新恐竜秘宝館

Vol.62 サン=サーンスからゴジラまで~最近の我家の恐竜事情

という事で今回は特にテーマは無く、この夏から秋にかけての私の身の回りで起きた恐竜的出来事を綴ってみました。

 

日本最古の魚竜発見!

前回までの魚竜特集を引きずっていますが、もちろん「ウタツサウルス以前の魚竜化石が発見された!」などというサイエンスな事ではなく、私が以前から興味を持っている明治時代の古生物が記載された書籍のお話。

今まで最古の古生物記述は明治11年(1978)刊、岩倉具視使節団が明治5年にクリスタルパレス・パークで「前世界の獣」を見学した時の模様(新秘宝館Vol.23)が記された「特命全権大使米歐回覧實記 第二篇」(博聞社)。そして古生物の図版と説明が載った本は明治12年(1879)の「生種原始論」(ハックスレー・伊澤修二訳)でした(新秘宝館Vol.6

今回発見したのはさらに遡ること3年、明治8年に文部省から発行された「具氏博物学・巻です。グードリッチというアメリカ人の著書の翻訳本で、どうやら小学校の教科書の様です。(明治9年版)

漢字とカタカナで書かれているうえ印刷も悪く、とても読めたものではりませんが、かろうじて「イクチオソリュース:古代動物ノ名ニシテ魚ニ類スル蜥蜴ト云ウ義ナリ」「プレシオサアリュース:蜥蜴ニ似ルト云ウ義ナリ」などと判読できます。

 

明治8年と言えばまだお侍が刀を腰に差していた時代(廃刀令は明治9年)。西郷隆盛が西南戦争を起こすのが明治10年と、まだまだ騒然とした世の中だったのに、その中で小学生が古生物や宇宙の事を勉強していたなんて、なにか感動的ですね。

 

この時代、まだ他にも古生物を取り上げた本があるはずです。うまくめぐり逢えると良いのですが。

(画像1)「具氏博物学」の表紙とイラスト。表紙の手書きの文字は留・第23号と読めますが意味は不明です。今の図書館の本の背ラベルの様な物でしょうか。

 

サン=サーンスの「化石」の正体

その約10年後の1886(明治19)、フランスの作曲家サン=サーンスが組曲「動物の謝肉祭」を作曲します。これは今日でもよく演奏されるクラシックの人気曲で、とりわけその中の一曲「白鳥」のメロディはどなたも一度は耳にしたことがあるかと思います。この組曲は、象や亀、カンガルー、ロバ、それにピアニストなど現生の動物をテーマにした全14曲からなるのですが、一曲だけ「化石」と題された曲があります。その曲の意図は曲の中に散りばめられた古い曲のメロディーで、嫌いな作曲家の時代遅れの音楽をおちょくるといったブラックなものらしいのですが、そんなことより化石の正体が気になります。

 

ドレミ出版の楽譜の解説で、和田則彦というピアニストの方が「草木も眠る深夜の博物館で化石たちがジグジグジグとガイコツ踊りを始めます。」と書いています。化石人類の骸骨が躍るユーモラスなイメージで、そのようにイラストが描かれることもあるのですがこれは明らかな間違い。恐竜の化石だという動かぬ証拠があるのです。なんと作曲者自身が自筆の譜面にスケッチを残していました。稚拙な絵で前足も無いのですが獣脚類以外には見えません。ティラノサウルスの様な恐竜…とここまではネットにも挙がっている情報です。恐竜マニアとしてはその先に行かなければなりません。種の同定です。

 

