古生物よもやま話

ミニスカルシリーズやプレヒストリックライフシリーズの総合監修を務める徳川広和氏が隔月でお届けするエッセイコンテンツ『古生物よもやま話』。恐竜だけではない太古に生きた生物たちの一面を、徳川氏の視点から紹介していきます。
第一回目は、ケナガマンモスを中心に、そのほかのマンモス種、絶滅ゾウも交えた大きさの話題。ぜひお楽しみください。

マンモスのサイズはマンモス級?

— 絶滅ゾウとマンモスから大きさを考える —
ケナガマンモス ソフトモデル

マンモス = 大きい、というわけでもない

マンモスといえば、恐竜以外の古生物の中ではトップクラスの知名度でしょう。なにせ大きいものの表現として「マンモス級」という言葉があるくらいです。ですが、マンモスとしてイメージが一般化している「毛が長くて大きな牙を持つゾウ」であるマンモス属のプリミゲニウス種、通称ケナガマンモスは特に体が大きいわけではありません。体の大きさなら現在生きているアフリカゾウやアジアゾウとそれほど変わらないのです。

 

では「マンモス級」という表現が間違いかというと、そうでもありません。同じマンモス属のトロゴンテリー種(通称ステップマンモス)やコロンビ種(通称コロンビアマンモス)などはゾウのなかま全般の中だけでなく陸生哺乳類としても特に大きい部類になります。これらのマンモスのなかまより大きい可能性のある陸生哺乳類として挙げられるのは、パレオロクソドン属のレッキー種(通称レッキーゾウ)などのゾウ、それにサイのなかまであるパラケラテリウムでしょう。コロンビアマンモスやステップマンモスなどのマンモスのなかまが確実に史上最大の陸生哺乳類とはいえないようですが、それに近い大きさであることは間違いないようです。

松花江(しょうかこう)マンモス(世界最大級のステップマンモス 茨城県自然博物館)
松花江(しょうかこう)マンモス
(世界最大級のステップマンモス 茨城県自然博物館)
コロンビアマンモス全身骨格(アメリカ・ペイジ博物館)
コロンビアマンモス全身骨格
(アメリカ・ペイジ博物館)

とはいえ、やはりケナガマンモスは魅力的

体の大きさだけなら特に目立たないケナガマンモスですが、体に対して長く、そして大きくカーブした牙の存在感は他のゾウ類と比べても圧巻。さらにケナガマンモスが化石ゾウの中だけでなく古生物全体の中でも特異なのは、シベリアの永久凍土の中から発見される氷漬け遺体の存在です。それによって普通の古生物ではほぼ想像するしかない、生きていたときの肉付きや毛並み、色、その他細かい部分がわかっています。

ケナガマンモス ソフトモデル ケナガマンモス ソフトモデル

私がフェバリット社の商品原型としてマンモスを制作した際も、通常の古生物復元とは違う資料の豊富さと、それが故の独特な資料の見方等、古生物復元模型作家として学びなおす事が多く、復元という作業の幅広さを知る楽しい経験にもなりました。しかし、それでもなお、わからない部分が多く、それもマンモスの魅力・面白さでもあります。

日本にいたマンモス、そして その他のゾウ達

日本で見つかる化石ゾウといえばナウマンゾウ(パレオロクソドン・ナウマンニ)を思い出す方も多いのではないでしょうか?
実際に野尻湖を初め国内各所で化石が発見され、多くの博物館等に部分化石及び全身骨格が展示されているので、日本を代表する化石ゾウといっても良いかも知れません。マンモス属の中にも日本に生息していたものがいました。ケナガマンモスに加えて、プロトマンモンテウス種・通称ムカシマンモスと呼ばれている種の化石が発見されており、これはその名前の通りケナガマンモスの先祖にあたると考えられています。

ナウマンゾウ(岐阜県博物館)
ナウマンゾウ(岐阜県博物館)

 

更に日本にはさまざまなゾウのなかまが生息していました。ステゴドン属ならミエゾウ(ステゴドン・ミエンシス)や、日本に来て島嶼化して小型になった事で知られるアケボノゾウ(ステゴドン・アウロラエ)等。そのほかにもステゴロフォドンや、上下左右に4本の牙を持つゴンフォテリウムのなかまも化石が見つかっています。大陸から多くのゾウのなかまが日本に渡ってきて、新たな環境に適応した種も生まれていたのです。

アケボノゾウ(埼玉県立自然の博物館)
アケボノゾウ(埼玉県立自然の博物館)

 

以前の私はナウマンゾウとマンモスの違いも、また日本に多様なゾウのなかまが生息していたこともあまり良くは知りませんでした。博物館でゾウの化石や骨格を見ても「あぁ、ゾウか」という感想くらいだったのです。その後、古生物学会等に参加するようになり、研究者の皆さんにいろいろと化石ゾウのお話を伺える機会も増えると、その面白さもわかるようになり、現在では博物館でのさまざまな化石ゾウの展示を見るのが楽しみになりました。日本国内で化石が発見され、また多くの組立骨格の展示がある大型古脊椎動物といえば、やはりゾウが代表でしょう。それだけにそれぞれの博物館の展示にも何かしらの特色があるはずです。皆さんの近くに化石ゾウの展示がある施設があれば、ぜひ改めて見直してみて下さい。

参考文献
  • 「化石は語る」 著・高橋啓一 八坂書房 2008
  • 「日本の古生物」 著・土屋健 笠倉出版社 2019
  • 「新版 絶滅哺乳類図鑑」 著・冨田幸光 丸善株式会社 2011
  • 特別展 マンモス「YUKA」図録 読売新聞社 2013
  • 太古の哺乳類展 図録 読売新聞社 2014

また今回のエッセイ執筆にあたり、渡辺克典氏(鳥取県立博物館)にご協力頂きました。


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徳川 広和 Hirokazu Tokugawa

株式会社Actow代表取締役。
日本古生物学会会員。

1973年福岡生まれ。学術的な考証と立体物としての魅力が融合した作品製作をめざす恐竜・古生物復元模型作家。
博物館・イベントでの作品展示や商品用原型等を制作。『恐竜の復元』(学研)『なぞにせまれ!世界の恐竜』(汐文社)『ほんとは”よわい恐竜”じてん』(KADOKAWA)等の書籍へ作品、イラストを提供。
恐竜・古生物に関する各種イベントやワークショップの企画、講演などの活動も行う。

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