新恐竜秘宝館

Vol.60 魚竜・前編:メアリー・アニングと魚竜フィギョア

521日はあのメアリー・アニングの誕生日だそうです。今年は生誕222年、ゾロ目でめでたい。しかもこの春、彼女を主人公にした映画「アンモナイトの目覚め」も封切られたとあっては取り上げないわけにはいきません。

今回はメアリー・アニング映画や本、私が14年ほど前に行ったライム・リージスの思いで(秘宝館Vol.40も併せてご覧ください)など。そしてアニングと言えばイクチオサウルスということで、そこそこ充実している我家の魚竜フィギュアコレクションを自慢させてください。一回では紹介しきれないので、生体編、骨格編の2回に分けてお送りします。では前編をどうぞ。

 

「アンモナイトの目覚め」

 

1981年の映画「フランス軍中尉の女」の主人公もメアリー・アニングをモデルにしているそうですが、名前も変えられているし、化石発掘もしません。せっかくライム・リージスが舞台になっているというのに登場する化石は、映画の冒頭で、主人公の不倫相手となる地質学者がクリーニングしているアンモナイトのみ。名高い海岸の化石壁「ブラック・ヴェン」も登場しないので、数々の賞をとった名画ではありますが、秘宝館的には残念な映画でした。そこへ行くと今回の作品は、海岸での発掘シーンや化石店の内部、そしてイクチオサウルス化石も登場するのでほぼ満足。「プレシオサウルスとディモルフォドンをなぜ出さない?」とか「新たに発見したイクチオサウルスの頭骨を一晩でクリーニングしてしまうのは噓が過ぎる。」といったクレームは飲み込んでおきましょう。この映画はメアリー・アニングの伝記ではなく、ましてや化石発掘映画などではなく、フィクションの恋愛映画なのです。登場するキャラクターは実在の人物も多いのですが年齢などの設定は変えられています。40歳位と思われるメアリーと、性別階級を超えた恋仲になる若く美しいシャーロット・マーチソン夫人など、実際はメアリーよりも11歳年上です。映画のクライマックス、メアリーは、シャーロットにロンドンに招待され(これは実話)、「私とイクチオサウルスのどちらをとるの?」みたいなよくある展開になって迷わずジェンダー愛よりイクチオ愛を選択し古生物ファンの溜飲を下げ、これにはさすがのシャーロットも悔い改め、めでたしめでたしの大団円、とまあこれは私の個人的な解釈で、本当はもっと深く感動的なストーリーなのだと思いますが。

*メアリーを演じる女優さんは肖像画と見た目も雰囲気もそっくりで見事です。

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(画像1)新旧メアリー映画の化石対決です。イクチオサウルス化石を出すまでもなくアンモナイトのクオリティで「目覚め」の勝ち。イクチオサウルスも、メアリーが13歳の時に発掘した化石を史実に忠実に登場させ、手を抜いていません。(「目覚め」の写真は映画のパンフレットから)

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(画像2)メアリー・アニングに関する本のご紹介

「海辺のたから」

ヘレン・ブッシュ著/沢登君恵訳(めぷん児童図書・心の児童文学館シリーズ1977

少女メアリーがイクチオサウルスを見つけるまでのお話。

「化石をみつけた少女―メアリー・アニング物語」

キャサリン・ブライトン著/せなあいこ訳 

(評論社・児童図書館絵本の部屋2001

約四半世紀ぶりのアニング本。イクチオサウルスを見つけるエピソードが美しい絵で描かれています。

「恐竜の世界をもとめて―化石を取り巻く学者たちのロマンと野望」

デボラ・キャドバリー著/北代晋一訳(無名舎2001

19世紀初頭のイギリスで恐竜発掘に関わった、メアリ・アニング、ウィリアム・バックランド、ギデオン・マンテル、リチャード・オーウィンの四人の恐竜ハンターの話。

「メアリー・アニングの冒険―恐竜学をひらいた女化石屋」

吉川惣司、矢島道子共著(朝日新聞社2003

これ一冊あればメアリー・アニングと彼女を取り巻く人たちの事が全て判る!必携の書。

「恐竜を追った人びと―ダーウィンへの道を開いた化石研究者たち」

クリストファー・マガウワン著/高柳洋吉訳(古今書院2004

こちらも19世紀の化石研究者達の話。メアリー・アニングに1章を、そしてアニング生誕200年記念イベントに集まった人たちと新たに発見された魚竜についてさらに1章あてています。