実はそれほど困難な事ではありません。サン=サーンスはどこかで実物か図版を見た記憶を頼りにこの絵を描いたと思われますが、この曲が作曲された1886年時点ではティラノサウルスもアロサウルスも発見されておらず、知られている肉食恐竜は極わずか。当時最も一般に有名で、ディケンズの小説「荒涼館」にもその名が出てくるメガロサウルス(新秘宝館Vol.19)はまだ4足歩行で全身骨格図も無いので除外(2足歩行の骨格図が発表されるのは1897年)。1869年にはあのエドワード・コープが2本足で立つラエラプス(後のドリプトサウルスでティラノサウルス上科とされます)を描いていて、似ていないこともないのですが、こちらも骨格図は無いので、この絵から作曲家ごときが骨格を想像するのは無理でしょう。残るはこれです。1861年に描かれたコンプソグナトゥスの骨格図。これはいけるのでは?実際の化石とは違い下向きに描かれた尾(デザイン上の問題か?)などそっくりです。難点は後ろに反り返った頭骨ですが、これは1868年に発表されたトーマス・ハックスレーによるコンプソグナトゥスの生体図を参考あるいは混同した結果と思えば無理はないのでは。歯並びも似ているし。

「サン=サーンスの恐竜はコンピ―だった!これは音楽史を揺るがす大発見だ!」と声を大にして発表したいところですが、誰も相手にしてくれないでしょうね…。(画像2)

ちなみにハックスレーは前述の明治12年刊「生種原始論」の著者です。

 

どうしてこのような事を調べたかというと、実は先日、横浜のライブハウスからソロピアノのライブ配信をしまして、その時恐竜コーナーも設けました。恐竜の説明をしながらそれにちなんだ曲を演奏するという趣向で、「化石」の他に「直立猿人」というジャズの名曲や新秘宝館Vol.3に演奏音源を載せたことがある「100万年前の世界」などを演奏しました。

今月いっぱいは配信されているので、有料なので心苦しいのですが、興味のある方はご覧になって下さい

(画像3)せっかくのコンプソグナトゥス登場なので、この機会にコンピ―のフィギュアを並べてみましょう。ジュラシック・パーク・シリーズで群れをなして大活躍している割には意外と数少ないのです。確かにそのインパクトに欠けるみてくれは小型肉食恐竜界ではラプトル類に大きく後れを取りますが、実は発見当初から鳥との関係を取り沙汰された重要な恐竜であり、あの羽毛恐竜1号シノサウロプテリクスもその一族なのです。

中央はフェバリットの絶版1/1シリーズ。実に優雅です。これが絶版とは実にもったいない…。このシリーズ、他に始祖鳥とスキピオニクスがありました。左下は比較的最近のPAPOの製品。右上は左から、ついこの間の新秘宝館Vol.59で作ったオーロラ・ジャングルスワンプの物、シュライヒのプレイセットに入っていた色違いの2匹。そしてJP3のローソン限定食玩(海洋堂制作)JP23匹です。他にもJPシリーズ関連の物がいくつかあるようですが我家にはありません…多分。

JPシリーズと言えば、来年のJW3公開を前にフィギュアがとめどなく発売されています。もはやギブアップするしかありません。最近発売されたマテルの物の中で買ったのはマシアカサウルスのみで後はかろうじて堪えています。もっとも千円以下のアニアの新シリーズはつい買い揃えてしまいましたが。

 

ふたつの「ナゾの恐竜王国」の謎

コナン・ドイル「ロストワールド」の翻訳が新たに二つ見つかりました。

*このコーナーは、新秘宝館Vol.30と丁度一年前のVol.56を合わせてご覧ください。

 

どちらも小学館の学年別学習雑誌で「小学五年生196212月号」と「小学四年生196712月号」に掲載されました。五年生の方は絵物語で、絵を担当するのはあの巨匠・小松崎茂です。四年生は漫画で岸本修が描いています。

