でも多くの恐竜を出せという事、ごもっともです。このストーリーの中に子供を無理なく登場させるための苦肉の策だったのかもしれませんが、家族関係の説明―娘と結婚間近のチャラ男の事を父親と幼い妹はうさん臭く思っている云々など知りたくもない話がちょっと冗長過ぎました。

かっての名シーンの再現も、多すぎて少々鼻につきました。冒頭の、研究所の職員がスナックの包装紙を無造作に捨て(2度見で確認しましたが明らかにわざと捨てています)大惨事が起こるという失笑を買ったシーンは、JP1の愛すべき悪役、スナック好きでだらしのないネドリーへのオマージュなのかもしれませんが、JP1でのガラスがラプトルの鼻息で曇るシーン、発炎筒でティラノを誘導するシーンをミュータント怪物に演じさせるのはヴェロキとティラノに対する冒瀆だあー!とつい憤ってしまいました。JW1の、20年ぶりのレクシィの発炎筒シーンには感動しましたが…。

他にも,モサやスピノとの船上でのカラミはあからさまに「ジョーズ」でしたし、ジャングルの沼に潜む正体不明の蛇の様な生物もよくありがち。記憶に残る所では「SW帝国の逆襲」のダゴバ星のシーンかな。ビデオを観たらさらにたくさんのデジャブ―なシーンが発見できるでしょう。楽しみと言えば楽しみですが。

そもそも、恐竜が環境に適応できず再び絶滅しかかっていて中生代の環境に似た赤道地域でのみ生息しているという、これまでのシリーズの流れをたったの一言で無かった事にする、何一つ説得力のない舞台設定はあまりにも雑過ぎます。

それに、心臓病の特効薬を作るために「巨大な心臓を持ち長生きする中生代の陸海空の巨大生物(少なくとも吹き替え版では古生物学者までもが恐竜と呼んでいました…)の血を採取する…というのは子供だましが過ぎませんか?百歩譲って彼らのDNAが効果があるとしても、そのDNAはそもそも人間が作ったものではなかったでしたっけ。それに巨大恐竜のDNAを採りたいのなら街中にアパトサウルス?が転がっていたではないですか!もう少し頷けるストーリーを考えて欲しかった…などと愚痴っていても始まらないので、登場した古生物の感想や新たに購入したフィギュア紹介に移りたいと思います。

 

アクイロプス

私のこの映画イチオシの恐竜です。とにかくレアな種類です。私もついこの間、新秘宝館Vol.83で基盤的角竜類を調べるまで知りませんでした。フィギュアは「復活の大地」以前は中国のメーカーから発売されていた1種のみ(Vol.83に写真を載せたレプトケラトプスと同じシリーズ)でしたが、映画のおかげで一気に増えました。

映画での役どころは癒し系赤ちゃん恐竜と言ったところで、愛想を振りまくだけで何の活躍もしません。発見された化石は亜成体で60cm程なので、あの大きさで赤ちゃんキャラは少々無理があるのですが、そのせいか発売されたのはディフォルメ物やヌイグルミばかりで、スケールモデルと言えるものはアニアの物の他は、中国のDINO DREAMと言うメーカーの映画を忠実に再現したフィギュアだけ。こちらはリアルなリュックなど小物付きで良く出来ているのですが、それなりのお値段で手が出ません。 

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FUNKOというメーカーのPOP! MOVIESシリーズ、リアルにディフォルメされた?映画のキャラクターのシリーズの物です。守備範囲外のディフォルメタイプの割には、結構気に入りました。

ガチャ「ジュラシック・ワールドごろんとソフビ」(タカラトミー)。こちらもディフォルメながらなかなか良くできているので色を塗ってみました。

アニアは真っ当な出来なのですが,モサとスピノとのセットでしか販売されておらず、両方とも購入済みだった私は泣く泣く買いました。

セガのプライズヌイグルミは欲しくは無かったのですがメルカリで安かったのでなんとなく購入。メダルは映画館のお土産です。

他にマテルから、お菓子を噛む音を出したり飛び跳ねたりする芸を持ったディフォルメ玩具が出ていますが買い控えました。

 

モササウルス

今回のモササウルスは丸々と太ってより巨大化していますが、すっかり優しい巨人になり果てたようです。かっての、サメや人間をジャンプして咥え、翼竜や女子職員をひと飲みし、インドミナスを水中に引きずり込み、オホーツク海ではカニ漁船を転覆させた獰猛さは影を潜め、ヨットを転覆させても投げ出された人は食わないし、主人公たちの船とは並走するだけ。きっとザトウクジラの群れと長年行動を共にしたせいで牙を抜かれてしまったのでしょう。 

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セガプライズのフィギュア。大口を開けたその中は良くできていますが、プロポーションは坦平過ぎて何か変です。脇の水面に出ているのは尾鰭の様ですが…そんな体が柔らかいわけないだろー!