「化石の記憶―古生物学の歴史をさかのぼる」

矢島道子著(東京大学出版会2008

「メアリー・アニングの冒険」の著者が古生物学の歴史を19世紀から紀元前にまでたどるいうユニークな本。本文にはメアリー・アニングはさわりくらいしか出てきませんが、表紙にはしっかりとその雄姿が。

「海辺の宝もの」

ヘレン・ブッシュ著/鳥見真生訳(あすなろ書房2012

1977年以来2度目の訳本。こちらは化石を描いた挿絵が多数あって楽しめます。

「メアリー・アニング」

北神諒著/矢島道子監修(ポプラ社コミック版世界の伝記2018

コミックと言えどとても詳しく書かれていて為になります。化石もちゃんと描かれています。さらに巻末の資料ページも充実。

 

*そしてこの624日、新たなメアリー・アニングの絵本「きょうりゅうレディ」が発売されます。https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784907108762

 

 

懐かしのライム・リージス

 

 

最近はライム・レジスと呼ばれている(「目覚め」のパンフレットもそうでした)ライム・リージスの、秘宝館Vol.40で載せきれなかった写真をご覧ください。

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(画像3)海に下るメインストリート

今回初めて気づいたのですが、「フランス軍中尉の女」の街並みと同じ建物が写っています。当時のCG技術では風景の加工などできないでしょうから実際の建物を装飾したのでしょうか?「目覚め」にも古い街並みが出てきますが、同じかどうかはビデオを確認するまで判りません。勿論こちらはCG加工でしょうけど。

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(画像4)ライム・リージス博物館

正式名は「ライム・リージス・フィルポット博物館」。メアリーの援助者で年上の友人だったフィルポット三姉妹を記念して建てられた博物館です(「メアリー・アニングの冒険」はフィルポット姉妹の生い立ちまで紹介しています)。下の妹エリザベスは「目覚め」にも意味ありげな役回りで登場します。

 

小さな博物館ですがイクチオサウルスとメアリー・アニングだらけです。下はVol.40でも紹介した当時唯一の博物館オリジナルグッズ「メアリー定規」です。ネットで現在の博物館のショップを覗いても、あまりめぼしい物は有りません。https://www.lymeregismuseum.co.uk/

新秘宝館Vol.21のスケリドサウルスもこの博物館出身かもしれません。

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(画像5)海岸の風景

メアリーが発掘していた聖壁「ブラック・ヴェン」。潮が引いた磯。そして足元を見ると普通にアンモナイトがいますがこれでは手も足も出ません。なので…

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(画像6)お持ち帰りはこのようなもの

崖の下の簡単に割れる転石から見つけた化石です。魚はラッキーでした。どんな魚のどの部分かは皆目見当もつきませんが。

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(画像7)博物館で買った複製画ポスター。

Duria Antiquior or Ancient Dorsetshire」と名付けられたこの絵は、メアリーの幼馴染で地質学者のデ・ラ・ビーチがメアリーの発見した化石をもとに1830年に描いたもので、版画にして売りまくりその収益で貧しいメアリーを援助したとか。表題は「太古のドーセット」という意味だそうですがDuriaが何なのか翻訳ソフトでも判りません。この絵は有名で19世紀の古生物画を集め解説した「太古の光景―先史時代の初期絵画表現」(新評論2009)の表紙にも使われています。

 

さて、魚竜フィギュアの紹介です。イクチオサウルスはモササウルスよりも早く知られ、19世紀には海の怪物の王者的存在だったのですが、今では首長竜や海トカゲ類に比べ影が薄くなってしまいました。やはりともすればイルカに見間違われる見た目のインパクトのなさが原因でしょうか。19世紀のまだ背びれがないころの魚竜は確かに獰猛そうです。

 

恐竜フィギュアが出回りだした195060年代には魚竜のフィギュアは殆どありません。小さな食玩などが一つ二つあるくらいです。

ここで紹介するフィギュアの大半は2000年以降の物。近年はイクチオサウルス以外の魚竜もフィギュア化されるようになり数も増えてきてはいますが、それでも、同様に姿かたちのバリエーションに乏しいモササウルス類にも後れを取っています。あの何でもあり、映画と無関係の単弓類までも加わっているジュラシック・パーク・シリーズのアクションフィギュアのラインナップにも魚竜の姿はありません。残念なことですが、おかげで我が家の魚竜コレクションはかなりコンプリートに近くなっています。

 