タイトルは何故か両方とも「ナゾの恐竜王国」に統一され、子供が感情移入しやすいようにでしょうか、大幅にアレンジされています。では細かく見て行きます。

五年生版

中扉に三つ折りになった獣脚類VS竜脚類のいかにも60年代的でおおらかなカラー格闘シーン(指の数などを数えるのはもってのほか)と、登場人物紹介があります。なんと主人公は日本人親子でオリジナルメンバーはロクストンしか出てきません。物語はいきなりアマゾンから始まりますがその後は比較的原作通り進みます。一行が最初に恐竜と出会うシーン、「67メートルもある動物がうしろ足で立っている。前足で大木をかかえ、バリバリ倒し、木の葉を食べ始めた。」と原作通り描写され、セリフも「大昔の動物、きん竜だ。」なのですが、悲しいかな小松崎画伯は禽竜イグアノドンをご存じなかったようで、竜脚類が後足立ちしている姿を描いてしまいました。しかしこの図、よくよく考えてみればルネサンス期に一世を風靡しニューヨーク自然史のバロサウルスやジュラシック・パークのブラキオサウルスがとったポーズ。画伯は図らずも時代を4半世紀ほど先取りしていたわけで、さすがです。もっともこの説、現在ではほぼ否定されていますが。

その後、翼竜の沼やアロサウルスの夜襲、猿人退治などの名シーンが描かれ、ロンドンのシーンこそありませんが、納得いく展開です。(画像4 小学五年生1962/12 P20~P43

四年生版

中扉はカラーで本編には登場しないイグアノドンが描かれています。こちらはオリジナルメンバー4人に加え、なんとチャレンジャーの息子ジムとサマリーの娘エリザベスが加わるという仰天設定。イグアノドン代わりのトラコドンとアロ代わりのティラノがブリアンの絵丸写しといったツッコミどころはあれ翼竜辺りまでは順調なのですが、その後ばったりと恐竜が出なくなり、原住民の助けで猿人を蹴散らしてめでたしめでたしという、いささか物足りない展開。特別出演の少年少女もあまり活躍しませんでした。(画像5 小学四年生1967/12 P209~P237

*この漫画は岸本修選集㉑「太郎冒険記」(2006アップルBOXクリエート)に収められています。

 

なぜ「ナゾの恐竜王国」というタイトルのロストワールドが学年別誌にふたつも掲載されたのか、他にもあるのかなどは今のところ判りません。ロストワールドの翻訳・翻案物は改訂版・新装版を含めると判明したのはこれで62冊にもなりました。まだまだありそうですが。

 

前回報告の夏の二つの恐竜展に続き、9月に入ってからも新宿の「ミネラルフェア」と久々の「博物ふぇすてぃばる」「神保町ウンダーカンマー」そして横浜赤レンガの「こぶりな恐竜展」に行ってきました。グッズ的にはやや不発でしたが一応ご報告。(画像6)

 

左から「ミネラルフェア」で購入の1/13トロサウルス。新秘宝館Vol.58で紹介したTレックス「Tafts-Love-Rex」と同じシリーズの物でニコルと名付けられた頭骨復元模型(テイト地質学博物館)を3Dスキャンして作った物だそうです。こちらで実物化石と復元模型の写真を見ることができます。

そういえば「Tafts-Love-Rex」のフルサイズのレプリカが恐竜科学博に来ていて、いわば我家の住人の兄弟に会った様なものですから、ちょっと嬉しくなったことを報告し忘れていました。

 

その隣は「博ふぇす」の戦利品。「プラネヴィア」の新旧ハルキゲニアのメタルフィギュア。秘宝館でもお馴染みの「サンガッツ本舗」のダンクレオステウス。そしてなんと、恐竜好きの小学5年生がお母さんとデザインしたというプテラノバッグ。また楽しみな恐竜少年が現れて嬉しい限りです。こちらにアクセスしてみてください。

 

お次は「ウンダーカンマー」。目新しい古生物関係グッズは無かったのですが、路上博物館というブランドの「博物館の骨格標本ガチャ」略して骨ガチャというのが置いてあり、実際に博物館に所蔵されている現生動物の骨格標本を3Dスキャンした全18種の頭骨ミニチュアが1500円で出てくるというのでトライ。科博のツキノワグマ、麻布大学のトラに科博のアジアゾウをゲット。古生物だったらとことんやったところですが、現生なので3回で力尽きました。しかしこれがなかなかの出来で、もっとやればよかったと今になって後悔しています。