メタルフィギュアは映画館で5千円近い価格で売られていた物。一瞬躊躇しましたが、何か使命感の様な物に突き動かされて買ってしまいました。出来は良いのですがポーズに動きが全く無いのが残念。

ピンバッヂは前売り券の特典です。前作の様に限定フィギュアの方が良いのに…などとつぶやきながらも購入。

そして、アニアのアクイロプスを買った時にダブってしまったモサを無駄にしないためにと、こんなジオラマを作ってしまいました。波型プラ板は家にあったものですが、船と人形、船の前後を加工するための火の見櫓のキット、それと瞬間カラーパテ・クリアーブルーなる物を購入したので結果散財する羽目に。船はNゲージジオラマ用の漁船に船尾のケージの様な物と船首の突出部を付け、それらしく塗装したもの。船体そのものの形が違うのは眼を瞑りました。船首で銃を構えているのは一応スカヨハです。

 

スピノサウルス

今回のスピノは最新型にリニューアルされて、JP3はまるで無かったかの様。JPシリーズのラプトルに気を配ってあえてラプトルに毛を生やさなかったJW1作目とはえらい違いです。そんなスピノですが、モサと一緒にいると小物感が漂ってしまいます。全長15mとしてもモサの半分以下ですから、仕方ないのですが。ルーミス博士は「モサとスピノの共生だあ!」などと喜んでいましたが、私はシロナガスクジラを襲うシャチの群れのごとく、軟弱になったモサに引導を渡して欲しかった…。

とは言え、この映画の中でスピノは最凶の恐竜なのです。人食いランキングではケツァルコアトルス(1人)、Dレックス(1人)を抑えての堂々の1位(2人)です。

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バンダイ・プラノサウルスのJWバージョン。体表の模様はシールを貼るようになっているのですが、これが意外と手こずりました。今回JWシリーズを3体作ったのですが、筆塗りをすればよかったと後悔しています。下の段は映画館で売っていた数少ないオリジナルフィギュアのひとつ、ボトルキャップマスコットと、意外と出来が良かったタカラトミー製ガチャ「バトルアクションフィギュア2」シリーズの物。そして先ほどの平べったいモサと同じくセガプライズのフィギュア。

 

ティタノサウルスとケツァルコアトルス

ティタノサウルスの尾はいくらなんでも長すぎ。ディプロドクスからイメージしたのでしょうが、ディプロのムチならともかく、新体操のリボンみたいなクネクネは如何なものか。監督は幻想的な画が欲しかったのかな?そしてこの映画最大の興醒めシーンが地平線まで見渡す限り続くティタノの群れ。いったいこの島にこれだけの巨大竜脚類を養える土地があるのか?と言う疑問はさておき、どのティタノも首を持ち上げまるで書割の様に動きません、いや実際書割だったのかもしれませんが、今どきこれは無いでしょう。監督は何を伝えたかったのか?意味不明のシーンでした。

ケツァルコアトルスはなかなか良いデザインだと思いました。飛翔シーンが少なくて岩場に張り付いている姿の方が印象に残ったのはちょっぴり残念ですが。

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プラノサウルスのティタノ。なんでこんなに鼻を膨らませているのだろうか…映画にこの様なシーンがあったかどうか思い出せません。プラモ故、尻尾をクネクネできないのが難点。尾椎が途中までしかないのでその先はクネクネした形状にした方が良かったのでは。その右は劇場でコーラなどの蓋に付いていたフィギュア。大雑把ですが感じは良く出ています。

プラノサウルスのケツァルコアトルス

プラノサウルスシリーズは、外皮を被せると可動範囲がかなり制限されてしまうのですが、このケツァルはシリーズの中でも特に動きが悪く、上の飛んでいるポーズ以外はとれません。右の様に岩にへばりつくような芸当はできないので、肩の関節を外し軽く固定、できた隙間は画面上で埋めています。岩山は新秘宝館Vol.82で一部使用した、シュライヒの「洞窟プレイセット」の物です。

 