それでは古めの70年代と80年代の物からご紹介。

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(画像8)左は80年代後半の海洋堂初期のガレージキット。荒木一成さん原型のコレクションシリーズのもので2体セットで1000円位でした。10㎝程の小さな物ですが素晴らしい出来です。ベースはどこからかの流用。(秘宝館Vol.61

右上は大英自然史博物館(1986秘宝館Vol.41)。下はフランスのスターラックス(秘宝館Vol.6新秘宝館Vol.8)、ロイヤル・オンタリオ博物館のもので、いずれも70年代。

オンタリオ博物館の物は珍しくもステノプテリギウスhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%8E%E3%83%97%E3%83%86%E3%83%AA%E3%82%AE%E3%82%A6%E3%82%B9

となっています。他はイクチオサウルス。見た目の区別はつきませんが。

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(画像9)2000年以降の多様な魚竜たち

左の上からショニサウルス

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8B%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9

2004年のシュライヒ製。ダブリンの博物館で買った思い出の品。(秘宝館Vol.24

その下2体はサファリのイクチオサウルスで2009年と2020年のもの。

右の列は上からオフタルモサウルスhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%95%E3%82%BF%E3%83%AB%E3%83%A2%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9

(ウォーキング・ウィズ・ダイナソー2000年・新秘宝館Vol.8

イクチオサウルス

(ブリーランド レプトプテリギウスと記されていますが詳細不明)

下の2頭はコレクタの物でエクスカリボサウルスhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%9C%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9

2017

テムノドントサウルスhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%86%E3%83%A0%E3%83%8E%E3%83%89%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9

2015)です。

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(画像10)左は小サイズのフィギュアたち。上からサファリ・チューブに入っていたイクチオサウルス。

プレイヴィジョン(新秘宝館Vol.8)のショニサウルス、ミクソサウルスhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%AF%E3%82%BD%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9

コレクタのミニセットのテムノドントサウルス

下左は国産のクローバー1/40恐竜シリーズのソフビ(秘宝館Vol.38)。右はアメリカやカナダでインペリアル・トイというメーカーから売られていたMADE IN CHAINAの物。どちらも80年代です。

 

右は食玩とガチャです。

黒いのはバンダイ「恐竜情景録」のイクチオサウルス。その下はカバヤ「ダイノワールド」のオフタルモサウルス。右の二つは海洋堂で

「カプセルQミュージアム恐竜発掘記」と「チョコラザウルス」。そして下左は元祖チョコエッグ、オーストラリアの「ヤウイ」です。そしてその横は元祖食玩、50年代にイギリスでSHREDDIESというシリアルのおまけに付いていた、今回一番古いものです。(新秘宝館Vol.8

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(画像11)最近の中国製魚竜

48cmもあるオフタルモサウルス、珍しいユーリノサウルスhttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%AA%E3%83%8E%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9

小サイズのオフタルモサウルスに私も知らなかったヒマラヤサウルスhttps://dic.pixiv.net/a/%E3%83%92%E3%83%9E%E3%83%A9%E3%83%A4%E3%82%B5%E3%82%A6%E3%83%AB%E3%82%B9

この頃やる気満々でいい仕事をしているPNSOの製品です。

下はREQURというメーカーのオフタルモサウルス。オモチャ寄りの出来ですがプロポーションは悪くないです。

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(画像12)その他の魚竜

左は主に古生代の生物を集めたぬいぐるみシリーズ「カンブリア紀より世界の動物」の中で異彩を放つショニサウルスとBBCウォーキング・ウィズ・ダイナソー」のオフタルモサウルスのぬいぐるみ。右上は後ろの鰭足が無いのでイルカかもしれませんが、尾ビレは縦で顔つきもとてもイルカには見えない、東南アジア辺りで作られたと思われる木彫りです。その下の2匹は昭和の駄菓子屋で売っていたような風情の2cm程の小さな金属製恐竜シリーズの一つ。右側の物の様にバリだらけでなんだか形がよくわからなかったのですが、左の方のバリを画面上で消してやったらご覧の通り、立派に魚竜でした。

 

魚竜フィギュア生体編は以上です。次回は模型・レプリカなどの骨格編です。さらに10年前の震災で失われた「歌津魚竜館」を振り返ってみたいと思います。

 

*今回記事を書くのにいろいろと検索していたらこんなブログを見つけました。http://dinotoyblog.com/forum/index.php?topic=389.0

アメリカのコレクターが魚竜フィギュア自慢をしています。私が持っていない物も何点かあるのですが、総合的には…勝ったかなと。ついニンマリしてしまいました。


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田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。