 

「こぶりな」はタイトルに偽りなく本当にこぶりな展示内容で、お土産もアートな絵葉書以外はどこにでもある恐竜グッズでしたので絵葉書数枚を購入してよしとしましたが、神流町恐竜センターが展示物を提供していて懐かしい恐竜達に会うことができたのは収穫でした。とくにあの闘争化石が私の地元で見られるとは嬉しい限りです。

 

私の記憶に間違えなければ、90年代後半、闘争化石のホンモノが今は神流町となった中里村恐竜センターに来ていました。そこで1年位かけて日本人スタッフの手で今の状態までクリーニング。私はその使用前使用後を実際に見る機会があって、その技術に感嘆した…ようなかすかな記憶があるのですが…。

その後実物はモンゴルに還され、恐竜センターに安置され今横浜に来ているのはその際に作られたレプリカ(1号と思いたい)です。というのは私のあまり当てにならない情報ですが、この展示会は10月いっぱいやっているので、近くの方はぜひ行ってみてください。闘争化石だけで1500円払う価値は十分あります。

 

さて去年の今頃は余った夏の予算で高価な戦前の「ロストワールド」訳本を買ったのですが(新秘宝館Vol.56)、今年も予算に余裕ができたので、このところアマゾンで気になっていた中国産の古生物骨格模型を立て続けに購入してしまいました。このごろの中国人(おそらく若者)の恐竜造形のクオリティには眼を見張るものがあります。

(画像7)

左)1/20デイノケイルズ:市販の骨格模型としては世界初では?フェバリットのスケルトンモデルのティラノやトリケラと並べられます。値段は少々高めの4万円程ですがそれに見合う出来だと思います。科博での復元より背骨の並びなど自然に見え恰好いいです。

右)ディプロカウルス:こちらは「ほねほねザウルス」に次いで2番目。菊石(中国でもアンモナイトの事をこう呼ぶのでしょうか?)というメーカーの全長40cm程の物ですが実に繊細にできています。指先などよくぞ無事着いてくれたねえとねぎらってしまうほど。仕上がりも良く、生身の魚(肺魚?)が泳ぐジオラマベース付きで2万円とは安い!しかも豪華な白木の箱に入って来たので何か得した気分になって、中国人の術中にまんまとはまってしまいました。

 

最後になりますが、実は、丁度1年前に小学館の学年別誌付録のティラノサウルスとトリケラトプスの骨格プラモを作ったので(新秘宝館Vol.56)今年もバンダイから発売されたばかりの1/32ティラノ骨格を作る予定だったのです。しかし箱のふたを開けてそのパーツの多さにげんなり。加えてあのジャンピングポーズがどうにも納得できなくて(成体のティラノが飛べるとはとうてい思えません)、何か代わりのポーズを考えても浮かぶのはありきたりなものばかり。で、またにしようという事になり、代わりに1000円ガチャのゴジラ骨格に色を塗ってお茶を濁してしました。

怪獣なのでどうでも良い事なのですが、腓骨が脛骨の内側についているのは何となく許せず左右のパーツを入れ替えました。椎骨の数が少ないのはまあ仕方ないか…。あと、ふと疑問に思って画像検索とかしたのですが、ゴジラの背中の鰭って皮骨板ではなく棘突起が変形したもののようですね。背骨から直接生えています。まあなんだかんだ言いながらも写真にあるようによく遊べました。

写真に使ったベースは80年代のバンダイのプラモデル「ザ特撮コレクション」の初代ゴジラの物で、当時作ったまま部屋の片隅に埋もれていました。実はこのプラモ、最近立ち読みした「ホビージャパン・ヴィンテージ」に取り上げられ絶賛されていて、これなら家にあるぞと思い出して探し出してきたものです。最後の写真がそのゴジラ本体ですが立派な物…なのだと思います。残念ながら手に持ってたセイバー戦闘機はどこかへ飛び去ってしまいましたが。(画像8)


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。