バージェスの名脇役たち
意外と奥の深いウィワクシア
ウィワクシアについては、バージェスの風景を描いたイラストやジオラマ等には大抵いるけど海底でじっとしている、バージェスモンスターとしては地味な動物、という印象でした。泳いだり出来そうにありませんし、単体でクローズアップされてもやはり地味目。もちろん、これにはバージェスの他の動物たちが奇妙すぎて、という部分も大きいのですが。アノマロカリスやハルキゲニアのように、復元の移り変わりについての逸話も無いですし、ほとんど感心をもたずに来ていました。それがフェバリット社のプレヒストリックライフ ミニモデルシリーズ原型制作のために資料を集め始めると、意外な面白さが分かってきました。いろいろな復元を見てみると体を覆うウロコの並び方には諸説あるようで、それぞれに違いがあります。ミニモデルシリーズ原型制作の際には、その少し前に発表されていた研究結果を参考にしましたが、研究の進展で更に新しい復元が出てくるのでは、と思っています。また色については構造色だった、という説があり、これを元にすれば金属的で鮮やかな色合いの可能性があります。その視点で見ると、体のデザインも構造色が映えるもののように思えますし、実際ウィワクシア ミニモデルでも構造色を意識した彩色にしました。一見地味なようですが、やはり他のバージェスモンスター達と同じように面白い、そしてこれからの研究が楽しみな古生物なのです。
丸さが魅力のカナダスピス
カナダスピスの姿は私にとっては映画「ダーククリスタル」に登場するモンスター、ガーシムを連想させるものなのです。ガーシムは大きなハサミ状の右腕を持ち、カナダスピスよりもずっと攻撃的なデザインなのですが、大きな殻を背負った基本的なデザインが共通していて、「ガーシムの幼生はカナダスピスのような姿では」と想像したり。ガーシムはずっと一度自分で造形してみたいと思っている題材なのですが、なかなかその機会がありませんでした。なので、プレヒストリックライフ ミニモデルシリーズの原型としてのカナダスピス制作は私のガーシム造形欲の発散にもなりました。またカナダスピスは殻の内部の体の構造についての資料もあり、それを元に裏側(腹側)の造形も出来ました。これによってパッと見のデザインのシンプルさに対して、ひっくり返して腹側を見るとディテールが多いという面白さがあり、これは様々な方向から見ることができるフィギュア商品ならではでしょう。全体的に丸みのあるデザインもカナダスピスの魅力です。カナダスピスが属するHymenocarina類の中でもカナダスピスは殻の後ろに伸びる腹部が短い部類になり、丸みのある殻からチョコンと飛び出した眼と短い腹部というデザインには他に無い「可愛さ」があります。個人的にはバージェスモンスターの中のマスコットキャラ、という位置づけになり、これもまた造形していて楽しい要素でした。
バージェスモンスターと言えば、人気&知名度筆頭はやはりアノマロカリス、その次にオパビニア、ハルキゲニアと続く、といった感じでしょうか? 確かに形の面白さや不思議さでその3種は代表格と言われても納得ですが、今回取り上げたウィワクシアやカナダスピス等のような、脇役というには勿体ない個性派たちが多くいる事もバージェスモンスターの魅力を大きく底上げしていると言って間違いないでしょう。バージェスの様々な動物たちをじっくりと見直す事で、改めて新たなお気に入りが見つかるかもしれないですし、化石や展示を見る楽しみも広がると思っています。
参考文献
- 「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」 著・土屋健 技術評論社 2013年
- 特別展「生命大躍進」図録 NHK 2015年
大変多くの方にご覧いただいておりました「古生物よもやま話」は、今回の更新で一旦休載となります。
ご多忙の中、原稿執筆にご協力いただきました徳川広和様に改めて御礼申し上げます。
ご愛読ありがとうございました。
徳川 広和 Hirokazu Tokugawa
株式会社Actow代表取締役。
日本古生物学会会員。
1973年福岡生まれ。学術的な考証と立体物としての魅力が融合した作品製作をめざす恐竜・古生物復元模型作家。
博物館・イベントでの作品展示や商品用原型等を制作。『恐竜の復元』(学研)『なぞにせまれ!世界の恐竜』(汐文社)『ほんとは”よわい恐竜”じてん』(KADOKAWA)等の書籍へ作品、イラストを提供。
恐竜・古生物に関する各種イベントやワークショップの企画、講演などの活動も行う。