TレックスとDレックス

映画のティラノはパラサウロロフスを食してひと眠りした後に画面に登場、その後はただゴムボートを追いかけるだけでした。どうせならパラサウロロフスを狩る所から観たかった。思うにこの映画の最大のモヤモヤは恐竜同士のバトルが無かった事ではないでしょうか。唯一のラプトルVSミュータドンも画面には映りませんでした。

モササウルスVSスピノサウルス、ケツァルコアトルスVSミュータドンの空中戦、TレックスVSDレックス(これは企画に挙がったそうな)DレックスVSアンキロサウルスやDレックスVSモササウルスでJW1を懐かしむ…見たくはありませんか?家族ドラマの時間枠を恐竜バトルに使えば、さぞや盛り上がった事でしょうに。

ティラノの太めの造形はまあ良しとして、せめてもう少しあのレクシィを彷彿とさせて欲しかった。何しろレクシイスタイルのティラノはジュラシックシリーズの顔ですから。

Dレックスは映画のラストに、ヘリコプターを噛みつぶしたり、小悪党を成敗したりと、場面によって大きさを自在に変え怪獣らしさ全開で暴れまくるのですが、その実遺伝子操作のミスによって生み出された奇形のティラノサウルスで、恐怖の対象と言うより、不憫に思うべきものでしょう。劇中でも船上で失敗作の怪物の話を聞いた博士が「どうして安楽死させなかったんだ?可哀そうだろう」と問いただすシーンがあるのですが、「大金をつぎ込んだのだから簡単には死なせない」と言うようなにべもない返事が返ってきてあっという間に一見落着してしまいました。この辺りをもう少し掘り下げたら作品に深みが増したと思うのですが。

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ティラノ・フィギュア

セガプライズのフィギュア。下半身がもう少し逞しく尻尾が長かったらいいのに。

劇場限定オリジナルボトルキャップマスコットとタカラトミー製ガチャ「バトルアクションフィギュア2」シリーズ。両方とも悪くないです。

この3種のメーカーは期せずしてスピノサウルスの項と共通しています。

そしてガチャ「ジュラシック・ワールドごろんとソフビ」(タカラトミー)のDレックス。Dレックスフィギュアはマテルから大きなサイズが出ているほか、いくつか発売されていますが、恐竜達と並べて飾るのもどうかなと思いまして購入していません。とりあえずはたまたまガチャで出たこれだけ紹介。アクイロプス同様、彩色しています。

なにかこのポーズ、哀れさを体現していませんか?監督はDレックスのデザインはエイリアンとSWのランコアモンスターに由来すると言っていますが、私はあのエレファントマンを思い出してしまいました。もし次回作で殺される運命なら、せめて安らかな死を迎えさせてやってください。

もう一種のミュータント怪物、ミュータドン(なにか情けない響きのネーミングだ)はフィギュアがひとつも発売されていません。何か事情があるのでしょうか?

こうなると作ってみたくなるもの。

使える素材―地上形態の翼竜とアリオラムスの様な長面の獣脚類で、複数持っていて潰してもいい物―を探してはみたのですが残念ながら見つけられませんでした。 

*オープニングの研究室の一角に設置されたホルマリン漬け?の標本、映像でははっきりとしませんがネット情報によると、ミュータドン開発の過程で生まれた奇形で、双頭のミュータドンだそうです。

最後にひとつ気がかりなことが…

ダンカン船長は皆を救い、島を脱出するボート上で満足げな笑みを浮かべるのですが、自分の船を失ったというのに、スカヨハが正義に目覚めてしまったせいで報酬をもらえないと知ったら…考えるだに恐ろしい…

  

おまけ:妄想ストーリー

「私ならこうするリバース」

かって島でインジェン社が行っていた不法な恐竜再生・改造計画の過程で生まれた奇形種が未だに生かされているとの情報を得たスカヨハをリーダーとする恐竜愛護団体のメンバーが、恐竜虐待の証拠を掴むべく船で島に向かう。当然その船には会社側のスパイも潜り込み、恐竜オタク少女イザベラも密航している。かくして一行は島を守るため会社が放っているモササウルスやスピノサウルスの攻撃をかわし島に上陸。そして苦労の末辿り着いた研究所で見た物は虐待を受けているおぞましくも哀れなDレックスだった。一行も捕えられてしまう。しかしある日、職員ネドリーが不注意にも落としたお菓子の包み紙が元でDレックスが脱走、ここからDレックスの復讐劇が始まる。職員をことごとく食い殺しスカヨハ一行にも迫って来るDレックス。その時、我らがティラノの咆哮が響きわたったのだった。

おしまい。


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。